第28話 明暗
王都は喜びに満ちていた。
ドワーフを中心とした住民たちは最初は困惑・激怒した。
疫病で苦しんで王都を出ることもできない人々も多いのに、突然、神官や兵士がやってきて彼らの服をはいで燃やし、水や酒を使って無理矢理体や住居を洗われたのだ。神官らは魔法で癒してもくれたがとても手が足りているとは言えなかった。むしろ寒さで体調を崩す者も少なくなかった。
国王が備蓄の食料と毛布やテントを大量に放出したことで少しは落ち着いたが、突拍子もない、前代未聞の振る舞いに人々の怒りは増していた。
だが数日して疫病が明らかに収まっていくと、それが疫病対策であることがわかってきた。
更に<悪魔騎士>が2体も討伐されたというニュースが広まった。
疫病から解放され、その原因らしき悪魔も退治されたとあって、王都が大打撃を受けたものの明るい展望が見えていた。
それは王城でも同じだった。
疫病で滅びるか、市民の暴走で滅びるか、つい先日まではそのどちらかしかないという見通しだった。
だが疫病も抑制され、<悪魔騎士>が倒されたとなれば、後は復興するだけである。
だからラングが登城し国王に謁見を求めるとドワーフ王は褒美を与えるつもりでいた。
だがドワーフ王の前にあらわれたラングは悲壮な表情を浮かべていた。
「な、何があったのだ、ラング」
「自体はまったく解決していないのです、陛下」
「疫病はそなたの提言でほとんど鎮圧された。王都に潜んでいた<悪魔騎士>もそなたが倒したのであろう?」
「<悪魔騎士>は何者かの手先に過ぎませんでした」
「なんと?」
「何者かの指令で<悪魔騎士>は行動していたのです。原因は見えてもない、それが現状です」
「<悪魔騎士>を配下とするような……<悪魔男爵>が再臨したと言うことか? <ヴァーヴェル大戦>の再現となるのか?」
「<悪魔男爵>だという証拠すらありません。もっと上位の悪魔貴族の可能性もあります。実際に<ヴァーヴェル大戦>では<悪魔男爵>は他に悪魔貴族を連れていませんでした。しかもどこに潜んでいるかもわかりません」
「それでは<ヴァーヴェル大戦>以上の危機ではないか!」
ドワーフ王は叫んだ。
ラングは冷静にうなずいた。
「その通りです。たいへんなことなんです」
「<御子>は、<御子>の力でなんとかなるのであろう?」ドワーフ王は半ばすがるように言った。
「<ヴァーヴェル大戦>では<御子>ウィズダムとアイゼン、クッカがそれ以前に多数の損害を出してやっと<悪魔男爵>を倒しました。とても楽観できる状態ではありません」
ラングは突き放した。
「当時以上の損害を出す覚悟をしていただければ、あるいは可能性があるかも。その程度です」
<ヴァーヴェル大戦>では当時の人口の2割が失われたとも言われている。それも戦闘能力の高いものが中心に失われたので、その後の世界はしばらくの間、不安定であった。
仮に勝ち抜いても、その後には平穏な社会があるとはいえないのだ。
「どうすれば、どうすればよいのだ?」
「それはわかりません。とりあえずエルフや人間など、主立った種族の統治者に協力をしてもらう必要があるでしょう」
「使者を出そう」ドワーフ王は言った。「各地へ急使を派遣する」
「それがよいでしょう。情報も集められると思います」
ドワーフ王は有力なドワーフを選んで各地へと派遣した。
1ヶ月ほどかけていろいろなことがわかってきた。
その中でも重要なことは<悪魔騎士>は世界の何カ所かにあらわれたらしいということだ。ここ以外ではかなり大きな被害を出してやっと倒したようである。
これ以上の被害が出れば、国家として成り立たなくなる地域も出てくるだろう。
そのためドワーフ王の呼びかけは信じてもらえはしても、協力はほとんど得られないという結果になった。どの国も自国の防衛に力を割き、外国へ戦力を出そうなどとはしないのだ。
そんな中、神殿はエリーヌに新たに<御子>の地位をあてた。未来予知の女神プレイフェの<御子>だったが、何かの影響でその予言がなされなかったとしたのだ。
エルフは一瓶の<万能治療薬>エリクサーを提供し、クッカにそのままラングらに同行する命令を出した。
一方で<悪魔騎士>が現れたという場所をラングは大きな地図にプロットしていた。
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