第22話 神殿の惨状

 ラングは王都では神殿を拠点とするつもりでいた。

 この世界の神殿は多数の神をまとめて奉っている。どの神のという専用はない。ここはドワーフの国なので神殿もさほど大きくはないが、この国に住む人間やドワーフの中にも信奉する者が僅かにいて、神殿として成り立っていた。

 ラングは<御子>だから神殿ならばなにがしかの対応を期待できる。

 だがアイゼンの案内で神殿へと到着してみると、そこはむしろ王都でも一番悪いと思われるような状況だった。


 神殿の周りには亡くなってしまった人の死体がそのまま放置されていた。

 そんな中に神殿の救済を求める力のない市民が集まっていた。

 だが神殿にはそれらに応える力はないのだろう。無気力な様子の神官が市民と同じように立ち尽くしている有様だった。


「これはひどいな」アイゼンが顔をしかめた。「神殿でこれとは」

「ちょっとおかしいんじゃないの」

 ビゴマが言った。

「いくら何でも神殿が最も酷いなんて考えられないでしょ」

「たしかにな」アイゼンもうなずいた。

「神殿が狙われた、ということかしら」クッカが言う。

「そうなんでしょうね」

 ラングは進んでいった。

 慌ててクッカらが追いかける。

 ラングは手近なところにいた神官をつかまえた。

「この神殿で一番偉い人はどこですか?」

「……神殿長は聖堂にいらっしゃるはずだ」

「聖堂は?」

「あの建物です」

「ありがとうございます。あなたはまず井戸へ行って手、いや全身を洗ってください。服も清潔な物に着替えること」

「……」神官は呆然とラングを診た。

「これは<御子>の命令ととってください。私はラングといいます」

 神官は目を見ひらいた。「<御子>」

「そうです」ラングは内心は忸怩たるものがあったがその肩書きを使った。

「わかりました。お申し付けの通りに」

 神官は小走りに去って行った。

 ラングは示された建物へ向かった。

「凄いじゃないの、ラング」クッカが感心したように言う。

「使えるものは使わないと間に合いそうにないですからね」ラングは肩をすくめた。

 聖堂に入ると中はがらんとしていた。もはや誰も神に救いを求めていないと言うことだろう。

 その最も奥、祭壇の前に神殿長らしき人物がいた。

 その人物は力なく祈りを捧げていた。

「神殿長でしょうか?」

 ラングは声をかけた。

 その調子は普段のラングらしくない、少し乱暴なものだった。

「その通りです。あなたは?」

 神殿長は振り返った。

「あなたは……<御子>ですか」

「ルーラルのラングといいます。<御子>と呼ばれていました」

「おぉ!」

 神殿長は空を仰ぎ見た。

「神々は我々を見捨ててはいなかった!」

「そんなことを行っている場合ではありませんよ」

 ラングは素っ気ない。

「これは疫病です。魔法や呪いではないんです。ある意味では人災ですよ」

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