第一章

 霧島千早は東光学園で五度目の春を迎えていた。

 まだ少し冷たい空気が漂う体育館での始業式。東光学園は中高一貫校で、県内では有名な進学校だった。この四年間で少しも前に進めてない、そんなことを想いながら千早は校長先生のありがたいお話を聞き流した。

 教室に戻ってからすぐにホームルームが始まった。新しい担任は数学の千葉先生だった。白衣姿に腰まで伸びた黒髪が印象的な美人教師で、学校でも目立つ存在だった。千早は千葉先生の授業を受けたことはないが、気が強くて独身だとの噂を聞いたことがあった。

「この一年間は君たちにとって大切な一年です。楽しむことも大事ですが、進路についてもきちんと考えるように。ではホームルームは以上です」

 千葉先生の話が終わると教室はどっと騒がしくなる。進路という言葉にため息が出そうになったが、ぐっと飲みこんで千早は教室を後にした。

 教室棟を出た千早は、中庭を抜けた先の部室棟に向かった。二階建ての部室棟は一階が男子用、二階が女子用にあてがわれていた。部室棟は比較的新しいが、運動部が使っているため常に埃っぽかった。千早は階段を上り、一つの扉の前で立ち止まる。その扉に埋め込まれたモニターには陸上部と表示されている。千早がモニターに手をかざすと、瞬時に静脈認証と指紋認証が行われ、扉が自動で開いた。

 部室にはまだ誰も来ていなかった。十畳ほどの部室の真ん中に置かれた長椅子に千早は座り、横にカバンを置く。千早は昼食の菓子パンをカバンから取り出すと、まるで興味がないかのようにパパっと食べ終えた。

 千早が立ち上がり、ロッカーを開けて体操服に着替え始めようとしたとき、部室の扉が開いた。

「もう、なんで先行っちゃうの。せっかく千早と同じクラスになったのに」

 そう言って入ってきたのは大きな丸い瞳が印象的な湯浅七海だった。千早は七海と同じクラスになったことはなかったが、高二になった今年は同じクラスであることを教室で見かけたので知っていた。

「あはは……、ごめんごめん。誰かと話してるみたいだったから」

 七海は膨らませていた頬をしぼませながら長椅子に座り、お弁当を食べ始めた。

 千早と七海は中学から陸上部で一緒に汗を流してきた仲だった。他にも中学からの部活仲間はいたが、二人は特に仲が良かった。

「ねえねえ聞いたよ、バスケ部のエースを振ったんでしょ。噂になってるよ」

 七海は打って変わって嬉しそうに聞く。噂になっていることに内心抵抗を感じつつ、千早は、

「うん、まあ……」

 と苦々しく答える。

 千早は確かに振った。しかし、千早にとってはどうでもよいことだったのでそのことは誰にも話していなかった。

「もったいないなあ。でもこれで十五人目、もう伝説になってもおかしくないよ」

 それだけ告白されても千早の心が動いたことは一度もなかった。十五人も振ったのかと思うと千早は少しだけ申し訳ない気持ちになる。七海曰く、整った容姿と落ち着いた雰囲気、それでいて成績優秀な千早の右に出る者などいないとのことだが、こんな根暗のどこが良いのだろうと千早は思っていた。

 千早は自身の話題を続けるのが嫌だったので、

「そういう七海はどうなのよ。イケメンの彼氏ができたって喜んでたじゃない」

 と七海に聞いてみる。七海はかわいいし、その上明るい。自分なんかよりモテそうだと千早は思っている。実際何度か恋人ができたことがあった。

「別れたよ。外見は良かったんだけど、中身がね。やっぱり……」

 しかし、彼女はいつもすぐに別れてしまう。なぜなら、

「二次元には勝てないよね!」

 七海はオタクなのだ。趣味はアニメ、漫画、ラノベ。千早は見たことはないが、コスプレもたしなんでいるらしい。

「さいですか」

 と、千早は呆れていた。

 体操服に着替え終わった千早がロッカーからスパイクを取り出す。千早はそのスパイクを虚ろな目で見つめる。そして、その千早の姿を七海が見つめていた。

「無理して続ける必要ないんだよ。千早、本当は――」

「いいの」

 遮るように少し大きめの声でそう言った千早は、一呼吸してからトーンを下げて続ける。

「いや、よくはないのかもしれないけど……」

 千早は振り返り、七海の目を見て言う。

「でも、ありがとう。七海のそういうところ、すごく嬉しいよ」



 様々な運動部の掛け声が聞こえるグランドで、千早はその日最後の一本を走っていた。ショートカットの髪がなびき、汗が飛ぶ。

 陸上部の練習は中高合同で行っていた。ただし、種目によって練習メニューが異なる。千早は短距離が得意で、百メートル走がメイン種目であった。七海も百メートル走が主戦場のためいつも一緒に練習している。

 もちろん後輩もたくさんいて、千早はとても慕われていた。しかし、千早自身はそのことに対して複雑な気持ちを抱いていた。というのも千早は以前から思っていたのだ、本当は陸上部をやめたいと。

 陸上部に入ったのは中学に入学してすぐだった。特別興味のある部活がなかった当時の千早は、勧誘されてそのまま陸上部に入った。もともと運動は得意だったこともあり、千早はすぐに頭角を現した。中学時代は地区予選では敵なし、県大会でも決勝まで進んだことがあった。

 そういった実力もさることながら、練習に対する真面目さも評価されて、部員からの信頼も厚かった。そして、千早自身それを自覚していた。高校生になるタイミングでやめようとも考えたが、周囲からの見えない期待を無視できずにそのまま陸上を続けていた。

 千早はその日最後の一本を走り終え、大きく息を吸った。

 練習が終わると、部員全員が集まって練習後のストレッチが始まる。いち、に、さん、し、とみんなが声を出しながらストレッチをする中で、千早は昨日の部活帰りのことを思い出していた。

 そう、あの女性のことを、京堂零奈のことを。

 

 

「お待たせしました、店長おすすめコーヒーです」

 その声に反応して千早はすぐにノートパッドを腕で隠そうとした。しかし、コーヒーをテーブルに置こうとした店員の目にはノートパッドに描かれたものがしっかりと映っていた。

「もしかしてそれ、私ですか?」

「あの、勝手にすいません。お綺麗だったのでつい……」

 店員は少し驚いたように照れて、それから穏やかな顔で、

「上手ですね。絵を描くのがお好きなんですか」

 と優しく問いかける。

「はい。中二の頃、授業の退屈しのぎで描き始めたんですけど、上達するにつれて楽しくなってきて、今では暇さえあれば描いてます」

 千早は店員に自分のことを話すのが恥ずかしく、つい早口になってしまった。

 店員は千早の向かいの椅子に手をかけながら、

「ここよろしいですか?」

 と聞く。千早がきょとんとすると、

「まだ描きかけですよね? 近くにいた方が描きやすいかなと思いまして」

 そこからは千早にとって人生で一番幸せな時間だったかも知れない。

 今までに経験したことのない鼓動の高鳴りを感じた。苦手なコーヒーがおいしく感じた。そして何より、この瞬間自分が幸せであることを強く感じた。

 描き終わると、千早はペンを置き、そして店員の目を真っすぐに見つめ、意を決して聞く。

「私、霧島千早っていいます。東光学園の高二です。店員さんのお名前、聞いてもいいですか?」

 店員も千早を見つめ返し、そして答える。

「京堂零奈です。よろしくお願いします」



 ストレッチが終わり、各々が部室へ戻っていく。千早も行こうとすると、後ろから声をかけられた。

「おい、霧島。ちょっといいか」

 振り返ると、声をかけてきたのは部長の五十嵐先輩だった。

「なんでしょうか」

「さっき声が出てなかったぞ」

 千早は他のことを考えていたせいで声が出てなかった。しまったと思ったが、同時に、自身が集中しているかをチェックしていた五十嵐先輩を気持ち悪くも思った。

「すいません。気を付けます」

 千早は決して五十嵐先輩の目を見ることなくそう答えた。

 千早は五十嵐先輩が苦手だった。というよりもはっきり言って嫌いだった。五十嵐先輩は陸上に熱心で自分にも他人にも厳しく接する。特に千早に対してはそれが顕著だった。それは千早に対して陸上部員として期待しているからということを千早自身もわかっていたが、千早にとってはそれが苦痛だった。

「頼むぞ。お前がしっかりしないでどうする」

 まるで部下を叱責するようにそう言って五十嵐先輩は部室へ向かっていった。



 部活帰りの重たい足を無理に動かすようにして駅を出たところで、千早は彼女のことを想う。気になって仕方がないが、あいにく部活終わりで時刻も遅い。千早は喫茶店には行かずに真っすぐに家に向かって歩いた。

 駅から十分ほど歩いた場所にあるそれほど大きくも新しくもないマンション。その二階の一室のドアに千早が掌をかざすと、ピコンという小さな電子音と共にロックが解除されドアが開く。

 2LDKと言うと聞こえは良いだろう。しかし、玄関からリビングとダイニングが見渡せるくらいには手狭な間取りだった。

 千早が靴を脱いで玄関に上がると、

「おかえりなさいませ」

 と、玄関横のキッチンから無機質な声が出迎えてくれる。家事アンドロイドが夕食の準備中のようだった。

 リビングには家族三人、両親と妹の真千が既にいるのが見えたが、そこに会話はなかった。家事アンドロイドの声が逆に家族の静けさを強調していた。

 千早の母はパートタイマーで、大抵は千早が帰るころには家にいた。母が料理をすることは最近はほとんどない。霧島家では家事は基本的には家事アンドロイドに丸投げであった。

「ただいま」

 千早はそう言いながら心の中で「あなたも大変だね」と家事アンドロイドをねぎらった。

 家事アンドロイドの言動は極めて機械的だ。変化のない表情に抑揚のない受け答え。家事アンドロイドは常に黙々と家事をこなしていた。しかし、その言動とは裏腹に見た目は一見すると普通の人間だ。白いワイシャツに濃紺のジーンズ。年齢は二十代の若い男性に見える。

 そんな家事アンドロイドを見ると、黒首輪が目に入って千早はいつも切なくなった。

 家事アンドロイドに限らず、アンドロイドには首に黒い線を刻むことが義務となっていた。人間と区別するためのただのマークだが、首輪に見えることから黒首輪という俗称が世間では定着していた。

 その存外に目立つただの黒い線が、まるで本物の首輪のようで千早は嫌いだった。彼らを機械だからといって粗雑に扱う人間もいるが千早はそれが許せなかった。たとえ機械でも、たとえ指示通りに動いているだけでも、彼らが雑に扱われているのを見ると心が痛んだ。

「もう夕食できるから早く着替えてきなさい」

 リビングにいる母が玄関にいる千早に向かってそう言う。その優しい声に突き刺されるように千早の体がこわばる。「はい」と短く答えて千早は急いでうつむきながら自室へ入る。

 ささっと部屋着に着替えてダイニングに行くと、ちょうど夕食の準備が終わり両親と真千が既に席についていた。食事中、家事アンドロイドはキッチンで待機しており、ダイニングにはいつもいない。

 千早が席につくと、それぞれが「いただきます」と揃わずに言って食べ始める。いつものように沈黙が食卓を包んでいた。その沈黙に隠れるように小声で真千が、

「そうだ、お姉ちゃん。あとで勉強教えてほしいんだけど」

 と言うと、

「うん、いいよ」

 と千早も優しく返す。そのやり取りは当然母にも聞こえており、秘密の約束事など許さないとばかりに釘を刺す。

「真千、あまり千早の時間を使うんじゃないよ。千早だって勉強しないといけないんだから、ねえ?」

 同意を求められた千早は言葉が喉につっかえて出てこなかった。

「別にいいんじゃないか、少しくらい」

 見かねた父がそう言うと、母はちっと舌打ちをして真千に冷たく言葉を投げつける。

「手短に済ますんだよ」

 真千は感情のこもっていない声で「はい」と返事をした。千早は喉につっかえた言葉で窒息しそうになりながらも、結局飲み込むことも吐き出すこともできなかった。

 食後、千早がノートパッド片手に真千の部屋に入る。

「あ、お姉ちゃんここ座って」

 ベッドで寝転んでいた真千は、起き上がってポンポンとベッドを叩きながら楽しそうにそう言った。真千の明るさに千早の表情も少し柔らかくなる。千早が真千の横に座ると、真千は自分のノートパッドを千早に見せる。

「この数学の問題なんだけど」

「そこはこの公式を使うといいんじゃない?」

 真千は少し悩んでから、

「うーん……、あ、わかったかも!」

 と嬉しそうに千早に笑ってみせた。

 真千は千早の三つ年下で、中学二年生だ。真千は千早よりも身長が低いが、二人の容姿はよく似ていた。しかし性格は全く似ていなかった。真千は根が明るく、千早とは真逆であった。そして、千早はそれを嬉しく思っていた。自分と同じ苦労をかけずに済む、千早はそんなことを考えながら真千を見つめる。すると真千はノートパッドに顔を向けたまま千早に語りかけた。

「お姉ちゃんはもっと自分に素直になっていいと思うよ」

 その声のトーンの低さが真千の優しさと千早への親愛を物語っていた。

 千早はその言葉にうつむく。自身の握ったこぶしを見つめながら、黙りこんでしまう。真千が千早の方に顔を向けて返事を待つ。

「ありがとう。自分でもわかってるんだけどね……」

 千早は見るからに作った笑顔で返事をする。

「そんなことより、問題解けたの?」

 真千はやや不満そうな顔をしつつもノートパッドとのにらめっこを再開した。

 そんな真千を見ていて、千早は春休み中の課題をまだ提出していなかったことを思い出す。送信しようと思って自身のノートパッドを開くと、昨日描いた一枚のイラストが映し出された。千早はしばらくイラストを見つめ、それから目を閉じる。

 彼女のことを知りたい――。

 千早は明日喫茶店に行こうと決めた。



 その日は入学式が行われるため、在校生は学校が休みだった。しかし、千早はいつも通り六時に起床した。目覚ましをかけていたわけではなく、自然と目が覚めた。不思議な気持ちのまま、千早は着替え始める。私服を着ようかとも思ったが、母に外出先を聞かれそうだったので制服を着た。案の定、「今日は学校休みじゃないの」と母は聞いたが、千早は「学校の図書室で勉強してくる」と言ってごまかした。

 朝食を手短に済ませて、いつもの学生カバンに気持ちを詰め込んで家を出る。通勤に向かうサラリーマンがしんどそうに足を引きずる時間帯。まだ喫茶店は開店していないかもしれないと思いつつ、千早はその足を止めることはなかった。相変わらず人通りのない横道に入って喫茶店に到着する。扉には幸いOPENの札がかかっていた。千早は肩にかけた学生カバンをぎゅっと握りしめて扉を開ける。

 そこには彼女、そう、京堂麗奈がいた。

 

 今日は会いたかっただけ。

 また話をしたかっただけ。

 それなのに――、


「わたし、京堂さんのことが好きです」


 気付いたら言っていた。

 千早はどうしてそんなことをしたのか自分自身でもわからなかった。しかし、嫌な気分ではなかった。

「先日の霧島千早さん……ですよね? えっと……」

 どうすればいいかわからずに麗奈は困惑している様子だった。

 しばらくの間、沈黙が続いた。カウンターにはマスターもいたが、千早の瞳には麗奈しか映らなかった。千早は気持ちが動くままにもう一度言う。

「あなたのことが好きです。それを伝えるために来ました。付き合ってください」

「でも、どうして……。先日お会いしたばかりですし、私は女です。それに私は……」

 麗奈は一瞬口ごもった様子だったが、それでも言葉を続けた。

「どうして私なのですか?」

「私はあなたに会ったときに運命を感じました。もっとあなたのことを知りたいと思いました。こんな気持ちは初めてです。確かに会ったばかりだし、女性同士です……。でも、それでも、私はあなたのことが好きです」

 麗奈は少し考えてから真っすぐに答えた。

「考える時間をいただけないでしょうか。今の私には……答えを出すことができません。一週間後にまた来てください。その時には必ず返事をいたします」

 千早は「ありがとうございます」とお辞儀をして店を出た。千早はどうしてこんなことをしたのか店を出た後もわからなかった。しかし、その胸の高鳴りは何かが始まる予感を千早に感じさせた。かすかな笑みを浮かべて千早は店を後にした。

 千早が出て行った後、店内を静寂が包み込んでいた。ギュッと自身の片腕を握って動かない麗奈。そして、マスターはその様子を眉間にしわを寄せて見つめていた。



 千早が告白してから一週間が経った。この一週間、勉強中や部活中は考えないようにしていたが、それでも千早はずっとそわそわしていた。振られてしまう可能性があることは千早も理解していたが、それでも自身の行動を悔いることはなかった。たとえ振られたとしても、彼女と出会えたときの気持ちは初めてのもので、どうしようもないほど胸に刻まれていたのだから。

 その日は体調がすぐれないと言い訳をして部活をさぼった。もっと上手い理由を用意したかったが、嘘をつき慣れていない千早には思いつかなかった。普段は部活を休むことはないので、五十嵐先輩や七海から心配されてしまい、千早は後ろめたさを感じながら下校するはめになった。

 駅から喫茶店までは自然と小走りになって向かう。扉にかけられた札はCLOSEDになっていたが、取っ手を握って少し引くと鍵はかかっていなかった。

 千早はどんな答えでも受け入れる覚悟ができていた。小声で「ありがとう」と言ってから扉を開く。

「待っていました、霧島さん」

 店の真ん中の席に座っていた麗奈は、千早が入ってきたことに気付くと、立ち上がりながらそう言った。入口に立っている千早を真っすぐに見つめる。

「この一週間、霧島さんのことを考えました。あなたの言葉はとても……、誠実に感じました。ちゃんと伝わりました。ですので、私も嘘をつきたくないと思いました」

 麗奈は一生懸命伝えようとした。千早もそれを感じて一言も逃さないように聞いていた。

「私は霧島さんのことをまだよく知りません。ですので、お付き合いの申し出には応えることはできません。ですが、私はもっとあなたのことを知りたいと思いました。なので……、友人から始めるというのはどうでしょうか」

 それを聞いて千早は大きく息を吐く。最悪もう会えないことも想定していたので、友人としてでも交流できるのが嬉しかった。千早は顔を緩ませながら、

「ぜひよろしくお願いいたします」

 とお辞儀をする。顔を上げて麗奈の顔を見ると、対照的に顔は険しいままだった。

「もう一つ言わなければならないことがあります」

 麗奈は一瞬うつむいた後、再び千早をしっかりと見つめる。

「私はあなたに嘘をつきたくありません。騙すようなことをしたくありません。ですので、本当のことをお伝えします。もし幻滅したら正直にそう言っていただいて構いません」

 千早は顔を引き締めて麗奈を見つめ返す。そして麗奈ははっきりと言った。


「私は人間ではありません。アンドロイドなのです」


 千早は面食らった。「そんなことありえるのか」と頭が硬直する。

 麗奈の予想外の言葉に理解が追い付かずにいると、

「アンドロイドの友人なんて嫌でしょうか……」

 一瞬の間ができると、麗奈の目が下に向きかけた。それ気付いた千早は、すぐに自身の気持ちを言葉にした。

「そんなの関係ない!」

 自分でびっくりするほど大きな声が出てしまったが、それでも千早は言葉を続ける。

「そんなの関係ないです。だから、その……、よろしくお願いします」

 そう言って笑顔を見せると、呼応するように麗奈も笑った。

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