第16話 更なる奇襲

 悪魔騎士は人質のドワーフの子どもを足がつくくらいまでは下ろした。こどもはやっと呼吸ができるようになって荒い息をついた。

「その子を離せ」アイゼンがうなるように言う。

「立場がわかっていないようだな」

 悪魔騎士は悠然と言った。

「命令できる立場にあるとでも言うのかね」

「……どうすればよい」アイゼンは唇をかみしめて押し出すようにいった。

「武器を捨てろ。それからそっちの魔法使いには話せぬように猿ぐつわをしてもらおうかね」

 悪魔騎士はビゴマに命じるように言った。

 ビゴマは悪魔騎士を睨みつつも抵抗は危険だと判断した。

 武器を投げ捨て、布でラングに猿ぐつわをした。

「これでいいだろ」

「よかろう」悪魔騎士はうなずいた。

「子どもを離せ」

「そのような約束はしていない」悪魔騎士はあざ笑った。「なぜそんなことをすると思うのかね」

「卑怯な」ビゴマは吐き出すように言った。

「たいへんな褒め言葉と受け取っておこうか」

 悪魔騎士は肩をすくめて見せた。

「さて、オーク鬼たちも戻ってきた。他の連中は殺されてしまったようだが。なかなか強力な魔法使いを連れているな、アイゼン。だがいかんせん戦力が足らぬ」

 そのとき近くの建物の扉がバンと開いて、一輪車を押したドワーフが飛び出してきた。

 そのまま悪魔騎士へと体当たりを敢行する。

 だがあと少しのところでオーク鬼が一輪車を蹴り飛ばした。

「つまらぬ……」

 だが、更に次の瞬間。

 突風が吹いて人質だったドワーフの子どもは風に飛ばされた。

 そのままこどもは近くの家の扉まで飛んでいった。

 扉は子どもが激突する寸前に開いた。そして中にいた屈強なドワーフが子どもを抱き留めた。「返してもらったぞ!」

「小細工を!」悪魔騎士は剣を抜いた。

「深紅のサラマンダーよ!」近くの建物の屋根の上から聞き覚えのあるよく澄んだ声がした。

 そこにはエルフのクッカが立っていた。

 彼女の求めに応じて灼熱の炎の精霊が出現した。

 サラマンダーは悪魔騎士に躍りかかった。

「ちょこざいな」悪魔騎士は剣でなぎ払う。

「<酸素遮断>!」猿ぐつわを外してラングは叫んだ。

 これでラングの近くにいたオーク鬼は壊滅した。

 ほぼ同時にビゴマが別のオーク鬼を殴り倒していた。

 倒れたところに近くの建物から飛び出してきたドワーフらが一斉に襲いかかる。

 別のオーク鬼もドワーフに打ち倒されていた。

 配下が全滅して不利を悟った悪魔騎士は広域魔法で一気に周囲を焼き尽くそうとした。

「雷雲よ!」

 悪魔騎士の呼びかけで突如、真っ黒な雲が村の頭上に出現した。

「雷よ、落ちよ! これでおしまいだ!」悪魔騎士は哄笑した。

 これは人間で言えば超広域戦術魔法だった。戦場において最上級の攻撃力を広域にわたってばらまく魔法だ。広域故に回避もできないのでこの魔法が放たれたら膨大な被害がその一撃で生じてしまう。

 だがその魔法はラングの前では悪魔騎士にとって致命的だった。

「<避雷針>!」

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