第34話 ルーラルに迫る危機

 数日後。急使によってもたらされた情報はルーラルの町に<悪魔騎士>が出現したという内容だった。

 言うまでもなくラングの故郷であり、アイゼンやクッカも長らく住んでいた町だ。

「ラングの故郷を攻撃しようというのだな」

 アイゼンが憤った。

「卑怯なことよ!」

「だけどある意味で効果的じゃないね。ラングは失踪してる」ビゴマが言う。

「悪魔貴族はこちらのことを把握できていないんですね」エリーヌがうなずいた。「その点はありがたいな。これで実情が筒抜けだったら更に困る」

「行くんだろ」ビゴマが立ち上がって言った。


 <新英雄>と呼ばれるようになったクッカらは急いで出発した。

 距離も長いのでドワーフ王は馬車を提供してくれた。軍用の馬車で物資もかなり詰め込める。馬車を引く馬以外にも2頭が与えられた。

「ルーラルはどんなところなんですか?」エリーヌが馬車の中でクッカに尋ねた。

「そうね」

 クッカは顎に手を当てて考えながら説明した。

「世界的に見ればどこにでもあるぐらいの大きさの町。人間の国がエルフ国と接する要所というのが特徴ね。

「そのせいか、町にはエルフ以外にもドワーフを始め、多くの人間以外の種族も住んでいる。といってもやはり人間が圧倒的に多いから、酒場なんかも人間向けが多くて、そうでないのは私たちがよく出入りしていた店と数件ぐらいかしらね。そう、ラングはそこで給仕をしていたのよ?」

「<御子>なのに給仕を?」

「あなたも聞いたことはあるでしょうけどラングは<翻訳>スキルを与えられてから、多くの人々に蔑まれてきた。外れだってね。それまでは神殿の手伝いのようなことをしていたのだけど、相手にしてもらえなくなってね。神殿がいくら彼をかばってもしようがなくなっていたのよ」

「それで給仕ですか?」エリーヌは目を丸くしていた。

「店の主人が声をかけてね。きっかけは同情というか施しのようなものだったと思う」

「最初はな」アイゼンが深々とうなずいた。「じゃがすぐに奴の真価は発揮されるようになったぞ。店はほとんど人間以外が常連だったからな。そもそも<御子>を特別視するような連中じゃなかった。それにラングはそれ以上に聞き上手でな。すぐにラングに相談するために来店する客も増えた」

「相談に?」

「あれは神殿で培った才覚でしょうね」クッカが言う。「懺悔を聞いたり、そうでなくともいろいろな相談に乗ることが多かったから」

「わしらもその店の常連でな。ラングが来る前から店を知っておるが、ラングのおかげで客足は1割は増えたな」

「2割はいたとおもうわ」クッカが訂正する。「本当に相談するだけで来る客もいたもの」

「それをいれればそうかのう」アイゼンもうなずいた。

「さすがラングですね。<御子>かどうかじゃない。自分の力でやっていけたなんて」

「他にも<翻訳>スキルを使って大きな商売の契約書チェックや通訳もしていたわ。町に来たり取引をするような人たちは人間の言葉を話せるけど、やっぱりしっかりとした契約には言葉の行き違いは避けたいものね」

「<御子>なのに<御子>らしくない生活だったのですね」

「あれは<御子>出会ったことを喜んだことは一度もないんじゃないかの」アイゼンがうなずいた。「<御子>でなければ神殿で一角の人物にもなっただろう」


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