第27話 <悪魔騎士>を部下とする悪魔とは

 水道の急ピッチの整備で疫病は更に減っていった。

 だがある日、神殿に王城からの急使がやってきた。

「ラング殿!」

「何事です」地図を睨んでいたラングはそのまま言った。

「地下水道を掃除していた部隊が悪魔と遭遇しました!」

 ラングは顔を上げた。「どこですっ?」

「東門の近く」

 急使は地図を見て指さした。

「このあたりです」

「行きます」

 ラングが駆け出すと近くにいたエリーヌもついてきた。

「危険ですよ」

「あなた一人で行くよりはよいですよ」エリーヌは言い切った。

 ラングはうなずいた。確かにエリーヌの魔法は強力なはずだ。だが危険にさらされるという問題もあるのだ。

「クッカさんも、アイゼンさんも、ビゴマさんもここにいないんです。呼びに行っても間に合わないでしょう?」

「わかりました。後方支援に徹してください」


 ラングらが現地へ到着し水道へ潜ると、そこには多数の兵士が倒れていた。

 だがまだ戦闘を継続している兵士もいて、その向こうには……。

「<悪魔騎士>」ラングはうめいた。「またか」

「あれが<悪魔騎士>」エリーヌは目を瞠った。「なんというおぞましい気配でしょう」

「全員待避! 地上へ!」ラングは命じた。

「しかし」戦闘中だった兵士は抗弁した。

「これは命令です。ドワーフ王より託された権限の範囲です。急げ!」

 ラングは兵士と入れ替わるように前へ出た。

「<ペットボトルロケット>!」

 ラングが唱えると空気のロケットが無数に生み出された。

 ペットボトルなどという透明な容れ物はこの世界には存在しない。ガラス瓶ですら無色透明なものはない。そのためにペットボトルロケットは空気の塊だと変換されていた。それがロケットとして撃ち出される。もはやミサイルだ。

「<ペットボトルロケット>!」

 ラングはこれを連続的に撃ち出した。

 <悪魔騎士>は<ペットボトルロケット>ではダメージはなさそうだが、空気の力で押し返され前に進めないでいた。

「<ペットボトルロケット>!」

 その間に兵士たちは全員待避した。エリーヌもラングの指示で地上へ上がっていた。

「一騎打ちとは片腹痛い」<悪魔騎士>は嘲笑した。「一人で勝てるとでもいうか」

「勝てない理屈もない」

 ラングは答えた。

「疫病源を更に広げることなど絶対にさせない」

「病原菌をばらまけとの命令だったが、その前にお前を殺す方が価値がありそうだ」

 <悪魔騎士>は大剣を構えた。

「<御子>ラング。ここで死ぬがよい!」

「<塩酸>!」

 ラングは<悪魔騎士>の向こう側、上流の水に魔法を放った。

 水の流れに足をつけていた<悪魔騎士>の足下が溶けた。

「<重力軽減>!」ラングは叫ぶとジャンプして、天井にぶら下がった。

「がぁぁぁっ!」

 強烈な塩酸と化した水の流れは金属鎧の体をもつ<悪魔騎士>の足下を溶かした。

 更に足を溶かされた<悪魔騎士>は倒れ込み全身が溶け出した。

「おのれ!」<悪魔騎士>は最後の力で大剣をラングめがけて投げつけた。

「<ペットボトルロケット>!」

 しかしラングはそれをペットボトルロケットの連打で迎撃した。

 大剣が打ち落とされるときには<悪魔騎士>は完全に溶けて消えていた。


 地上に脱出した兵士とエリーヌたちは水道の様子をハラハラと伺っていた。

 そこへ突然。

「がぁぁぁっ!」悲鳴が聞こえる。

「ラング……」エリーヌはラングの無事を祈った。

「おのれ!」叫び声が聞こえた後、悲鳴も消えた。

 恐ろしいまでの静寂だった。

 しばらくして水道の入り口からカラン、カランという音が聞こえてきた。

 音は徐々に大きくなってくる。

「全員、構え!」兵士が叫ぶ。

 だが現れたのはラングだった。

「<悪魔騎士>の討伐は完了しました」


 それはとんでもない偉業だった。たった一人で<悪魔騎士>を倒したのだ。

 <ヴァーヴェル大戦>では大勢の犠牲の後、アイゼン、クッカ、ウィズダムが弱った<悪魔男爵>を倒した。アイゼンの故郷ではアイゼンらの支援もあって<悪魔騎士>を倒した。

 だが今回は完全に単独で無傷だった<悪魔騎士>を倒したのだ。人々はその明るい展望に希望を抱いた。


 一方でラングは悪い展望にいささか暗い気持ちでいた。

 <悪魔騎士>を倒せたことは喜ばしい。

 だが<悪魔騎士>は明らかに疫病事件の首謀者ではなかった。だとすれば<悪魔騎士>を配下にするような存在がいることになる。

 <ヴァーヴェル大戦>と同じ<悪魔男爵>、あるいはそれ以上に上位の悪魔貴族の存在が明確に疑われる。

 ここまではなんとかなったが、これ以上の悪魔が現れたときになんとかできるという期待は持てなかった。

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