第31話 火口における悪魔伯爵との戦闘

 ラングらは火口を目指した。悪魔貴族が好みそうな立地であるし、他に目立ったランドマークもないのだ。

 そして呆れたことに火口の縁にたどり着くと火口のそこに本当に悪魔貴族がいた。

 悪魔貴族は2体の<悪魔騎士>を召還したところのようだった。どうやら配下を失ったので次なる一手の為に配下を呼び寄せたと言うことらしい。


「<ソーラービーム>」

 悪魔貴族の詳細を確認することもせず、ラングはいきなり呪文を唱えた。

 その呪文に合わせて無数の鏡が空中に発生した。

 天気は快晴。

 鏡は太陽の光を反射してキラキラと光った。

 続いて鏡が向きを変え、反射する光が幾本かに束ねられた。

 そのすべてが火口のそこに集中する。

 灼熱のビームとなった超高温の太陽光線が悪魔貴族らを打ち据えた。

 <悪魔騎士>一人と周囲にいた悪魔はほぼ瞬時に消滅した。

 もう一人の<悪魔騎士>は右半身を失い、地上での身体を維持できなくなって消えた。

 悪魔貴族はかろうじて空に飛び上がって避けたが両足を失っていた。

「グォォォォ!」悪魔貴族は咆哮を上げた。

「<ペットボトルロケット>!」

 ラングはまたもや連射した。

 まったく狙いをつけていない、だが無数の攻撃が飛び上がった悪魔貴族をたたき落とした。たたき落とした後も更に打撃を続ける。

 地面に落ちた悪魔貴族は魔法の障壁を立ててこれを防いだ。

「ここまでか」

 ラングは肩をすくめた。

「接敵しますよ!」

 あっけにとられていたアイゼンらはその声に慌てて火口へ飛び込んでいった。

 クッカが精霊魔法で牽制しつつ、アイゼンとビゴマが武器を手に躍りかかる。

 悪魔貴族は足を失いつつも地面に身を起こして魔法で迎撃してきた。

「この<悪魔伯爵>シュイタット。この程度では!」

 <悪魔伯爵>はにやりとした。両手を挙げると突然雷雲が生じた。

「我が輩の雷魔法は特急品ぞ」

 強力な魔力で雷が発生した。ものすごい威力を感じさせる。

 アイゼンらはその魔力の大きさに目を見ひらいた。「これほどの魔力とは……」

 それは<悪魔男爵>を遙かに超える強力なものだった。

 悪魔貴族として1つ階位が異なるとここまでの力量の差になるのだ。

「ここまでか」アイゼンは思わず目をつぶった。

「風の精霊よ!」クッカは最大級の精霊に呼びかけてラングだけでも守ろうとした。

 <悪魔男爵>と対峙したことのある二人だからこそその力の差がはっきりとわかったのだ。

 だがいかんせん、雷というのはラングとの相性は最悪だった。

 ラングは淡々とつぶやいた。

「<避雷針>」

 ラングの作った避雷針でその強力な雷はラングの制御下に入った。強烈な一撃が<悪魔伯爵>に落ちた。


 <悪魔伯爵>の放った全力の雷魔法はラングの<避雷針>であっさりとその制御を奪われていた。結果、全力の雷が<悪魔伯爵>一点に集中した。

 強力な放電と共に<悪魔伯爵>の体は一瞬にして消えてしまった。


「……」

 ラングは雷の余韻が消え、<悪魔伯爵>の気配が欠片も残っていないことを確認するまでじっと見つめていた。

 そして完全に消失したことを確認すると肩をすくめた。

「幸運でしたね」

「いやいやいや」ビゴマが突っ込んだ。「あの魔法はなんだい?」

「太陽光を集めたんです。今日がよい天気でよかった」

「太陽?」

「真夏の太陽は熱いでしょう? あれを無理矢理、もっと広い範囲からかき集めたようなものです。そうすると鉄をも溶かす高温が作れるんですよ」

「鏡で?」

「鏡ですね。原理的には鏡をもった兵士が多数いれば再現できる、かな。ただ向きの調整が細かに必要なことと立体的に鏡を配置しないと足らないので現実には無理かも知れません」

「それから悪魔は飛んだよな?」

「我々は飛べませんから、相手に飛行されると厄介ですからね。いつもの<ペットボトルロケット>で迎撃しました」

「あんなに撃てるもの?」

「まぁ、できますね」

「最後のは?」

「雷は制御できるんですよ。相手から奪っただけです。いや、凄い雷魔法でしたね。そのすごさが相手にとっては命取りになったわけですけど」

 ビゴマはどっさりと座り込んだ。

「ラングの勝ちだね。ま、とにかく勝った。理屈はよくわからないけど、大事なことは生き延びて、相手を倒したってことだもんね」

「今さらラングのことでは驚かぬつもりであったが」アイゼンも座り込んだ。「疲れたわい」

「ラング、体は大丈夫?」エリーヌが聞いた。「皆さんも」

「結果としては遠方から打撃を加えただけで済みましたから。私はなんともありませんよ」ラングはうなずいた。「でも、あれです。ここまでは出来過ぎなのであってこんなにうまくいくのは偶然ですよ」

「それでも、あなたは<悪魔伯爵>を倒した。人々の希望をつないだんです」

「無理ができるのはエリーヌの魔法があるからですよ。短期決戦なら実質的に反撃を恐れないでよいわけですから」

 エリーヌは首をかしげた。

「わかってなかったんですね。エリーヌの<予防>があるので、5分間は敵の攻撃を無視できるんです。いいかえれば5分以内で決着できるように全力を投入できる。これはものすごいアドバンテージなんですよ。こういった小規模戦闘では5分も続けて戦闘することはほとんど考えられないですからね」

「私も役に立っている?」

「とてつもなく。あなたが戦場に出て来てくれたので5分間が稼げている。いわば無敵の盾なんです」

 エリーヌは微笑んだ。「お役に立てて幸いです」


 ラングの本音もエリーヌの<予防>スキルは非常に強力な魔法だと認識していた。これは治療あるいは防護系の魔法に分類されるように見えるが、実際には筋力増加などと同じブースト系の魔法と考えた方がよい部類のものだ。

 この魔法効果の存在は戦術自体を大きく有利なものにする、非常に強力なものだった。

 一方でラング自身の攻撃はまさに偶然に左右されるものばかりだった。

 <ペットボトルロケット>はよい。これは非常に使い勝手がよいが、悪魔貴族相手には牽制にこそなれ、攻撃力不足で決め手にはなり得ない。

 <避雷針>も<ソーラービーム>も天候条件に大きく左右される。相手にとって初見であれば天候を選べば効果を発揮できるが、そうでないと悪魔貴族レベルだといくらでも対策をとれる。

 つまりラングの攻撃力は偶発的なのだ。これは非常に信頼性が欠如している。

 そのことにラング自身は気づいているので、<悪魔伯爵>を倒しても喜んではいられなかった。

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