第25話 褒賞

 王都での疫病は急速に収まっていった。

 現代地球であればこうはうまくいかないだろうが、なんと言っても魔法があるのが効果的だ。衛生面での問題さえ解決し、疫病の根源も絶ったことで、急速に患者数は減り、被害も出なくなった。

 このことはこの世界を後に大きく変えることになる。これまでほとんどなかった公衆衛生という概念が明らかになった。これから十数年をかけてその知識が広まり、世界中で疫病が広く広がることはなくなったのだ。


 王城ではその功績はアイゼンにあると考えられていた。

 そこでアイゼンとその仲間に対して招集がかかった。

 正しくラングの功績が伝わっていないことに憮然としたアイゼンであったが、クッカがとりなして一緒に登城することとなった。

 謁見の間には大勢の貴族が集まっていた。といっても鍛冶一番のドワーフたちである。きらびやかな衣装ではなく、おそらくはそれぞれ自作かお抱えの鍛冶師による金属鎧を着込んでいる。武器も装飾品のようだ。いや、武器の持ち込みはさすがに禁じられているから、武器の外見をした装飾品で正しいのだろう。

 アイゼンらが玉座の前にひざまずくと、ドワーフ王が立ち上がっていった。

「このたびはアイゼンらの働きにより王都は疫病の危機から救われたと聞く」

「失礼ながら」アイゼンは口を開いた。「お話をしても?」

「もちろんだ」

「このたびの功績はここにいるラングによるものです。ラングは人間の言う<御子>ですが、それよりもその知識と働きで疫病を抑え込んでくれたのです」

 ドワーフ王は目を丸くした。アイゼンと並んでいたクッカに目を向ける。「クッカ殿?」

「その通りです、陛下」クッカも言った。「アイゼンも私もその手伝いをしましたが、我々に疫病対策の知恵があったのではありません。このラングが神殿の者たちを指導し、疫病を抑え込んだのです」

「悪魔が王都に潜んで追ったという報告も受けているぞ?」

 それには黒い鎧を着たドワーフが進み出た。「よろしいでしょうか?」

「軍事大臣か」

「はい。傭兵ギルドより報告がありました。傭兵ギルドは盗賊ギルドと協力し、疫病源を隠し持っていた悪魔を発見。これを討伐したとのことです」

「両ギルドが手を組んだと?」

「それはそちらのラング殿の依頼であったとのことです。ラング殿から情報が提供され、盗賊ギルドがこれを発見、傭兵ギルドの最上級戦士がこれを討伐。これらの経緯より両ギルドはラングへの謝礼を検討すべしと上申しています」

 ドワーフ王はラングへ目を向けた。「ラング殿。どうやら我々は十分に理解しておらなかった様子。その点を謝罪したい」

「もったいないお言葉です。私はただ指示したのみで、実際に手を動かしたのは神官らや両ギルドの面々です」

「だがその知恵なくしては疫病は収まらなかったであろう。この国はそなたに最大限の感謝をしたい。追って御礼を検討いたしますが、何か望みはあるまいか?」

 ドワーフ王の申し出にラングは少しだけ考えた。

「3つございます」

「いってみて欲しい」

「一つはこの町の水道を改善することです。この街の水道は1本の川からの取水で成り立っています。そのために上流を抑えた悪魔は疫病をたやすくばらまいたのです。ですから井戸も掘り、水源を複数に分けるべきです」

「それは王都の改善の問題であるな。もちろん対処するがそれはそなたへの謝礼ではあるまい」

「2つ目は悪魔の足取りの調査です。私どもは<悪魔貴族>が背後にいると考えています」

 居合わせた貴族らはどよめいた。「大戦の再現か」

「<ヴァーヴェル大戦>と同じです。我々は既にアイゼンの故郷の村で<悪魔騎士>と対決しました。ですがそれはこの王都の疫病の前です。他にもっと力ある<悪魔貴族>が関わっていると考えています」

「それは国防の問題だな。もちろん対処する。むしろそなたの力を借りたい」

「3つ目は陛下の知己を得ることです。私は人間社会では後ろ盾がないばかりか、無益なスキルを有する<御子>とされています。<悪魔貴族>と戦うには人間の理解も必要です」

「無論だ。ドワーフ国は全面的にラング殿を支援しよう」

「神殿はもとより<御子>をおとしめることはございません」エリーヌがはっきりと言った。「人間社会にも決してラングを低く見ていない者たちもいることはご理解ください」

「さもあろう。だがいずれもラング殿への謝礼とはならぬようだ。何か個人的な望みはないのかな?」

 ラングは困ったような顔をした。「そう言われましても」

「しばし考えてもらえればよい」ドワーフ王は鷹揚に言った。「まずは事態に対処しようぞ」

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