第17話 悪魔騎士討伐
「<避雷針>!」
ラングの<翻訳>魔法は悪魔騎士の放った雷すべてを集めた。
強力な雷が悪魔騎士に何度も落ちた。
超高温になって悪魔騎士の鎧は蒸発した。
雷雲は消えた。
「ふぅ」ラングは溜息をついた。
あくまでもラングは雷を集める魔法を使っただけなので、その破壊力に比してほとんど疲れていなかった。なにしろあの魔法効果のほとんどは悪魔騎士自身によるものだったからだ。
「英雄だ!」
ドワーフから声が上がった。
「俺たちの村を救ってくれた!」
「子どもの命を助けてくれた!」
「大戦以来の<悪魔殺し>の英雄が現れたぞ!」
大喝采のほとんどはラングに向けられていた。
ラングは戸惑った。「いや、そんな」
「あんな凄い魔法が使えるなんて思わなかったぞ」ビゴマがやってきた。
「そうじゃないんですよ。あれは悪魔騎士の魔法なんです。こっちはそれを集めただけで」
ビゴマにはよく理解できないようだった。
アイゼンもやってきた。彼には原理がわかっている様子だった。
「それにしても凄い効果だぞ、ラング。オーク鬼どもを屠った魔法も凄かったが、何より最後のは相手の力を上手く使ってのけたな」
「ラング!」屋根の上からクッカが飛び降りてきた。
そのままほとんど体当たりの勢いでラングに抱きついた。
「大丈夫?!」
ラングは地面に半ば叩きつけられるようにしつつもなんとかクッカを受け止めた。
「……正直なところを言うと今、頭を打って死ぬかと思いました」
クッカはほおを膨らませてラングを睨んだ。「もう。本当に。怪我は?」
「ありません。クッカはなぜここに? エルフ国へ召還されたんですとね」
「それは……後にしましょう」
クッカは起き上がるとラングが立ち上がるのに手を貸した。
「これでラングも<悪魔殺し>の仲間ね、ビゴマも」
「あたいはどうかな」ビゴマは頭をかいた。「戦闘には参加したけどね」
「それをいったらウィズダムだってね。直接、相手に手を下すだけが戦いじゃないわ。ようこそ英雄グループへ」
ここまでのことでラングにもおおよそ理解できるようになっていたが、先の<ヴァーヴェル大戦>で悪魔男爵を倒したのはドワーフ戦士のアイゼン、エルフ精霊使いのクッカ、未来予知の女神プレイフェの神父ウィズダムだった。
先の大戦では悪魔男爵バルロンが地上に顕現した。バルロンは大勢の悪魔兵士を召喚し、人間やドワーフら地上の生き物との戦争になった。長い期間と膨大な損害を出しながら地上の生き物たちは手を組み・総力戦に臨み、ついに悪魔男爵をその拠点となっていた城に追い詰めた。そして最後に何十名かの手練れが派兵された。城では悪魔男爵の配下との壮絶な戦いが続き、その中で彼ら3名が生き残り、悪魔男爵にとどめを刺したのだ。
この3名こそが<ヴァーヴェル大戦の英雄>として知られている存在だった。
といってもラングにとっては酒場での上客2名と育ての親だった。
ラングはそれを理解すると頭がクラクラしてきた。
「ま、ちょっとでも並び立つことができたなら嬉しいね」
アイゼンの武勇伝に憧れて傭兵になったというビゴマは単純に嬉しそうだった。
「ここまでやってきた甲斐があるってもんだ」
「ビゴマも頑張ったわね」
クッカがビゴマの頭をなでようと手を挙げるが、ビゴマの背が高すぎて手が届かない。ビゴマは苦笑しつつ腰を折って頭を下げた。
クッカは微笑んでビゴマの頭をなでた。
「よくやってくれたわ」
「ラングも死なせなかったしな」アイゼンが言う。
「それがとても重要なところ」クッカもうなずいた。
「お褒めいただくのは嬉しいけど、ここでの武勲はほとんどラングのだからね」
ビゴマも言う。
「むしろ助けられたのはあたしもそうだしみんなもそう」
「まぁな。現役復帰したもののあまり活躍はできんかったな」
アイゼンは言った。
「年寄りには酷なことよ。だがラングの魔法はクッカのそれを凌駕しとるのじゃないかね」
「そうね。嬉しいけど心配も」クッカもうなずいた。「後でいろいろとよく話しましょう」
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