109.大魔導士の帰還

「あなた達、みんな死んでくれる?」


そして起こる超巨大魔力爆発。地面を揺らし、空気を震わせ、そしてそこにある有形物すべてを吹き飛ばした。轟音と共に舞い上がる黒煙や砂埃。

しばらくしてそれが収まると、グラディアはその光景を見て少し驚いて言った。



「あら、頑張ったんだね~。みんな、生きてるじゃん!」


そこには深くえぐられた地面の近くに、必死になって耐えるレオン達の姿があった。彼らの前にはマーガレットが張ったボロボロに崩れた魔法障壁がある。レオンが言う。



「マーガレット、助かった。これがなかったら全員即死だった……」


レオンは魔王グラディアが起こした桁違いの爆発に驚きながら言った。マーガレットが答える。



「だ、大丈夫です。それよりも生徒や他の兵士達へ離れるようお伝えください。何度もあんなのが来たら、どこまで抑えられるか……」


強力な魔法の乱発により既に魔法力の限界に達しているマーガレットがレオンに言う。

レオンは頷くとすぐにエルシオン学園の生徒達や兵士にこの場から離れるよう指示。そして倒れているマーガレットとレスターに肩を貸して言った。



「最悪の状況だ。ただ、私達が諦めたらここで終わり。残った力絞り出して行くぞ!!」


「は、はい……」

「おう……」


そう答えるふたりだが既に立っているだけで精一杯である。レオンもそれは十分に分かっていた。だから力の入らない手で勇者の剣をしっかりと握る。グラディアが言う。



「大丈夫よ。街は吹き飛ばさないから。だって、私、あそこでやりたいこと、い〜っぱいあるんだから。でも……」


グランディアの魔力が再び高まる。そして言う。



「でも、あなた達はキライ」


ドオオオオオオオオン!!!!


再び起こる魔力爆発。

マーガレットは何か手を打とうと思ったが体に、腕に力が入らなかった。レオンもレスターもそれを感じ取り、一瞬だが絶望を感じた。


そこに太い声が響いた。



まもれっ、正義の盾っ!!!!!」


「えっ!?」


レオン達の前に輝く巨大な盾が現れる。美しく頑丈な盾。これまでレオン達の窮地を何度も救って来たその盾。ボロボロになったレオンの目に涙が光る。続けて聞き慣れた声が響く。



「白の魔術・包括的完全回復パーフェクト・フルキュア!!!」


その場にいた全員の体が光り始める。そして傷口が塞がれ、体力が回復し始める。レオンが後ろを振り返って叫ぶ。



「ガガド、リーティア!!!」


そこには冒険者時代にレオンと共に旅をした勇者パーティの、『正義の盾』ドワーフのガガド、そして『回復の女神』エルフのリーティアが立っていた。ガガドが言う。



「なんじゃ、えらくやられておるのう。『救世の英雄』さんよ」


リーティアが言う。


「おいおい、『沈黙の魔導士』まだ来ていないのか。あいつ、何をやっている?」



レオンが近付いて来るふたりを見て涙を流して言う。


「二人とも、ありがとう……、来てくれて、ありがとう……」


ガガドが言う。



「おい、レオン。いつからそんな涙脆くなったんだ? まだそんなに老け込む年じゃないだろ」


「その通りだ、レオン。泣いている暇があるなら、あいつを何とかするぞ」


リーティアも対峙する大魔王を見ながら言う。



「ガガドさん、リーティアさん、ありがとうございます……」


短い時間だが一緒に旅をしたマーガレットがふたりに挨拶をする。リーティアが言う。



「随分、好き勝手やっていたそうだな。マーガレット」


同じ南方大陸にあるエルフの里だったが、深い森に覆われていてマーガレットやレスターの悪政は及ぶことはない。それでもその悪い噂は十分に届いている。マーガレットが言う。



「はい……、申し訳ありません。私が未熟でした……」


「まあいい。クレストにしっかり絞られたんだろ?」


「ええ、まあ……」


マーガレットはなくなった前歯を見せながら苦笑した。ガガドが言う。



「そんな事よりあいつを叩くぞ。とんでもないバケモノだ」


そう言って一同がグラティアを見つめる。



「えー、なに? お仲間参上? ずっるーい!! 私ひとりになっちゃったのに~」


レオンが前に出てグラディアに言う。



「お前、一体何者だ!!」


グラディアが答える。


「『お前』じゃないわよ! グラディアって言う可愛い名前があるんだから! あなたイケメンなのに女の子に対する礼儀はなっていないわね~。あ、あと私、姫ね。姫」


「姫じゃと? この禍々しい魔力、邪気、どこをどう取っても昔やり合った魔王そのものじゃぞ」


それを聞いてガガドが言う。グラディアが怒って言い返す。



「そこの毛むくじゃら!! 私は魔王じゃない!! 姫ったら、姫っ!! その名前はイヤ!! ほんっとだっさい名前!!」


レオンが言う。


「そんなことより、お前の目的は何だ!!」


「だからあなたねえ……、私は『お前』じゃないって言うのに。モテないでしょ、あなた……、まあいいわ、教えてあげる。目的はずばり、大きな街で遊ぶこと!!」


リーティアが言う。


「何を言っているんだ、あの小娘は?」


レオンが言う。


「じゃあ、何故罪のない人達を殺すんだ!!」


グラディアが答える。



「だって~、手を出してきたのはそちらでしょ? 『魔族は敵だ!』とか言って」


「黙れ!! これだけの人を殺しておきながら何を言う!!」


グラディアが溜息をついて言う。


「殺されたのはこっちも同じよ。いっぱい死んじゃった。だから最初は友好的にって思っていたけど、もう、ちょっと無理ねえ~」



そう言いながらグラディアの魔力が上がる。それを感じたガガドが皆に言う。


「ワシが守る!! その間に戦える奴は力を溜めておけ!!!」


「分かった! 無理をするなよ!!」


ガガドの言葉にレオンが答える。そしてグラディアの超魔力爆発が起こった。



「死んで、あなた達」


ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!


まもれ!! 正義の盾!!!!」

「風の旋律・空壁っ!!!」

「白の魔術・白色防壁ホワイトウォール!!!」


グラディアの攻撃に対して防御ができるメンバーが次々と魔法や魔術を唱え始める。しかし少し怒ったグラディアの超魔力爆発はそれを更に上回るものであった。



「ぐわあああああ!!!!」


皆が張った魔法防壁がまるで波に打たれる砂の壁のようにボロボロと崩れていく。そして軽減されたとはいえ爆発の威力で吹き飛ばされる一行。

しかしそれに逆らって二つの影がグラディアへと向かう。



「はああああっ!! 受けよ、我が剣!!!」

「食らえっ!! 俺の槍っ!!!」


体力が回復したレオンとレスターがグラディアに迫る。グラディアはそれを見てちょっとだけ笑った。



「ふっ、まだ分からないのかしら」


ドン、ドドド、ドーーーン!!!


「ぐわあああああ!!!!」


微動たりしないグラディア。そこから放たれた何らかの衝撃で、レオンとレスターは剣を振る前に後方へと吹き飛ばされた。倒れたレオンが起き上がりながら言う。



「何をした……、くそっ、近付くことすらできんのか……」


グラディアは無表情で言った。


「もう一回行くわよ~、はい」


ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!



「ぐわあああああ!!!!」


再び起こるグラディアの超魔力爆発。

今回もマーガレット達が防御壁を張ってくれたので致命傷にはならなかったが、回復したばかりの皆の体力は既に激減していた。グラディアが笑って言う。



「きゃはははっ、面白~い!!! 耐えてる、耐えてるぅ!!」


グラディアは大笑いしながら続けて超魔力爆発を起こす。


ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!



そこからはグラディアによる一方的な魔力爆発の攻撃となった。

レオン達は防戦一方となり、攻撃役のレオンやレスターですら近付くこともできずに動けなくなる。


やがて尽き始める魔法力。マーガレットはもちろん、リーティア、そしてガガドの体力も限界を迎えていた。そして少し飽きてきたグラディアがつまらなそうな顔をして言った。



「もういいわ、あなた達。そろそろ飽きたし、早く美味しいお菓子食べたいし」


「く、くそ……、何て力、あれが魔王じゃなくて、一体何なんだ……」


レオンが全く相手にならない自分達とグラディアを見て言う。グラディアが魔法を発動する。



「さようなら」


ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


そして轟音とともに今日何度目か分からない超魔力爆発が起こる。

力を使い果たし、ただそれを眺めるだけとなったレオン。悔しそうな表情浮かべてその事だけを心に強く思った。


(早く、早く来いっ、!!!!!)




「無の旋律・魔法障壁っ!!!!!!」



遥か後ろから聞こえたその懐かしい声。

同時に目の前の空間が歪み始め、激しく爆発する魔力爆発を絡め取るように押さえつけて行く。


ドンドン、ボフッ……


そして最後は爆発自体をまるでなかったかのように消し去ってしまった。一行が震えながら後ろを振り返る。そして涙を目に溜めながら叫んだ。



「クレストっ!!!!!」


真っ黒なローブに身を包んだひとりの男。

ひとりの大人の女性と、魔族の少女を連れて近付いて来る。そして皆に言った。




「ただいま」


クレストはフードの中から皆に笑顔で言った。そして同じくその姿を対峙していたグラディアが見つめる。そして体を震わせながらひとりつぶやいた。




「あれは、あのお方は……、まさか……」


グラディアは全身の力が抜けて行く感覚を覚えた。

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