第38話 ラングなしで悪魔騎士討伐へ
エリーヌら一行はウィズダムからの依頼で人間の国の方で出現した悪魔騎士討伐に出発した。
実はそれはルーラルの町の近くだった。このまま放置すればいずれルーラルの町が攻撃の対象となる。ラングの故郷でもあるルーラルが壊滅することはエリーヌたちとしても避けたかった。
一行にウィズダムが加わったことで、かつての<英雄>が揃ったことになっていた。このことは人々の大いに勇気を与えるものだった。
「元<英雄>グループなどと呼ばれても、内実はぼろぼろじゃがな」
ドワーフ王都を離れたところでアイゼンは皮肉にいった。
王都を出発する一行は大勢の人たちに歓声で見送られたのだ。それだけこの王都で果たした役割は大きかったし、彼らが出撃することはかつての<ヴァーヴェル大戦>と同様に勝利できると期待させるものだったのだ。
「わしは外見こそそれほどではないが、もう老齢にさしかかっているしな。ウィズダムに至っては見た目もじゃがな」
ウィズダムは上品に笑った。「当然お爺さんですよ。むしろこうして旅ができていることが奇跡と言ってもよいでしょうね」
「そんな」エリーヌは尊敬するウィズダムを気遣った。
「もう100歳を超えておるのですぞ、エリーヌ。いつ死んでもおかしくない。これも成果に対する神の恩寵であろうと思っていましたが、あるいはこの危機にもう一働きせよという叱咤激励かも知れませんな」
「主戦力のラングがいないしね」ビゴマが肩をすくめる。「あたいも頑張るけどね、ラングほどの戦力にはなり得ないよ。エリーヌはかなりその穴を埋めてくれると思うけど。攻撃力ではないしね」
「申し訳ありません」
「攻めてるんじゃないさ」ビゴマは淡々といった。「これは純粋な戦力分析。あんたの加護の力はものすごい。それがあればあたいも全力で戦える。でもラングはそれだけじゃなかったんだ」
「それほどの?」ウィズダムが尋ねる。
「あれは<御子>などと言う呼び名ではおさまらんよ」
アイゼンがうなずく。
「あれの使っている魔法は前例がない。いっそ神の奇跡よりも自由で強力でさえある。正直なところ、戦後の心配をしたくなるぐらいな。あれほどの力が自由に行動しているとなったとき、果たして人間は受け入れられるものか」
「心配要らないわ」クッカが澄まして言う。「そのときにはエルフの国で匿うもの。エルフは決してそんなことで差別はしないわ」
「人間よりはましだろうがな。あれほどの力となればそうも言えぬだろうて。仮にエルフがそうでも、他の種族が黙ってもおらんだろう」
「目の前の戦いの前に先のことを心配してもしようがないさ。そういうのはあれだろ、とらぬ狐のなんとやらとか」
「取らぬ狸の皮算用」
ウィズダムが溜息をついた。
「ぜひ戦後には教会で学んでいただきたい。ビゴマ殿も一角の人物として重用されることになりましょうからな」
「だからそういうのを取らぬ狸の皮算用、というんだよね?」ビゴマはにやりとしてみせた。
ウィズダムが把握しているところではルーラルの町の近くの森、湖の畔にずいぶん昔に放棄された貴族の避暑用の屋敷があるのだという。
どうやらそこが悪魔騎士の拠点となっていて、そこで悪魔を召喚して町へと差し向けているという。
ルーラルは多様な民族の集まりで、かつ近くにエルフ国もあるので、戦力という意味では恵まれていた。これまでのところは散発的な悪魔の手出しに対し、被害は出ているものの押し返せないという状況にはないという。
だが仮に悪魔騎士が前面に出てくるようなことがあれば、当然、町の戦力では抑えきれるはずもない。
ウィズダムらも把握できていないところが多数だが、実際に世界各地では何カ所かで悪魔騎士が出現していた。そして甚大な損失を出しながらなんとか撃退している状況にあった。
当然このような状態が続けられるはずもない。
「消耗を避けて悪魔騎士を倒す、か」
ビゴマは顔をしかめた。
「むちゃくちゃだね」
「エリーヌの魔法を駆使してなんとかするしかあるまい」アイゼンが言う。
「作戦はそれだけ?」
「基本的にはそれだけじゃな」
アイゼンはうなずいた。
「だが一つ材料がある。なぜこの悪魔騎士は最初から自分が出てこないのか。何か理由があるのであろう。それを知ることができれば、更に作戦を練れるというもの」
「どうやって調べる?」
アイゼンは重々しくうなずいた。「アイディア募集中じゃ」
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