第4話 なんかの病気
ある時、初対面の人に「なんでそんな名前にしたんですか?」と聞かれたことがある。
俺としては質問の意味がよくわからなかったんだが、とりあえずこの名前は一緒にゲーム始めた友人がつけたと説明した。
最初にキャラメイクするのに名前考えてなくて悩んでたら、そいつがこの名前なんかどうだ?って提案してきたので採用した。
自分のキャラ名に「かいわれ」とかつけるセンスだから、変な名前だろうと思ったが意外と普通、というか名前の響きは、まあファンタジーっぽくてかつ中二病的なものも感じるので、何も考えずにじゃあその名前もらうわって名付けてしまった。
そして特に名前に関しては疑問も抱かずにプレイを続け、自分のキャラクターのレベルがほぼ上限近くになろうかという頃には、それなりに愛着も沸いていた。
で、なんでそんな名前?の質問に答えたときは、へーそうなんですかーとか適当に返されてその話は終わっていた。
しかしそんな質問をされること自体に疑問がわいたので、後で自分の名前を検索サイトにいれて調べてみた。
そうしたら…
「ヴォルガーさん?」
「俺のことはヴォルでいいって!!何度…も…?」
あれ、俺寝てた?というか寝オチしてた?
つい名前に反応して言いなれた言葉を叫んだ。
「いって!…いてぇ!」
そして仰向けに寝転がってることに気づいて、右手を床について起き上がろうとした瞬間、力を入れた右手がズルっと滑って体ごと何かから床に落ちた。
「だ、大丈夫ですか?」
「いや結構痛い…右肘が床にゴリっていった」
右腕をさすりながら横を見るとソファーがあったので、ここからどうやら体ごと落ちたんだな。
くそ、フローリングの床にエルボーを決めたのがむっちゃ痛い。
だがその痛みで意識がハッキリしてきて改めて思うのだが、倒れる俺を心配そうにのぞき込む金髪の女の子は誰だ。
肩が出てるワンピースみたいな服を着てて胸の谷間がすごい。
あの谷間に肘をいれたら痛みが和らぐ気がする。
その女の子が俺に手を差し伸べてきたので「あ、どうも…」とか言いつつ手を握って起き上がった。
さて…彼女は誰で、そしてここはどこだよ。
見る限りじゃどこかの家のリビングって感じなんだが。
マンション暮らしの俺の部屋では絶対にない。
「会えてうれしいですヴォルさん!」
「え?アイシャ?」
聞きなれた声に思わずそう返した。
「はい!やっぱり私ってすぐわかってくれるんですね!」
「え、いやまあ、声が一緒だし」
姿もどことなくゲームキャラのアイシャと似てるし。
金髪ってところが特に印象強いので。
目も深い青色で一緒だな。
アイシャって外国人だったの?マジかよ、留学生とか?
いやいや、そんなことじゃない。
さっきのゲームではありえない痛みとゲームキャラのアイシャと似た人がいるってことはさ?
「これ、ほわオンの中じゃないよね?」
「ええ、そうです、現実ですよ?」
そっかー現実かー。
「俺どうやってアイシャの家まで来て寝てたのか、記憶がまったくないんだけど!?怖い!何コレ!病気かな!?」
「えっとたぶん…ゲームプレイ中に転移させたので肉体と意識がココに来るタイミングにズレが生じて、そのせいで気を失ったんだと思います。病気ではないので安心していいですよ」
今の説明で安心できる要素あった?
てんいさせた?という部分が特に理解不能なのだが。
「てんいって何?」
「それは…そうですね…ほわオンで言うとポータルのような感じです」
「ああ、街に一瞬で帰還するアレか、つまり転移か、なるほど」
いやなるほどじゃねえ、何言ってんだ。
何もかもわからないがアイシャの言うことをまとめると…
「えー…ちょ、ちょっと待ってよ…俺は、ほわオンをプレイしてる途中で、アイシャに呼ばれてここに一瞬で移動してきた、ってこと?」
「はい…あの…怒ってます?」
「い、いや、怒ってはない、混乱してるけど」
アイシャの言うことが本当だとしてとりあえず聞いてみるか…
「なんで急にその…そんなことをしたんだ?」
「だってそれは…ヴォルさんが…ヴォルさんが悪いんです!」
しまった、女特有のよくわからない地雷を踏んだ予感。
「私だって…オフ会に行ってヴォルさんに会いたかったのにでもそれはできなくて…私はそっちには行けないから…」
「お、おう」
「だから最初は我慢しようと思ってたのに…ほわオンの中で会えれば十分だって…」
そんな今にも泣きそうな顔をされると困る。
ど、どうしよ。
「でも私が我慢してるのに…他の女どもが…ヴォルさんに会いに行くって…私が我慢してる時に…あいつらはヴォルさんと会って触れ合えるのかと思うと…」
ヒエッ
女どもとか言ってらっしゃる。
目も据わってきてるし。
女子大生の家に泊まろうとしてたとは口が裂けても言えない。
「そうしたら…もう、こうするか…あいつらを消すか…どちらかしかないじゃないですか…」
やばいやばい。もうこの話やめさせないと!
冗談抜きでいずれ3つ目の選択肢に貴方を殺して私も死ぬがでてきそう。
「アイシャ」
俺はおもむろに彼女を抱きしめた。
「会えて嬉しいよ」
「あっ…はい…私も嬉しいです…」
アイシャの様子が少し落ち着いたのを肌で感じると少し体をはなし、その美しい顔を正面から見た。
そして、そのまま…
「ヴォルさ…んんっ!」
幸せな…じゃなかった、生き残るためのキスをした。
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