来年は……

天明福太郎

緑のたぬき

去年とはえらい違いだな。

そうつぶやきながら僕は緑のたぬきにお湯を入れた。


去年との違いは2つだ。

一つは赤いきつねではなく、緑のたぬきである事。

二つは緑のたぬきを二つ用意しているという事だった。


「おまたせ。」

「もう年越しちゃうよ。」

「ごめんごめん。」


俺はこたつで背中を丸めている彼女の前に緑のたぬきを差し出した。


「年越しって感じだね。」

「そうだね。といっても緑のたぬきで年越しするのは初めてなんだけど。」

「またそれ言っている。」


初めて二人で過ごす年越し。

一番の問題は年を越す時に食べるものだった。

俺は年越しには、必ず赤いきつねを食べていた。

兄弟や親は緑のたぬきを食べていたのだが、俺だけは赤いきつねを食べていた。

理由は覚えていないが、家族も自分も赤いきつねを食べるのが恒例になっていた。

最近は家族と家族と年越しを過ごさなくなっていたが、その癖だけは残っていた。


一方、彼女は家族で年越しには必ず緑のたぬきを食べていた。


お互いで譲れないこだわりが判明したのは、年末まであと3日しかない時だった。

そこから戦争が始まった。

一度でいいので一緒に食べとほしいと何度も懇願され、脅され、最後にはじゃんけんで勝った方の言葉に従うことになった。

じゃんけんの結果……おれは勝った。

しかし、そこからの怒涛の交渉で最終的に俺も緑のたぬきを食べる事で決着がついた。


「あと1分だよ。」

「一啜り目を年越しと同時にするんだっけ。」

「そう。」

「これって、家族みんなでやっているの?」

「これはしてないよ。私だけ。」

「え?聞いてないんだけど。」

「それよりももう年越すから。集中して。」

「うん。」


納得のいかないまま、俺はTVの年越しタイマーを見つめ一啜り目のタイミングを計っていた。

ふと彼女の方を見ると、その目も真剣そのものだった。


『3・2・1・新年あけましておめでとうございます!』


TVのカウントダウンと共に一啜り目をすすった。

今までより幸せの味がした。

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来年は…… 天明福太郎 @tennmei

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