第9話 この続きは木祭で
「ちょっとマリオン!!」
「パミュは他にも仕事あんじゃんー。人の字を探すっていう大事なお仕事がさ」
「むー」
「だから、パミュはそっちの方を片付けておいでよ。こっちの仕事はマリオンがしといてあ、げ、る、か、ら。ね~?」
「いや、ねーって……」
一体こいつの中でどういう感情の変化が起きたのか。
見鬼を使えばわかるけど、そういうわけにもいかない。
やっぱりよくわからん。女ってやつは。
俺は蒼天を見上げて、今の状況に甘んじた。
決して気持ちがいいから、というわけではないことは、今までの俺の紳士的な振る舞いを見ていれば、明白であるからして、これ以上、頭(ここ)で議論をすることの無意味さは、一魔術師としては看過できな――
「む~。ダメ! だってティアラナさんに頼まれたんだもん! 二人仲良く案内してって!! だからこの仕事はあたしがするの!! ティアラナさんの言うことには、いつだって間違いはないんだもん」
今度はパミュが俺の手を引いてくる。
ポヨヨーンとした感触が二の腕にあたり、これはこれでいいものだったが、平静を装うのが大変だった。
「でたでた。くそバカパミュはいっつもそれだもんなー。やれティアラナさんが正しい。やれティアラナさんには間違いがない。たまには自分で考えることしてみたらー?」
「むーっ」
「今回の一件を一人で片づけることは、パミュが独り立ちすることの、いい試金石になると、マリオンは思うなー」
「むむむーっ」
「だからお兄さんはマリオンに預けておきなって。大丈夫大丈夫。お兄さんもその方が絶対幸せになれるからー」
言葉を締めくくるや、マリオンが俺の腕を引いてくる。
マリオンに押し当てるような胸はない。
それなのにこの気持ちよさは一体全体何なのか。
着衣の感触。女特有の柔らかさ。温もり。香気。
全てが相まって、生まれてきた意味を知るRPGが、これから始まるのではってぐらい気持ちがいい。
こんな意味不明の言葉が、脳内に飛び出してくるほどだ。
口からじゃなくて、本当によかった。
「むーっ。考えてるもん!! 考えた結果、今回だけはその、ティアラナさんに頼ろうかなーって、そう思っただけなんだもん!!」
引っ張られる俺を押し止めるために、パミュが俺の腕に自分の腕を絡ませて……というか、自分の胸に俺の腕を沈み込ませて、踏ん張った。
こっちの柔らかさは、やはり一味違う。
マリオンの感触が、ずっと味わいたくなるようなものならば、こっちの物(ぶつ)は、思わず動かしたくなるような感触だって、いかんいかんいかん。
「今回だけー? 今回だけねー?」
トンボの目でも回すように、マリオンがパミュの前で指を回す。
お前はクルクルパーだ。
……という意味が込められているのかどうかは定かではないが、なんにせよ、おちょくられているのは間違いない。
当然パミュは顔を真っ赤にして怒った。
「むーっ。とにかく、ビュウを返して!! ビュウは、あたしと一緒に行くんだもん!!」
あーでもないこーでもないと、幸せの中でもみくちゃにされる俺。
まるで幸せのサンドイッチ状態だ。って意味わからん。そんなわけわからん思考に陥ってしまうぐらい、脳がとろけきっていた。
そんなとき。
「こらあああマリオン!! まーた調合施設一つ――というかあんた怪我は……ないのか――壊してええええ!!」
向こうから、声を荒げる女が一人。多分魔術師だろう。前にも言ったが、肌の色を見れば魔術師かどうかはすぐにわかる。
その魔術師は、見鬼を使うまでもなく、自分の本心を語っていた。ちと間抜けなのか、マリオンがそれだけ愛されているのか――
多分、両方だろう。
生意気ながら構ってやりたくなる。二三言葉を交わしただけの俺がそう思った。長い付き合いならもっと思うことだろう。
……決して、なつかれたからそう思ったわけではないことは、ここに明言しておく。
「あたー!! ロゼかー。しょうがない、口惜しいけど、マリオンもう行くね」
マリオンが駆けて、途上で振り返った。
その場で足踏みしているところが、ちょっと可愛い。
「忘れてた!! 今日の木祭で、また会おうねー」
手を振りながら、マリオンが言う。
そして今度こそ、上司らしき女のところにまで戻っていった。
「あいつ……ちょっと、いや、かなり将来有望だな」
平常に戻った俺は、キリリとした『つもり』の顔で、言った。
「ロゼッタさん?」
「いや、あれがどうかは知らんけど。あの獣娘の方、マリオンっつったかな? あいつ」
「むーっ」
「なんだよ?」
「べっつにー。ただ現金だなーと思っただけ。ちょーっと女の子に好かれたからって、そんな根も葉もないこと言っちゃってさー」
「さっき爆発が起きたろ。あいつはその中心地にいたのに、煤けただけですんでる。どうしてかわかるか?」
「知らない。ギャグキャラだからじゃない?」
「おい」
正解は、爆発に己が魔力を流して統御、魔術に転換して外に流したから、だよ。
仮にも白い肌してるんだから、それぐらいわかれ、このバカ。
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