蓬莱国の白龍姫 ~乙女は龍の宝刀で禁断の恋に抗う~
桂真琴@11/25転生厨師の彩食記発売
旅立ちは突然に
1 彼方
――この山の向こうに、何があるの?
桜が
それを眺める少女は、大きな双眸を見開き、彼方を見つめ、思う。
――行ってみたい。いつか。
山から風が吹く。少女の長い髪が揺れた。高い位置で結い上げた髪は、陽光を透かし金色に輝く。
少女は同じ色の瞳をじっと凝らした。
山を越えた先に。その先の先に――
「
しわがれた怒鳴り声に少女は思わず肩をすくめた。
「あ、じじ様…」
「じじ様、じゃないわい!」
祖父・
「カズ坊が一桜にやられたゆうて泣き付いてきおったぞ!」
見れば祖父の背中には、さっきまで
「あ!カズヤったらじじ様に言いつけるなんて反則!」
「い、言いつけてなんかない!ご隠居様が通りかかったところにたまたま出くわしただけだ!」
「っていうか男のくせに負けて泣き言とか恥ずかしくないわけ?!」
「なんちゅうことを言うんじゃ一桜! おまえがもうちょっと女らしゅうせんか!もう15になるんじゃぞ!」
カズヤの代わりに厳鉱が顔を真っ赤にして怒鳴った。
「ま、まあまあじじ様、血管切れちゃうよ? それに
「うるさいっ。おまえが気にするべき戦はそこではないわい!」
つるりと禿げた頭のてっぺんまで真っ赤にして怒る祖父は一転、さめざめと目頭を押さえた。
「女の戦は日常の中に山ほどあるのじゃぞ。例えば今日はおまえの兄、
「ちょっとじじ様、泣くことないでしょ、わかった、わかったってば」
一桜は慌てて祖父に駆け寄る。
「泣かないで、じじ様。すぐに屋敷へ戻って母様たちの手伝いをするから」
「うぬ、頼んだぞ一桜。生い先短いこのわしの願いは、一鉱が今日の儀式で
「は、はあ?!ご隠居様なななななに言ってんだよ!よよよよよ嫁って、一桜を嫁って!」
嫁、という言葉を連呼しながらカズヤは顔を真っ赤にして走り去った。
「何なのよ、カズヤったら」
「うぶよのう、カズヤ」
「はい?」
「いや……とにかく、一桜よ。わしが言うたこと、頼んだぞ」
「もうわかったよ、じじ様。大袈裟なんだから」
繰り言を言う祖父の手を取りつつ、一桜は少し振り返る。
桜の紅さす、山々を。
――いつか、あの先へ……
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