ワルツ・ザ・ロマン(2)
「——で?なんなんですか?昼休みのアレは」
放課後——当たり前のようにボクと同じ方角へと歩くロマンが、口を尖らせていた。
「アレって?」
「合コンの件ですよ。先輩はあれですか。
「ない。そもそもそれはボクたちが男女の仲になってこそ使われるべき言葉だろうに」
付き合ってるわけでもないのにNTRもなにもない。
「それですよ!」
「どれだ」
「あたしのこと好きってやつ!ほ、本気じゃない、ですよね?先輩なりのじょうだ——」
「本気だ。ボクは
「うぇぇっ!?」
耳まで真っ赤になるロマン。ほんと赤くなりやすいなこの後輩は。
「驚くことはないだろ。以前も告白しているんだし。まぁ、あのときこそ冗談みたいなものだったが」
「だ、だって先輩……二次元の女の子しか愛せないんじゃなかったんですか!?」
「そうだと思っていたんだけどな……どうやらロマンは特別らしい」
「はぅっ!?——そ、そんなの詐欺ですよ!あ、あたしは……先輩ならあたしを恋愛対象として見ないならって、オタク友達として安心して仲良くしてたのに……」
「すまない」
ロマンの気持ちはわからないでもない。
たとえ相手が異性でも、共通の趣味を持つ者として親しみを持ち、あくまで友人としての関係を育んでいきたいと思うのはオタクならだれもが思うことだ——と思う。
しかし一方に恋愛感情が生まれてしまうと、それも成り立たなくなる。
だからこそオタク同士であっても、異性との距離感は難しいものなのだ。
「すこし、距離を置きましょうか……あたしたち」
仲違いしてる恋人みたいなことを言い出すロマン。
「先輩はたぶん、身近に仲の良い女の子がいないから、それできっと、あたしのことを意識しちゃっただけなんですよ……」
「それは……否定できないな」
ボクが仲のいい女子は、せいぜいが姉貴くらいだ。クラスの女子とはろくに話したこともない。
「でしょ?だから、一旦距離を置いて……お互い、冷静になって……そのあとで、まぁ……友達として接するなり、あるいは——あるいは……」
そこまで言って顔を曇らせるロマン。
「……と、とにかくっ!そういうことなんで!いいですよね!?」
「……ああ」
イヤだと言ったら、どんな反応をするのか……。
見てみたい気持ちはあったが、必要以上にロマンを困らせるつもりはないので素直に頷く。
「そ、それじゃあ、あたしはこれでっ!」
「……」
ピュゥゥゥ!と昔のアニメなら足がぐるぐるしそうな勢いで、来た道を走り去ってしまうロマン。
その後ろ姿はすぐに見えなくなり、冴えないキモオタ野郎の情けない姿だけが、そこには残っていた——。
***
「——ンってば。ねぇ聞いてる?」
「ほけー……」
「どんな感情よ、それ……」
「あはっ!ロマンちゃんいつも以上におもしろーい!」
「……あれ……どしたの二人とも?」
「それはこっちが訊きたいっての」
気付くとあたし——
バーガーショップなのに、あたしたちが頼むのは決まってポテトとドリンクのみだけど……そんなことより。
「先輩と、距離を置くって……」
「言われたの?」
「あたしが言った……」
ガンっ!となにかがおでこに衝突した——あたしがテーブルに額をぶつけた音だった。
「どうしてそうなった……てか、結局ロマンはさ、二条先輩のこと好きでもなんでもないんでしょ?」
「……うん」
「じゃあなんでそんな落ち込んでるわけ?」
「別に落ち込んでるわけじゃ……」
再三言ってるし思ってることだけど、タクミ先輩に対して元より生理的に無理と本気で思っていたわけでもなく、もちろん嫌いなわけでもない。
「ジリちゃんはさ、あたしに距離置こうって言われたらどう思う……?」
「具体的な日数を提示してもらって、その上で『オッケー』って言うかな」
「なんで!?そこは寂しくなっちゃうとか、自分がなにかしちゃったのかなとか、心配になるもんじゃないの!?」
「だってロマンだし。ね?」
「ねー!」
トリちゃんまで同意してる。
なんなのあたしだからって。あたし友達にどう思われてるの!?
「そもそも距離を置こうって言ったのはロマンなんでしょ?言ったあんたが落ち込んでどうすんの」
「別に落ち込んでないし……」
「めんどくさいなこの子」
「ロマンちゃんマジめんどー!」
「それが落ち込んでる友達に言うことなの!?」
「やっぱ落ち込んでんじゃん……」
「ポテトの追加注文してくるー!」
トリちゃんは自由だった。
それよりさ、とジリちゃんは嘆息してから言う。
「二条先輩のことは一旦忘れて、合コンの打ち合わせしよーよ」
「合コン……」
——行けばいいんじゃないか?
「あのキモオタ野郎……彼氏
「忘れろ言うに」
可愛い後輩がヤリ○ンの巣窟たる合コンに参加してもいいんか!?食われちゃってもいいんか!?
「勝手に話進めるよ?——来週の金曜でいいよね?」
「いつでもいい……」
どうせしばらくはタクミ先輩と会えないし……。
「トリエは?なにか予定ある?」
戻ってきたトリちゃんにも尋ねるジリちゃん。
「うちは年中暇であります!」
「りょーかい。んじゃあ来週の金曜ってことで」
そう言いつつスマホをポチポチと弄るジリちゃん。
相手側にも日付を伝えているのだろう——と。
「そういえば、男どもはどんなやつらなの?」
大して興味があったわけではないけど、なにも知らないのも気持ち悪いので尋ねる。
「んー、わたしの彼氏と、その大学生仲間」
「へー」
……んん?
今サラッとすごい情報を口にしていなかった……?
「ジリちゃん、彼氏いたの……?」
しかも大学生って……。
「あー、うん。言ってなかった?夏休み中にいろいろあってね」
「そ、そうなんだ……」
チラッとジリちゃんの隣で運ばれてきたポテトをパクついているトリちゃんを見やる。
トリちゃんも可愛いしムネも大きいけど……彼氏いますーって感じではない。
「トリちゃん。独り身同士頑張ろうね!」
「え?うちカレシいるけど?」
「裏切り者がぁぁぁっっ!?」
いるなら言えよ!
「最近できたんだよ」
とジリちゃん。
「あんたがわたしらを
「あたしにも問題あった!——てかアプローチとかじゃないから!」
己が言動を反省する。
たしかに二学期になってからというもの、ジリちゃんやトリちゃんといるより、タクミ先輩と一緒にいる時間を優先してしまっていた……。
「トリちゃん……あたしと遊べなくて寂しくて、男のほうに行っちゃったんだね……」
「ロマンちゃんと遊べなかったのはたしかに寂しかったけど、だからってわけじゃないよ?」
「そっか……じゃあよかった、のかな……?」
ともあれ、とジリちゃんがにやにやと笑いながら言う。
「彼氏いないのはロマンだけだねぇ」
「うぐっ!?」
友達二人が彼氏持ちになってしまって、余ったのはあたしだけ……。
「あたしだって素敵な彼氏を作ってみせる!」
二人へと宣言する。
残る二年ちょいの高校生活を百合色……じゃなくて薔薇色にするためにも……!
「二条先輩以外のってこと?」
「当たり前じゃん。タクミ先輩はただの友達なんだから」
「ふーん……でもさ。彼氏が他の男と口聞くなとか、二条先輩と仲良くするなって言うやつだったらどうすんの?」
「え……」
瞬間——世界が凍った。
先輩と……口が聞けなくなる……?
でも……考えてみれば、彼氏からするといい思いはしないよね、そういうの……。
あたしも先輩……じゃなくて彼氏が他の女の子と仲良さげに話してるの見たら、嫉妬しちゃうかもしれないし……。
それなら……。
「理解ある彼氏であることを祈るか、そうでなければ別れる!」
タクミ先輩と離れるとか考えられなかった。
もちろんそれは、あたしに彼氏がいないからこそ思えることなんだろうけど……。
「そこまで言い切れるのにどうして……はぁ」
「あはっ!ロマンちゃん、彼氏ができたらどんな感じなんだろうねー!」
「え、別にふつーじゃない?」
男相手にきゃぴきゃぴする自分は想像できない。
エロゲだと、付き合う前はツンツンしてたヒロインが、付き合い始めてからはバカップルとも言えるイチャつき方をしたりするけど……あれはフィクションであり、実在の人物、恋愛には当てはまらない。たぶん。
「二人は彼氏の前ではどんな感じなの?」
興味本位で訊いてみた。
「わたしはふつーかな」
ジリちゃんのほうはつまらない答えだった。人のこと言えないけど。
「トリちゃんは?」
「もうラブラブだよ!付き合いたてだからね!半年後くらいには飽きてそうな勢いでラブラブだよ!」
「ま、まぁ今が楽しければそれでいいんじゃない……?」
二人とも幸せそうでなにより。
それから、もうひとつ……。
「ちなみに、キスとかはもうしたの……?」
おそるおそる尋ねる。
「うちはあんまりかな?おっぱいはよく揉まれるけどね!」
彼氏、おっぱい星人なんだろうね。
あんまり、という言い方が気になるけど。
「ジリちゃんは?」
「内緒。そーゆうのあんま知られたくないし」
「そっかぁ……そうだよね。あたしも彼氏できたとしても、二人にノロケ話とかしないかも」
「あんたは既に充分……やっぱなんでもない」
「ん?」
ジリちゃん、なにを言おうとしたんだろ?まぁいっか。
それより、とあたしは気になっていたことを口にする。
「来週の合コン、だれが得するの?」
「……」
相手はジリちゃんの彼氏とその大学生。
トリちゃんは彼氏持ちだしそもそもタダメシ目的。
あたしは彼氏こそいないものの乗り気ではない。
……誰得?
「タダでメシに食らいつけるよ!」
トリちゃんはブレないなぁ。
「ま、まぁあれだよ。普段交流のないタイプの男子と話すことで、新たな自分を発見できるかも……的な?」
たしかに見識を広げることは、なにかしらに繋がることかもしれないけど……。
「やっぱりあんまし気ぃ乗らないなぁ……」
「まぁまぁそう言わずに。ね?」
結局ジリちゃんに言いくるめられ、あたしは合コンに参加することにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます