第18話 宴会と反省会
酒場での経験からアイゼンが大酒飲みであることは知っていた。他にもドワーフの客はいたがいずれも酒飲みだった。
だからラングにとっての認識はドワーフは酒飲みだ。だがその程度は彼の認識を超越していた。
ドワーフは酒のためなら美味しい料理も全力で研究する。といっても酒と合う料理なので全体的に濃い味つけのものばかりだ。
ドワーフはケチらない。宴会には全力だ。
村の危機が救われた、その窮地を救ってくれた英雄をもてなすともなれば、宴会への情熱・投資はものすごいものがあった。
「うぅぅぅ」
翌朝。胃もたれと激しい頭痛に、ドワーフという種族を正しく認識していなかったことをラングは強く後悔していた。正直なところ悪魔騎士との戦いよりもドワーフの宴会は厳しい戦いだった。
村の窮地を救ってくれた。人質となったこどもも救ってくれた。それに大いに感謝した村のドワーフたちは大宴会を始めたのだ。当然、主賓はラングたちだ。
アイゼンは身内という扱いなのか主催側に回っていた。
クッカはエルフなのでドワーフとの相性があまり良くない。早々に退席しても誰もとがめなかった。
ビゴマは幾ら飲んでも陽気になるだけでつぶれないのだ。あれは特殊能力に違いない。
最初は美味しい料理に舌鼓を打っていたラングだが、入れ替わり立ち替わりやってきては礼を述べるドワーフの酌で浴びるように酒を飲んで最後はつぶれたのだ。
あいにくとまだ二日酔いや頭痛の原因とその対処を記した本には巡り会っていないので、ラングは頭痛を<翻訳魔法>で癒やすことはできなかった。
時間をかけてなんとか起き出していくとテラスでクッカがお茶を片手にくつろいでいた。
「おはよう、ラング」
「おは、ようございます」
ラングは口を開くと更に鈍痛が響くことに気づいた。
「うぅ」
クッカは苦笑した。新しいカップにポットからお茶を注いだ。「これをお飲みなさい。頭痛も和らぐわよ」
「ありが、とうございます」ラングはカップを受け取ると一気に飲み干した。
それから椅子に崩れるように座りしばらくぼうっとしていた。
クッカも何も言わなかった。
「少し落ち着きました。ありがとう、クッカさん」
「それはよかったわ」クッカは微笑んだ。
「ところでエルフ国からの召還は何だったのですか? それになぜここに?」
クッカは居住まいを正した。
「その話をするにはアイゼン、ウィズダム、私がヴァーヴェル大戦の英雄と呼ばれているものだというところから話をしなければいけないわ」
「それはもうおおよそ承知しています。アイゼンが認め、ビゴマが教えてくれました」
「そう。知ってしまったのね」クッカは少し悲しげだった。
「すごいことですよね。そのことをルーラルで秘密にしていたのは騒ぎを嫌ったからですか?」
クッカは首を振った。「それもないわけではないけれども、年齢を感じるからね」
ラングは吹き出した。「はい?」
「100年も前のことなのよ?」
「はい」
「長命のエルフにとってはね、100年はついこの間。それはわかってるわね?」
クッカは鬼気迫る勢いでいった。ラングは慌ててうなずいた。
「よろしい。でも人間にとってはあいにくと3世代に相当するわ。下手をすれば4,5世代ね。ずいぶん前のことと思うことでしょう。
「そんなに年が離れていると思われたくないの」クッカは真顔で言い切った。
「わかりました」ラングはこくこくと頷いた。
「実はね、アイゼンと私はそれぞれの国から英雄としての褒賞として結構な年金をもらっているの。でもね、一つだけ条件がついてる」
「それは?」
「再び悪魔が降臨するときには召集に応じること」
クッカの説明は衝撃だった。
「エルフはここでの悪魔騎士のことを予見していたんですか?」
クッカは首を振った。「正確に言えば予見ではないわ。悪魔が地上に顕現したことを察知したと言うべきでしょう。その邪悪な気配をエルフの女王が精霊たちの声で知ったのよ。精霊から見れば悪魔はその存在自体が忌むべき存在だから」
「なるほど、それで悪魔騎士の居場所もわかって討伐にきたわけですね」
ラングは納得した。
だがクッカは首を振った。「少し違うわね」
「違う?」
「違うのはね、ラング、悪魔は1体ではないということよ」
ヴァーヴェル大戦で悪魔男爵を地上の知性ある生き物は手を組んで、それでも大きな損害を出しながらもなんとか征伐した。
今回ラングらは悪魔騎士を倒したが、その成果は偶然による要素もかなり大きかった。一つ間違えば敗北していただろうし、その場合の損害はこの村一つという規模でさえなかっただろう。そもそもこのタイミングでこの村へ来ていなければ、それだけでも被害は甚大なものになっていただろう。
そんな強力な存在が複数この地上にいるとしたら……。
「そんなばかな」
「悪魔は同じ場所から地上に顕現しているようなのよ。何か秘密があるに違いない。でもその場所は特定できていないの。おそらく悪魔が隠匿しているのね。
「それに顕現した悪魔すべてを検知できているとも言い切れない。そもそも出現場所が隠れている時点で多くの悪魔が検知されないでいると考えるべきでしょうね」
「……」
ラングは絶句した。
更に悪魔が増えることすら考えられると言うことだし、悪魔騎士よりも上の力のある悪魔の可能性もある。
「そんなのどうするっていうんですか……」
クッカは唇をかみしめていった。
「これは言いたくないんだけれど、エルフ国からの指令なの。ごめんなさいね、ラング」
「なにを」
「この地上で確認されている現役の<御子>は一人だけなの。ラング、あなたね」
クッカはとても申し訳ない様子で言った。
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