第2章 悪魔伯爵編

第20話 再びドワーフ王都へ

 ラングはクッカ、アイゼン、ビゴマとともにドワーフ国の王都へと戻ることにした。

 <悪魔>の顕現はとんでもない事件なのだ。それを察知したエルフはよいとしても、ドワーフ国王に伝え、更に人間の国王にも伝えるつもりだった。

 しかも<悪魔>は1体ではないという。もしもっと強力な悪魔が地上に顕現したとすれば、<ヴァーヴェル大戦>以上の災害となる。

 ラングのような一介の平民が国王への進言などできるはずもないが、なにしろクッカもアイゼンも<ヴァーヴェル大戦>の英雄だ。その名を出すことさえすれば、どの国でも国賓級の扱いを期待できる立場だった。


 村から王都へと向かう一行であったが、村に近づくにつれ街道沿いに難民のような旅人が多数いることに気づいた。

 最初はただの旅人や隊商がキャンプをしているだけだと思った。

 だがそれにしては数が多く、また空気も重かった。

 休憩のために馬を止めたところで、ラングは近くにいた隊商らしき集団に近づいた。

「それ以上近寄るな!」すると槍を持った兵士がその行く手を阻んだ。

「これはどういうことですか?」

 ラングは両手を挙げて害意のない姿勢を示した。

「なにもしていないですよ」

「とにかく近づくな。要件は何だ?」兵士は居丈高にいっているが、どこか恐怖を覚えているようでもあった。それに話を聞かないと言うことでもないらしい。

「私たちはあちらの村から来たところです。ずいぶんと多くの人が街道沿いに休んでいるので何事かと」

 兵士は顔をしかめた。「それじゃ何も知らないんだな。まだ伝わってないのか」

「なにをです?」

「そこで待て。絶対にそれ以上前に進むなよ」

 兵士はそう言って威嚇すると、馬車の向こうへ消えた。

 しばらくして兵士と共に、恰幅のよい中年男性が現れた。

 最近まで景気がよかったのだろう。その衣服は上等なものだったが、今はずいぶんと薄汚れていた。

「私は商人のアキードといいます。何かご用だとか?」

「私たちはあちらの村から来ました。街道沿いにずいぶんと休んでいる集団を見かけるようになったので、なにかあったのかと」ラングは繰り返した。

「なるほど」

 商人はうなずいた。

「商人としては情報でもお売りできるものがお売りするのですが」

「銀貨1枚では?」

 ラングが言うと商人は弱々しく首を振った。

「ですが、ここはただで教えましょう。この情報で儲けるつもりにはとてもなれませんよ」

「なにが?」

「ドワーフの王都は疫病に冒されつつあります」


「疫病ですって?」ラングから話を聞いたクッカは目を見ひらいた。

「そんなことあるのかな」ビゴマが言う。「あたいたちはつい先日、王都を出てきたばかりだけど、そんな気配はなかっただろう?」

「疫病が急激に広がることはあるけれど」クッカは考え込んだ。

「タイミングから考えて、これを偶然と片付けるのは難しいだろう」アイゼンが言う。

「これも悪魔の仕業だと?」

「そう考えておくべきだろうな」アイゼンはうなずいた。「奴らには同義は通じぬ。どうやったかはわからんが、疫病が使えるなら使うだろうよ」

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