第10話

 ひそかな思いを抱えたまま、わたしはそっと、バレーコートを後にした。次は男子のサッカー。広いコートを駆け回るクラスメイト達をカメラに収めることは、ちょっと難しすぎる。だから、まあいいや。写真撮影はあきらめよう。

 私は元来、人の多い場所が苦手。友達がいれば気も紛れて平気なんだけど、なにせいっしょに観戦してくれる子はいない。私は生まれて初めて、学校を抜け出すことにした。格技場と本校舎をつなぐ渡り廊下の下を通ると正門がある。その門をくぐった先は、学校の外。塀の外。私たちの未知の世界。

 私は歩きながら思考する。

 私たちは普段、朝から夕方まで、学校にいる。つまり、その時間帯の外の世界を知らない。どんな人が歩いているかとか、空気はどんな味なのかとか、私たちは何も知らない。それって、おかしくない?学校に居たくても居たくなくても関係なく、強制力が働いているせいで、私たちは門の外にでられない。

 今日くらいはいいじゃない。いなくなっても、きっと誰にも気づかれない。

 正門の前にやってきた。真ん中に立ち、右足を一歩、外に出す。続いて左足も同様に。これで、私は学校から抜け出した。

 ほんの一歩出るだけで、世界が変わったような気がした。自分でほんの少しの努力をしよう。そうすれば世界は変わる。

 私は駆けだした。

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