教科書<翻訳>で超魔法。超レアスキルが<翻訳>で蔑まれた主人公。地球の教科書を翻訳した超魔法で悪魔王に挑む

ホークピーク

第1章 悪魔騎士編(ヴァーヴェル大戦よりは楽な前哨戦)

第1話 熊退治は<避雷針>で

 嵐の中まばゆい光が差す。数秒後「ドッドーン!」と大きな雷鳴が聞こえる。

 その嵐の中、1人の青年が森の中を歩いていた。中肉中背で髪の毛の色は灰色の強いアッシュブロンド。顔立ちも特に目立つものではないが真面目そうだ。

 雷鳴は続いている。雨量もすごい、土砂降りだ。

「どこかで雨宿りしないと……」

 彼の名前はラングといった。

 この森の近くの町に住む青年で、森の奥にあるエルフの村を目指していた。森には野生の動物やモンスターも多いので、通常であれば森の南側にある街道に沿って行くのがセオリーだ。だが彼は急な仕事を請け負っていて急いでいた。そこで危険を承知で森を突っ切ろうとしていたのだが、不運にも嵐に遭遇してしまったのだった。

 ずぶ濡れになった彼は体温が奪われていくことに危惧を覚え、洞窟でもあればと崖のある方へと歩いていた。

 しかし、次の雷の閃光で前方に巨大な影が見えた。

 それは大きな熊だった。熊は既にラングに気づいていて立ち上がって威嚇してきた。この嵐で熊も気が立っているのだろう。雷鳴の中でラングは熊と正対していた。

「これは、まずい」ラングは後ずさった。

 すると熊も前に出てくる。どうやらラングを見逃すつもりはないようだ。空腹なのかも知れない。嵐で気が立っているのは間違いないだろう。

「ドッドーン!」

 閃光の後、再び雷鳴が鳴り響く。光ってから音が聞こえるまでにほとんど時刻差がない。それ以前に落雷による振動が足下から伝わってくるほどだ。 

 あの雷が熊に落ちてくれたら……ラングはそんな風に祈りたい気持ちだった。

 だが彼は神に見放された身だった。神を恨んでいるのでもないが、神への祈りが通じるとはとうてい信じられなかった。

 ふと何かを思い出して、彼は鞄から本を取り出した。その本のタイトルは<防災ブック>とあった。ラングの服装から考えても、どう考えても現代地球ではないこの地になぜこんな本があるのか。

 ラングはその中のあるページを探し出すとそこに書いてある文字を叫んだ。

「<避雷針>!」

 彼が呪文のように日本語を唱えると熊の頭上におぼろげに輝く避雷針がどこからともなく出現した。

 嵐の中に突然現れた避雷針だ。そこに誘導されて雷が落ちた。

 熊は悲鳴を上げることもできず、その場に打ち倒された。

「本当に……雷が落ちた」

 ラング自身もあっけにとられていた。だが何より大切なことは熊の危機が去ったことだ。このまま嵐の中、外にいたのではいずれにしても生命の危険がある。

 ラングは慌てて本をしまうと、食料にするために熊の肉をざっくりと1塊だけナイフで切り取って急いで崖の方へと向かった。


 さいわい近くに浅い洞穴があった。ラングはそこに待避した。

「なんとか助かった」

 ラングはよろよろと洞穴に入って安堵のため息をついた。洞穴はとても浅く、雷の光で奥まで見通せる。何かが潜んでいる様子もないので安全だろう。

 そこでラングは洞穴内にあった枯れ木を集めた。ずぶ濡れで寒い。このままでは体力を維持できないと考えて火をつけたかった。だが火をつけたくてももっていた火打ち石だけではとても着火できない。

 ふと思い出してラングはまた別の本を取り出した。その本には<理科 4年生>と書いてある。その中のページを捲っていくとそこにはアルコールランプを使った実験についての記載があった。そこでの着火方法は……。

「<ライター>」

 再びラングが日本語を唱えると枯れ木に火がついた。


 ラングが日本語を唱えると明らかに本来の意味とは異なった、魔法のような効果が生じている。何が起きているのか。そもそもその日本語の本はどこから現れたのか。それを説明するにはラングのこれまでの人生を知る必要があるでしょう。


「美味しい」ラングは熾した火で熊肉を焼いて食べた。

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