episode9 第70話
「なぜです!?」
掴まれることのなかった手を横に振り払い、座古田が吠えた。
「自分は……。自分の信念を曲げることは出来ません」
「相変わらず持って回った言い方をするのですね」
不動で立ちすくむ富田に、座古田は嫌味を吐き捨てる。
「私はもう、機械を機械としては見られない。人は、機械を作れます。そして、人は、人さえも『造り出す』ことが出来てしまいます」
「何を当たり前のことを……。人が人を、子を作るなんて、当然のことではありませんか?」
「そうですが、そうではありません。子は、愛の結晶とも言える天からの授かり物。男女が設計書を見ながら作っているわけではないのです。しかし、あの研究所では近い将来、人の意思で、人間よりも人間らしいロボットを、造り出せてしまうでしょう。
本来、機械とは人の意思によって使われる道具(もの)なんです。あそこで作られてようとしているものは、機械ではありません。ロボット自体が意思を持ち独り歩きするとしたら、それはもう機械ではないのです」
「それが富田教授の信念だと言うのですか?」
「自分は、少しでも皆の生活が便利になればとメカトロニクスの道を志しました。機械は人の心(いし)を持って動かすから機械足りえるのです。しかし、その機械自体が意思(こころ)を持っていては、その前提が違ってきます。それだけは絶対に間違えてはいけない」
「全く、理解に苦しむ」
頭を抱えてかぶりを振る座古田。
「私はやり直すことなど望んではいません。悩みながらでもいい……。間違いだらけでもいい……。私は、時計の針を――人生の物語を先へ進める! そう、決めたんです」
富田に直してもらった腕時計の針がカチカチと刻(とき)をきざみ始める。
「あぁ~。何なんだ、あんたは! さっきから訳の分からないことを言って、いつも、私の理解の先にいる! 人を馬鹿にしているのか?」
そう言うと座古田は頭を掻きむしり苛立ちを見せつける。
「そんなつもりはありません。しかし、他の誰かに理解されようとも思っていません。これは、自分だけの、私自身が導き出した答えなのですから」
堂々と胸を張り座古田を見据える富田。
「そうですか……。しかし、これではっきりしました。私とあなたの道が違(たが)っていることが……」
ようやくたどり着いた覚悟の告白を、座古田は鼻で笑って一蹴する。
「だが、流石は富田教授だ。先見の明がおありのようで。正しいことも仰いました。我々は、人さえも、いえ、それ以上の存在を『創り』出している。ただし……。近い将来ではなく、もう既ににね」
「まさか、そこまで進歩しているなんて」
「富田教授の考えは時代遅れなのです。それにしても、あなたが機械を否定するのですか? ならば教えてあげましょう。進化した機械の素晴らしさを……」
座古田が背後に控えていた奴らに合図を送ると、数名の男が丘の出口でもある坂道に立ち塞がった。
「ここからは証明問題の始まりです。あなたの信念と私の信念。そのどちらが正しいのかのね……」
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