第9話『妹と父にも』
アルバムを見終わった俺達はアニメのBlu-rayを観ることに。
香奈に録画したBlu-rayの入っているケースを見せる。その中から、香奈の希望で『のんびりびより』という美少女キャラがたくさん出てくる日常系のテレビアニメの第1期を観る。香奈曰く、原作の漫画が大好きで、アニメも録画や配信で何度も観ているのだという。
アニメを観るときはアルバムのときと同じく香奈と隣同士に座りながら。
俺も原作漫画は持っているし、テレビアニメは第1期から第3期まで何度も観ている。なので、香奈と「このキャラが可愛いよね」とか「このセリフが面白い」などと話しながら楽しく観られている。
「あっ、外がかなり暗くなってますね」
アニメの第1期の第2話を観終わったとき、香奈はそう言った。
窓の外を見ると……香奈の言う通り、外はかなり暗くなっていた。壁に掛かっている時計を見ると、もう午後6時過ぎなのか。
「本当だ。見始めたときは夕方だったのに」
「ですね。先輩と話しながら観るのが楽しくて、ここまであっという間でした」
「俺も楽しかったよ」
アニメは一人で観ることが多い。たまに千晴と一緒に観ることがあっても、コメディ作品で笑ったり、ラブストーリーで千晴が黄色い声を漏らしたりするとき以外はほとんど無言だ。もちろん、それでも楽しめている。ただ、こうして誰かと一緒に話しながら観るのもいいな。
「ただいま~」
「おかえり、千晴」
部屋の外から千晴と母さんの声が。千晴が学校から帰ってきたのか。
また、今のやり取りが香奈にも聞こえたのだろう。香奈の目が輝き始めている。
「千晴ちゃんが帰ってきたんですねっ」
「そうだな。千晴はバドミントン部に入っているから、平日は今くらいの時間に帰ってくることが多いんだ」
「そうなんですね。せっかくですから、千晴ちゃんにも挨拶しましょう。できれば、お父様にも挨拶したいですね」
「残業がなければ、あと2、30分で帰ってくると思う」
「そうですか。じゃあ、ちょっと帰りが遅くなるかもって、お母さんにメッセージ送っておきます」
香奈はスマホを手にとって、テンポ良くタップしている。
千晴だけじゃなくて父さんとも挨拶したいとは。まあ、「結婚して、お義母様と呼びたい」と母さんに言うほどだからな。早めに俺の家族全員と挨拶したい考えなのだろう。
――コンコン。
部屋の扉がノックされる音が聞こえた。
扉を開けると、そこには中学の制服姿の千晴が立っていた。部活の後で疲れていると思うが、いつもよりも元気そうに見える。
「ただいま、お兄ちゃん」
「おかえり、千晴」
「お母さんから、お兄ちゃんに告白した陽川香奈さんが来ているって聞いて」
「ああ、来ているよ」
そう言って、千晴を部屋の中に入れる。
そして、香奈と千晴が初対面。香奈はいつもの明るい笑みを浮かべ、小さく手を振っている。それに対して、千晴は笑みこそ浮かべているもののどこか緊張した様子。2学年上の高校生だし、先輩後輩の上下関係がしっかりしている運動系の部活に入っているからかな。千晴は香奈に向かってお辞儀をする。
「2人とも。写真を見たから分かっていると思うけど紹介するよ。千晴。こちらの茶髪の女子が、梨本高校1年の陽川香奈。俺に告白してくれた子。それで、香奈。こいつが俺の妹の千晴だ。梨本南中学の2年生だ」
俺が2人のことを軽く紹介すると、香奈はクッションから立ち上がって千晴の目の前まで歩いてくる。
「初めまして、陽川香奈です」
「初めまして、空岡千晴です。バドミントン部に入っています。今日も放課後に活動してきました」
「そうだったんだ。部活お疲れ様。あたしは高校でキッチン部に入る予定なの。中学のときは家庭科部に入っていたんだ。お兄さんの遥翔先輩とは仲良くなって付き合いたいけど、千晴ちゃんとも仲良くなりたいな」
「私で良ければ。よろしくお願いします」
「うん、よろしくね!」
持ち前の明るい笑顔を浮かべてそう言うと、香奈は千晴と握手を交わした。そのことで、千晴の笑みから緊張が取れたように思える。千晴も、以前送ってくれた香奈の自撮り写真を見て可愛いと言っていたからな。
「お兄ちゃんから見せてもらった自撮り写真も可愛いと思っていましたが、実際の香奈さんはより可愛いです。声も可愛いですし……」
「ありがとう。あたしも、実際に見ると写真以上に千晴ちゃんが素敵な子だって思うよ。遥翔先輩に似てる。背が高くて、スタイルも良くて羨ましいな」
「ありがとうございます」
香奈に褒められたからか、千晴はとても嬉しそう。
「……褒めてくれたのもあって、香奈さんがより可愛く感じます。抱きしめたいくらいに」
「千晴ちゃんなら全然OKだよ~」
「……では、お言葉に甘えて」
千晴は香奈の手を離して、彼女のことをそっと抱きしめる。
「香奈さん、あったかいです。いい匂いもします」
「千晴ちゃんからもいい匂いするよ」
香奈はそう言うと、両手をゆっくりと千晴の背中に回した。
まさか、香奈と千晴が抱きしめ合う関係になるとは。2人とも柔らかな笑顔を浮かべているし、この様子なら、これから仲良くやっていけるんじゃないだろうか。
「千晴ちゃんに抱かれるのいい感じだよ。ねえ、遥翔先輩。妹の千晴ちゃんを見習って、先輩もあたしを抱きしめたらどうですか?」
「俺は男だからなぁ。そんなに気楽にはできないよ。付き合っているならまだしも」
「……そうですか。あっ、でも……先輩は千晴ちゃんを大切に想うお兄さんですからね。あたしも、千晴ちゃんみたいに『お兄ちゃん』って呼べば抱きしめてくれるかもしれません」
「小さい頃は私を抱きしめてくれましたね。まあ、そのときは私から抱きしめにいくことが多かったですが。今も、一緒に寝ていると、お兄ちゃんに抱きしめられることがありますが」
「そうなんだね。とりあえず、先輩をお兄ちゃんと呼んでみましょうか」
香奈は俺の方を向き、上目遣いで俺のことを見てくる。
「遥翔お兄ちゃん! お兄ちゃん先輩!」
可愛らしい笑顔を浮かべながら、甘い声で俺のことを呼ぶ。
「どうですか?」
「……違和感はあまりないな」
千晴よりも見た目や声が幼い雰囲気だからかな。キュンときたり、ドキッとしたりはしないけど、可愛いなぁと素直に思う。
「ただ、そういう風に呼ばれると、抱きしめたいというよりも頭を撫でたい気持ちになってくるよ」
「……そうですか。じゃあ、今回は頭を撫でてもらえればいいです」
「何でちょっと上から目線なんだよ。……しょうがないな」
俺は香奈の頭を優しく撫でる。
香奈の髪って柔らかくてサラサラしているんだな。いい撫で心地だ。あと、シャンプーと思われる甘い匂いがほのかに感じられて。
「遥翔先輩に頭を撫でられるの気持ちいいです。満足です」
「それは良かった」
「満足そうにしている香奈さん、可愛いですよ」
そう言い、千晴も香奈の頭を撫でる。香奈は「えへへっ」と声を漏らし、柔和な笑みを見せている。今の2人を見ていると、千晴の方が年上に見えてくるなぁ。2人のことや、2人の着る制服を全く知らない人が見たら、そのように勘違いする人は多そう。
その後、香奈と千晴は互いの連絡先を交換した。香奈も千晴も嬉しそうだ。
「ただいま」
「おかえり、あなた」
おっ、父さんも帰ってきたのか。今は……午後6時15分か。早めに仕事が終わったのかな。
千晴のときと同じように、父さんの声も聞こえたのだろう。香奈はちょっと緊張した様子に。
「父さんにも挨拶したいって言っていたよな。一緒に行くか? 香奈」
「そうですね、遥翔先輩」
「私もついてく」
香奈と千晴と一緒に部屋を出て、父さんがいると思われる1階へ向かい始める。
「……おっ」
そろそろ1階に降りる……というタイミングで、階段を上ろうしていた父さんと出くわした。父さんの後ろには母さんの姿も。母さんに香奈が来ていると教えてもらい、香奈に挨拶しに俺の部屋へ行こうとしていたのだろう。
「母さんから陽川さんが来ていると聞いてね。挨拶しようと思ったんだ」
「やっぱりそうか。俺達も父さんと母さんの声が聞こえたし、香奈が父さんに挨拶したいと言っていたから降りてきたんだ」
「そうだったのか」
そう言い、父さんは俺達を見ながら微笑んだ。
1階に降り、俺と香奈、千晴が父さんと母さんと向かい合う形で立った。父さんを目の前にしているので、香奈はさっきよりも緊張しい様子に。
「は、初めまして。陽川香奈といいます。梨本高校の1年です」
「遥翔の父の空岡
「こちらこそお世話になっています」
微笑みながら香奈がそう言うと、香奈と父さんは互いに軽く頭を下げる。
父さんは顔を上げると、かけているメガネの位置を右手で直す。その流れで香奈のことをじっと見つめる。
「……遥翔に写真を見せてもらったけど、実際に見るとより可愛らしいお嬢さんだ」
「千晴と母さんと同じことを言っているな」
「ははっ、そうか。……遥翔が段々元気を取り戻しているのも納得だな。遥翔を好いてくれて、仲良くしてくれてありがとう、陽川さん」
「いえいえ、そんな。遥翔先輩に想いを伝えてから、高校生活がより楽しいです。ただ、高校より先もずっと遥翔先輩と一緒に楽しい日々を過ごしたいと思っています。お母様にも話しましたが、いつかはお父様のことを『お義父様』と呼べればと!」
おっ、エンジンかかってきたな。さっきまでの緊張は何だったのかと思わせるような元気の良さだ。あと、今の香奈のお義父様呼びたい宣言に、千晴はちょっと驚いた様子で「すごい……」と呟く。
ははっ、と父さんは右手を口に当てながら笑う。
「それほどに遥翔のことが大好きなんだね。遥翔、愛されているな」
「……まあな」
「陽川さんを見ていると昔の母さんを思い出すよ。好きだとたくさん言ってくれて、父さんの家族ともすぐに仲良くなって」
「だって、あなたとずっと一緒にいたかったんだもの。あと、今も大好きよ、洋平君」
当時のことを思い出しているのだろうか。母さんは父さんの左腕をぎゅっと抱きしめてニコニコしている。父さんも母さんに優しく微笑みかけている。
ちなみに、両親は高校に入学したとき、同じクラスになったのがきっかけで出会った。父さん曰く、母さんからのアタックは物凄かったとか。
「素敵な関係ですね!」
「ありがとう。……遥翔。時間がかかっても、必ず陽川さんに告白の返事をしなさい」
「ああ、もちろんさ」
「……陽川さん。今は先輩後輩の関係だけど、これからも遥翔のことをよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
こうして、父さんとの挨拶も無事に終わった。
午後6時半を過ぎているため、その後すぐに香奈は帰ることに。
外は真っ暗になっているため、俺は梨本駅の南口まで香奈を送っていくことにした。家に来たときと同じように、彼女と手を繋いで歩く。
「お家デート最高でした! 不安な課題も終わって、アルバム鑑賞とアニメ鑑賞が楽しくて。遥翔先輩のご家族全員とご挨拶もできて。素敵な時間でした」
「俺も楽しかったよ。特に『のんびりびより』のアニメを一緒に観るのが」
「ですね! アニメはまだたくさんありますし、これからも一緒に観たいです」
「ああ、いいぞ」
香奈と一緒にアニメを観るのはとても楽しい。『のんびりびより』以外にも共通して知っているアニメ作品はあるので、色々なアニメを観られたらいいなと思う。
「今日、一緒に過ごしたら、週末のオリオデートとあたしの家でのお家デートがより楽しみになりました!」
「俺もだよ」
「……良かったです」
そう言うと、香奈は楽しそうな笑顔を見せてくれる。きっと、週末の2日間は香奈の笑顔をたくさん見るのだろう。
香奈と話しながら歩いていると、あっという間に梨本駅が見えてきた。部活帰りなのか、駅に向かって歩く梨本高校の生徒の姿も見える。ただ、暗いのもあってか、こちらを見てくる生徒は全然いない。
梨本駅の南口に到着し、香奈は俺の左手を離した。
「今日は楽しかったです! では、またです」
「ああ、またな」
香奈は俺と手を振り合うと、北口に向かって歩いていく。そんな彼女の後ろ姿を俺はその場で立ち止まって見守る。
小さなボリュームだけど発車チャイムが聞こえる。その直後に改札から多くの人が出てきて。その人達によって、香奈の姿はすぐに見えなくなった。
俺は一人で自宅に向かって歩き始める。日もすっかり暮れたけど、寒さは全然感じなかった。
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