第2話 少年ラングのささやかな幸せ

 ルーラルは田舎にある、あまり大きくもない町だ。

 近くにエルフ国の出先機関のような村がある。エルフと人間の数少ない交易の拠点の一つであることがルーラルの特徴だった。この影響で町にはエルフだけでなく多くの種族の者が暮らしていた。人間の統治する土地としては人間以外の種族が多くみられる土地となるだろう。


 ラングは18年前にこのルーラルで産まれた。両親を幼くして亡くし、神殿で他の孤児と共に育てられた。そんな厳しい生い立ちではあったが神殿ではウィズダム神父にかわいがられ、賢く優しい少年として知られていた。

 ちなみにこの世界の神殿は特定の神のものではない。幾柱もの神々をまとめて奉る神殿であることが多い。

 ラングの人生は、しかし、彼自身の穏やかな性質にかかわらずに最初から脚光を浴びていた。


 この世界では希に神の加護を受けて産まれる赤子がいる。彼・彼女らは12歳になるときに神から特殊な<スキル>を与えられることが約束されるのだ。そしてそのことが誕生と共に神殿で神託が下るのだ。

 この<スキル>付与を神託によって約束された赤子のことを人々は<御子>と呼んだ。


 ラングが産まれたときに神託が下った。ラングは<御子>だったのだ。

 ラング自身の性格とウィズダム神父の厳しい教えもあって、成長してもラングは自分が<御子>であることを誇ったり、それに驕ったりすることはなかった。むしろ<御子>でありながらも両親を幼くして亡くし、不遇の境地にあることは誰の目にも明らかだった。だからむしろ町の住民からは同情をもって見守られていた。


 そんな幸運と不運とに挟まれたラングにとって幸運だったことは神殿での育ての親がウィズダム神父であったことだろう。

 ウィズダム神父の経歴の詳しいことは町の誰も知らないようだが、ウィズダムは王都にある大聖堂でとても高い地位にあった人物だと言われていた。どのような理由でこんな辺境の神殿に来たのかは知られていない。しかし、その高潔さと高い知性は神殿内だけでなく、領主も頼りにしているところで、町の住民も信頼していた。

 そのウィズダム神父が神殿で預かっている多数の孤児の中でもラングを特に厳しくしつけ、愛情をかけていることもよく知られていた。ラングが<御子>であることはそれを当然と思わせる要因であったし、ラングも神父の教えをしっかりと守っていた。

 ラング自身も穏やかで人のために働ける性格であったので、神父はラングをいずれは後継者にしようとしているのだろうと多くの町民が推察していた。


 このように、総じて少年ラングの暮らしは決して幸運なものではなかったが、小さな幸せのある満足のいくものであったと言えるだろう。

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