**着信**

「ふじいし司法書士事務所でございます」


「もしもし、藤石先生ですか?玉井です」


「玉井、さん……」


「先日、アパートの購入の際にお世話になった者です」


「ああ、ファミレスで決済をやった時の買主さんか。どうも、こちら

 こそありがとうございました。あの日はいきなり大雨になって散々で

 したね」


「先生っ、大変なことになってしまったんですよっ」


「はい?」


「先生に立会いをしてもらった件は、先生がキチッと確認してくれたおかげで問題なかったのですが、私、騙されたかもしれません」


「穏やかじゃないですね。どうされました」


「今まで何度か不動産を購入しましたが、全部、あの仲介さんにお願

 いしてきたんです」


「ああ、あの若くて爽やかな男性ですね。名前は何でしたっけね」


「平岡さんです。HRKリアルエステートという会社の人です」


「そうでした。思い出した」


「先週、別の件もその仲介さんにお願いしたんですけど、大金を支払

 って買ったのに、所有権が私に動いてないんですよっ」


「何ですって?」


「慌てて売主側に連絡をしたら、そもそもそんな売買の話すら聞いてないと言うじゃありませんか。完全にやられましたよ。もう連絡も取れません」

「ちょっと待ってください。今回の件、司法書士はどうしたんです?売買取引なら立ち会うはずでしょう?」


「それが、いなかったようなんです。私も残金決済の時は家の用事がありまして、すべて平岡さんにお願いしたんです。購入金も諸費用も、彼に預けてしまったんですよ。今まで何度も取引の仲介をお願いして信頼しきっていたものですから、油断しました」


「融資があれば、必ず書士が立ち会うことが条件になりますが、玉井さんは現金で購入するから、銀行の目も届かないわけか……。なるほど、やられましたね」


「ああ、まさか自分が狙われるなんて……」


「今、インターネット上で登記簿の閲覧をしていますが、HRKリアル何とかという会社自体、存在しないようですね」


「ほ、本当に?」


「はい。まず、これだけで違法ですね」


「先生、どうしたら良いですか」


「警察の出番でしょうけど……私としても許せん話です」


「そりゃそうですよね。国民の権利を守る司法書士の先生にしてみれば」


「おそらく、俺の仕事を横取りしたのはそいつなんでね」


「は?」


「こっちの話です。たった今、私の同業仲間からメール連絡がありましてね……。なるほどなるほど」

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