第33話 世界の危機その状況

 ドワーフ国の王都へ戻った一行は国王から最新の世界情勢を聞かされた。

 それによると<悪魔騎士>がわかっているだけで5人、世界中に現れていた。遠方のことについてはわからないことが多い。各地で甚大な被害を出しつつも英雄と呼ばれるような者たちがなんとかこれを撃退したり、膨大な損失を出しながらなんとか討伐すしたというこのようだ。

 だが<悪魔男爵>も現れたとの報告もあって、確実に地上の戦力は削られて言っていた。

 そんな中、更に一段上の<悪魔伯爵>を倒したことは朗報だったが、その立役者ラングが失踪したことで意味がなくなっていた。

 端的に言えば次世代の英雄が世界各地で活躍して悪魔貴族を駆逐しているが、損耗が激しい。しかも悪魔貴族は次々と現れていた。終わりの見えない中で戦力が消耗するのは悲観的な先行きと言わざるを得ない。


 そこにエリーヌが実は<御子>であったのだが、何らかの理由でその宣告がなされなかったこと。そのスキルは<悪魔伯爵>討伐にも非常に効果的であったこと。今後も<御子>としてこの世界の危機に前英雄であるクッカ・アイゼンらとともに立ち向かうつもりであることをドワーフ王は告知した。

 王都の群衆の前で宣言し、更に同じ内容の親書を近隣の国家へと送った。


 新たな<御子>の出現に人々は少し安堵することができた。


 エリーヌは王都での数日間でいささかやつれていた。

「体調がよくないの?」ビゴマがエリーヌの目の隈を見とがめた。

「そういうわけでもないんです。ないんですが」

 エリーヌは困惑した様子で言った。

「今、どこへいっても<聖女>などと呼ばれるのです。私はそんな立派な存在ではないのに。心苦しいというか、肩身が狭いというか」

「そうはいうけどね。エリーヌは美人だし、これまでもこのドワーフ国の王都で珍しい人間の神官として人々のために働いてきたんだろ。そういったことを総合して<聖女>だと思うのはおかしくないと思うけど」

「おかしくないといわれても……」

「まぁすぐになれるよ。それをいえばアイゼンもクッカもたいへんらしいしね」

「お二人は<ヴァーヴェル大戦>の英雄ですからね。当然、期待されます」

「あなたも同じになったのよ?」クッカは苦笑して見せた。「エリーヌだけじゃないわ。ビゴマだってね」

「あたいも?」ビゴマは手を振った。「あたいはそういうんじゃないよ」

「ラングが失踪した以上、私たちで戦うしかない。前衛がアイゼンとビゴマ、中央が私、後衛にエリーヌ。エリーヌの<予防>スキルがあれば誰か1人は5分間、攻撃に専念できる。前衛のどちらかにランダムに振り分ければ、連戦してネタがばれても対応できるでしょう。

「これが現代の<英雄>グループということになるわね。各地で善戦している人たちもいるけど、戦力としては私たちが最強となるでしょう。もしかしたら遠征に出ることもあるかも知れない。あるいはそうでなくても希望になれる。それだけでも私たちの役割を果たすことになるはずよ」

「悪魔貴族がどれぐらい出てくるのか、そもそもどうなっているのかがわからんと実際にはどうにもできぬがな」アイゼンが言う。

「悪魔についてはわからないことだらけだもの。<ヴァーヴェル大戦>から100年、何もなかったことを考えるとそんなに続くとは思えないわね」

 一同は黙った。

 それが希望的観測でしかないことは明らかだった。むしろ<ヴァーヴェル大戦>殿違いを考えるといよいよ悪魔の本格的な侵攻が始まったとみるべきだろう。

 だがもしそんなことだとしたら、この地上のすべての戦力を結集できてもどうにもならない可能性が高い。

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