第25話『いつもと違う日』

 4月22日、木曜日。

 目が覚めて、ベッドから降りようとすると……かなり寒いな。まだ時間に少し余裕があるので、ベッドに戻って首まで布団を掛ける。


「冬みたいだな……」


 昨日、バイトから帰るときも結構寒かったけど、そこからさらに冷え込んだのかもしれない。まあ、実際はとても低い気温ではないのかもしれないが。4月も下旬になり、朝晩の寒さも和らいできていたので、体感として今はかなり寒い。

 少しの間、ベッドの温もりと柔らかさで体を癒す。

 ただ、無情にも癒しの時間というのは早く過ぎてしまうもの。気付けば、起きないとそろそろまずい時間になっていた。ベッドから降り、洗面所で歯磨きと顔洗いをして、学校の制服に着替える。

 1階のキッチンに行くと、そこには両親と千晴の姿が。父さんと千晴は朝ご飯を既に食べ始めている。


「遥翔も起きてきたな。おはよう」

「おはよう、遥翔」

「お兄ちゃんおはよう。いつもよりも遅めに起きたね」

「少し前から目は覚めていたんだけどな。結構寒くて、ベッドの中で温まってた」

「そうだったんだ。昨日の夜から結構寒いよね。お兄ちゃんと一緒に寝れば良かったかも」

「1人で寝るよりも温かいだろうしな」


 そうすれば、いつも通りの時間に起きられたのかもしれない。

 それにしても、寒かったから俺と一緒に寝れば良かったと言うなんて。本当に可愛い妹だ。今度、結構寒い夜になった日には一緒に寝てあげるか。

 朝ご飯を食べて、自分の部屋に戻る。

 スマートフォンのスリープを解除して、誰かからメッセージやメールが来ていないかどうか確認する。


「うん?」


 LIMEを通じて香奈と星崎からメッセージが届いていると通知が。朝に2人からメッセージが届くことは全然ないし……どうしたんだろう?

 アプリを開いてトーク一覧を見ると……香奈の方が先にメッセージが届いている。なので、香奈のメッセージから確認してみる。


『風邪引いちゃいました。熱が出て、体がだるくて。結構冷え込んだからでしょうか。なので、今日は学校を休みます』

「……えっ」


 香奈からのメッセージを見て、思わずそんな声を漏らしてしまった。力が抜け、危うくスマホを落とすところだった。


「風邪……引いちゃったのか……」


 昨日の夜から、この時期にしては結構寒くなっていたからな。香奈の言うように、その寒さで体調を崩してしまったのかもしれない。

 今日は放課後にバイトのシフトは入っていない。だから、放課後になればすぐに香奈のところにお見舞いに行けるな。


『分かった。お大事に。体を温かくして、ゆっくりするんだよ。放課後になったらお見舞いに行くね』


 香奈にそんな返信を送った。このメッセージを見て、少しでも香奈に元気をもたらせたら嬉しい。

 香奈が風邪を引いたってことは、星崎からのメッセージは――。


『香奈ちゃんが風邪を引いてしまいました。なので、先輩さえ良ければ、放課後になったら一緒にお見舞いに行きませんか?』


 やっぱり、香奈のお見舞いへ行くお誘いだったか。


『もちろん。一緒に行こう』


 星崎にそう返信を送った。

 すると、すぐに俺の返信に『既読』のマークがつき、


『分かりました! では、昇降口を出たところで待ち合わせて、一緒にお見舞いに行きましょう!』


 星崎からそんな返信が届いた。

 その直後、香奈に『放課後に、星崎と一緒にお見舞いに行く』とメッセージを送ったら、すぐに『楽しみにしています』と返信をもらった。

 今日は学校では会えないけど、放課後に香奈の家で彼女と会おう。お見舞いに行って、香奈が少しでも元気になれたら嬉しいな。

 起きたときはかなり寒かったし、今日はずっと曇りの予報。なので、紺色のベストを着て家を出発する。


「寒いな……」


 空には雲がどんより広がっていて。最近はずっと晴れていたから、陽差しがないだけでもかなり寒く感じる。少しの時間でも、雲の切れ間からでいいので陽が差してくれるといいんだけどなぁ。

 ベストを着ているのもあって、梨本高校の校舎が見える頃には温かさを感じられるようになっていた。それからすぐ、高校の校門が見える。


「……いないよな」


 当たり前だけど。香奈と関わるようになってから、香奈はほぼ毎朝校門の近くで待ってくれていて、


『おはようございます! 遥翔先輩!』


 と笑顔で挨拶してくれるのだ。今日は香奈の姿がなく、香奈の元気な挨拶を聞くことができない。


「……寂しいな」


 気付けば、そんな言葉を漏らしていた。香奈に告白されてから10日くらいだけど、一緒にいることが多いからかな。そして、それを楽しいと思えているからかな。

 今日は香奈と一緒に登校できないし、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べることもできない。放課後になるまでが長そうだ。そう思いながら、俺は一人で校門を通った。

 周りを見てみると、寒がっている生徒がちらほらいるな。走って校舎へ向かう生徒もいる。あと、俺のようにジャケットの下にベストやカーディガンを着ている生徒も何人かいて。そんな光景を見ると、来週末からゴールデンウィークなのが信じられないな。


「ゴールデンウィークか……」


 今年は……5連休になるのかな。その時期のシフト希望は提出しており、日中ずっとシフトを入れている日もあれば、完全にオフの日も何日かある。オフの日は香奈とどこかにデートすることになるのかな。

 第2教室棟の中に入り、2年6組の教室へ向かう。

 教室の中に入ると、いつも通り談笑の声がたくさん聞こえてきて。また、俺が登校したことに気付いた友人達が「おはよう」と声を掛けてくれる。もちろん、


「おはよう、空岡」

「空岡君、おはよう」


 特に親しい友人の瀬谷と栗林も。そのことに安堵と嬉しさを抱きつつ、彼らに挨拶しながら自分の席に向かった。


「空岡、どうした? あまり元気がないように見えるけど」


 自分の席に座った直後、瀬谷は俺の方に向いてそんなことを問いかけてきた。顔には出していないつもりだったんだけどな。


「実は……香奈が風邪を引いて休んでさ。香奈曰く、結構冷え込んだから体調を崩しちゃったらしい」

「そうなのか。まあ、昨日の帰りも今朝も結構寒かったからな」

「今朝は特に寒かったよね。最近は温かい日も多くなってきたから、突然の冷え込みで体調が悪くなっちゃったのかもね」

「俺も同じように考えてる。香奈と一緒に登校したり、昼ご飯を一緒に食べたりするのが日常になったから、今日はそれがないのが寂しくてさ。まあ、放課後には香奈の親友の女子と一緒にお見舞いに行くけれど」

「なるほどな。そういうことか」

「香奈ちゃんと一緒に、お昼ご飯を楽しく食べているもんね」

「そうだな。じゃあ、今日の昼休みは俺達と一緒に昼ご飯を食べよう」

「それがいいね、颯ちゃん」


 瀬谷も栗林も爽やかな笑顔を見せながらそう言ってくれる。本当にいい友達を持ったと思う。


「2人ともありがとう。元気出てきたよ」


 瀬谷と栗林にお礼を言うと、2人の笑顔がニッコリしたものに。

 そうだ。今日の学校に香奈はいないけど、瀬谷や栗林など俺の友人は何人も学校に来ている。それに、放課後になれば香奈とも会えるんだ。それを励みに学校生活を送っていこう。いつもと違う一日を。

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