第2話 逃げるが勝ち
さくらはデザイン事務所で働いていた。朝は少し遅く出社できるが夜はとことん遅くまで残業する日もある。東京のあるビルディングの一室に事務所はあり、さくらは一日中、図面を描き続け、時には打ち合わせをしていた。
既にここで働いて10年が経っていた。さくらの周りは結婚ラッシュを迎え、毎月のようにご祝儀にお金が消えて行った。
さくらはというと、同業者の男性は結婚している人が多く、出会いもない。パートナーのためでもなく、家族のためでもないとしたら、私は何のために働いているのだろう。もう自分のために働いて満足する歳でもないはずなのに。
東京の喧騒の中で1日が始まり、終わって行く。ただそれだけの毎日だった。5年も前だったら友達と旅行にだって行けたのに。今はもう皆結婚してしまった。
私は、これから5年後、10年後、どうなっていたいんだろう。
その日は珍しく仕事が早く終わり、夕方には事務所を出ることができた。トントンと階段を降り、少し古びたビルを出ると、オレンジの光が差した。夕焼けなんていつ振りに見ただろう。
コンビニでおにぎりを二つ買って、いつもの景色をいつもの通りに帰る。
さくらはそのオレンジの光の中、「逃げたい。」そう思った。
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