第11話

 走る。走る。すがすがしい午前の空気で満たされたこの世界を、私は駆け抜ける。この場所では、クラス全員お揃いで作ったクラスTシャツも。ただのシャツになる。学校内では意味を成すものも、ここならなんでもなくなる。

 なんて気持ちいいんだろう。


 南の脳内で、パッヘルベルのカノンが流れていた。音楽の授業で習ったものだ。

 ♪ラファソ ラファソ ラ ラシドレミファソ ファレミ ファ ファソラシラソ ラファソラ ソ シラソファミ ファミレミファソラシ ソ シラシ ドレ ラシドレミファソラ~

 ニ長調の滑らかな美しいメロディーが、南の気分に一致する。弦楽部が春の文化祭で演奏していたのを思い出した。決して上手ではなくても、あの時のカノンはいま南の心の中に響いている。

 南はJRの線路沿いにある小道にやってきた。


 なにこれ、こんな道初めて見つけた。学校からたいして離れていないのに知らない場所があったなんて驚きだ。小さな白い花から、甘い香りが漂ってくる。甘くてしかもすがすがしい。最高。

 中津川行きの列車が走り去っていった。あの電車に乗れば、中津川へ行ける。乗り換えれば、そのもっと先へも。なんてすばらしいんだ。電車に乗ればどこへだっていける。どこまでででも飛んで行ける。

 突如、スマホが耳慣れた音楽を奏で始めた。

 それはLINEの通知だった。私はスマホのロックを解除し、メッセージを確認する。

「あっやばい。もう行かなきゃ。」

 それは夏美ちゃんがクラスLINEで発言したものだった。

「女子バスケ五分後開始です。まだ来てない人、急いで体育館に来てください。」

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