第29話 王都の復興
水源の改善とともに王都の復興は急速に進んでいた。
一方で王都から脱出していた人々も疫病が収まったという噂を聞いて徐々に戻ってきた。彼らは同時に近隣の町から物資を買い付けてきていたので、王都の復興は更に進んだ。
王都外から人が戻ってきたことで、情報も集まるようになった。
いや。正確に言うと人々が戻ってこない方向がわかってきた。
ある日。商人ギルドのギルド長がラングを訪問した。
「ラング。商人ギルドの長があなたに会いたいといってきているわ」エリーヌが言った。
「商人ギルド?」
「ドワーフは武具を始め様々な道具を作っているから、それを国外で販売する人たちが必要なのよ。あいにくとドワーフのほとんどは商売に関心がないから、商人ギルドは人間がしきっているわ」
「なるほど。用件はわかりませんが、会いましょう」
商人ギルドの長は確かに人間だった。高齢というのにさしかかった女性だった。
「商人ギルドのアキと申します」
「ラングと言います」
「ご多忙の中、お時間を割いていただくので端的に話したいと思います」
アキは言った。
「この南西には人間の王国があり、その間には<ヴァーヴェル大戦>の激戦地ともなった山脈がございます」
「それはわかります」
「疫病を恐れた人々はあちこちへと逃げていきました。その中である者たちはその山脈を越えるルートを選んだのです。ですがその方面へ行った者たちだけが戻ってきてないのですよ」
ラングは眉をひそめた。「どういうことでしょうか……。いや」
「お察しの通り、噂は広がって人々は王都へ戻ってくるようになりました。他の方向へ行った者たちは帰ってきているのです。山脈越えを目指した者だけが戻ってこない通りがありません」
「なにかあったと?」
「そう考えるが妥当でしょう」
「その調査を?」
「お願いしたい。商人ギルドにはもとよりそのような力はございません。普段であれば傭兵を雇うのが商人ギルドの常ですが、今はまだ王都の復旧に必要な貴重な人材です。彼らを雇ってこの王都から引き離すのは得策ではありません」
ラングはうなずいた。「ご高配ありがとうございます」
「考えてはいただけませぬか?」
「何があったと推測しているんですか?」
アキは表情を曇らせた。「正直に言いましょう。山脈を目指した中には私の息子が率いる隊商があるのです。隊商には専属の腕利きの兵士たちがおりました。更に魔法使いも。伝書鳩だってもたせてありました。あれだけの戦力が一人も帰ってこないとなれば」
「相当な戦力でないといけないわけですね」
「伝書鳩まで留められる戦力とはどんなものでしょうか?」アキは絶望していた。「もはや息子の無事は期待できますまい。それでも消息ぐらいは確認してやりたいと思うのです」
「悪魔貴族の可能性、ですね」
ラングはうなずいた。
「確かにお伺いしたところではその可能性がある。それに今この王都から大規模戦力を引き離すのは困ります」
「ありがとうございます」アキは頭を下げた。「謝礼はもちろんですが、できるだけの支援をさせていただく所存です。まだ乏しいですが物資もできる限り集めましょう」
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