108.汚名返上
「あなた達、許しませんよ……」
マーガレットとレスターに対峙した魔賢者スタリオンが怒りを込めて言う。少し離れた場所では仲間の魔騎士ジークが倒れ、そして配下の死神達も次々と討ち取られていく。スタリオンの前に立つレスターが言う。
「悪いがここはお前達のいるべき場所じゃねえ。とっとと帰るか、ここで消えるか、だな」
スタリオンが答える。
「冗談はよしてください。このような素晴らしい世界、何故あなた達だけで独占するのですか? 理解できませんね」
スタリオンは澄み切った青空、美しい木々の緑を見て言った。マーガレットが言う。
「可能なら共生もいいと思いますよ。でも、あんなに簡単にたくさんの人を殺すあなた方とは一緒にはいられないかな」
マーガレットは先に死神によって魂を切られ息絶えた兵士達を見て言う。スタリオンが答える。
「弱き者は強き者に従い、斬られる。何かおかしいでしょうか?」
マーガレットが答える。
「おかしくない。ただ我々の世界じゃそれをやると……」
レスターが槍を構える。マーガレットが叫ぶ。
「怒られちゃうんだよ、怖い人に!!」
「はああああっ!!!!」
ガン!!!
巨躯のレスターが素早くスタリオンに槍の突きを放つ。スタリオンはそれを魔法障壁で防御。すっと後退する。そして言う。
「ふたりがかりとは卑怯な。いいでしょう。こちらも援軍を呼びましょうか」
「なに?」
レスターがその言葉に反応する。スタリオンが何やら唱え始める。
「さあ、起きなさい。我が同志たちよ。
スタリオンが大声で叫ぶ。マーガレットが言う。
「な、なんだ、何をした? 何も起こらな……、……えっ、そ、そんな!?」
マーガレットとレスターは、先に死神によって殺されたローシェルの兵士達がゆっくりと起き上がるのを見て驚いた。
目は真っ白。肌の色は土色で生気はない。そして手にした剣や槍を持ってゆっくりとふたりに近付く。レスターが言う。
「貴様っ、何をした!!」
スタリオンが答える。
「何って、仲間に援軍に来て貰っただけですよ。くくくっ……」
「くそっ、レスター! あいつらは俺が食い止める。しばらく奴を頼む!!!」
「分かった!!」
マーガレットはそう言い残すとひとり兵士達の群れの中に飛び込む。
「魔法障壁っ!!!」
マーガレットは自分の周りに魔法の壁を作り兵士達の攻撃を防ぐ。
ドンドン、ガンガン!!!
兵士達はマーガレットに集まり、持っている武器ででたらめに殴りつける。マーガレットが思う。
(未熟な私では彼らを一度に昇天させることはできない。しかし焼き尽くすと怨霊になる可能性がある。だから殺生は禁止ですよね、お師匠……)
マーガレットはすべての兵士達が集まって来たのを確認してから、魔法の詠唱を始める。
「風の旋律・風壁っ!!!」
ドドドドドッ!!!
それはまるで丸い壁の様に、兵士達をぐるっと一周囲むように風の壁が作り上げられた。逃げられなくなる兵士達。
そしてマーガレットは風魔法で浮かび上がり風壁の外へ出る。そしてさらに魔法を唱える。
「光の旋律・
空から照らされる温かな光。
それが兵士に当たるとボロボロと崩れ始め煙の様になって消えて行く。
(お師匠みたいに一度にできない……、だけど少しずつでもいい。確実に昇天させる!!)
マーガレットは無心で光魔法を唱え続けた。
「健気ですね、ヒト族ってのは」
必死に魂の昇天を続けるマーガレットを見てスタリオンが言う。レスターが答える。
「ああ、そうだな。本当に頭おかしいと思うことがあるぜ、人間って」
「ほお、あなたもそう思いますか」
スタリオンが興味深く言う。レスターが答える。
「まあな。いや、正確に言うと『そう思っていた』。でもな……」
レスターが槍を構える。
「そんな頭おかしいって思うことが、意外と楽しかったりするんだよお!!!」
ガン!!!
レスターの槍の攻撃を魔法障壁で受け止めるスタリオン。レスターに言う。
「分かりませんね。彼らは死した存在。その彼らを有効活用してあげるんですよ。あなた達が奴隷を使うようにね!!!」
そう言いながらスタリオンは指から魔力弾をレスターに放つ。
ドンドン、ドン、ドーーーン!!!
それを槍で弾くレスター。しかし避けきれなかった魔力弾がレスターの腕を貫く。
「ぐっ……」
腕から滴り落ちる鮮血。それを見たマーガレットが言う。
「レスター!! 大丈夫か!!」
レスターはそれに軽く腕を上げて応える。マーガレットはそれに、両手を広げて応える。レスターが槍を大きく後ろに引き、息を整える。スタリオンが言う。
「何ですか、その構え? 隙だらけですよ」
無言のレスター。ひたすら意識を集中している。スタリオンが言う。
「負けを認めたんでしょうか? まあいいです……」
そう言ってスタリオンはレスターに魔力弾を放つ。
シュンシュン!!
「ぐっ……」
避けもせずに直撃を受けるレスター。脇腹には魔力弾の小さな穴が数か所開き、そこからドクドクと血が流れ出す。それを見たスタリオンが笑って言う。
「くくくっ、負けを認めたんですね。やっぱり。じゃあ、死んで貰いましょうか」
スタリオンが再び腕を上げ魔力を集中する。同時にレスターは更に槍を後ろに引き上げた。そして待ち続けたその声が一面に響いた。
「無の旋律・
「えっ?」
スタリオンが振り返ると、死兵達の相手をしていたマーガレットが自分に向けて何やら魔法を唱えていた。マーガレットが倒れながら笑って言う。
「ふふっ、掛かったな。さあ、後は頼むぜ、相棒……」
そう言って地面に倒れてレスターを見つめる。
「はあああああっ、受けて見よっ!!!」
スタリオンは対峙して対レスターから強大な力が溢れていることに気付いた。すぐに魔力を高めようとするスタリオン。しかしすぐに異変に気付いた。
「なっ!? 魔力が、邪気が、上がらない……!?」
スタリオンは一瞬理解不能となったが、すぐに先程マーガレットが掛けた魔法の為だと気付いた。しかしそう思った時にはすでに手遅れであり、目の前には鬼の形相で槍を構えたレスターが迫っていた。レスターが叫ぶ。
「受けよっ!! 俺の槍をおおおおおお!!!!」
ドーーーーーーーーン!!!!
「ぎゃあああああああ!!!!」
レスターが放った槍はスタリオンの体を貫き、そこに見事な風穴を開けた。通常の武器では効かないスタリオンの体だが、マーガレットの付与魔法のお陰でレスターでも致命傷の傷を与えることができた。スタリオンが言う。
「う、嘘だ……、こんな奴に、私の夢が……、魔王様に仕えて、叶える……、私の夢が……、こんなところで……」
そう言いながらスタリオンは倒れて動かなくなった。
バタン!
「はあ、はあ……」
同時にレスターもその場に倒れる。体中の傷から溢れ出る血が地面を赤く染める。同じく魔法を使い続け動けなくなっているマーガレットに言う。
「おい、そこのヘボ魔導士……」
「なんだよ、ウドの大木……」
レスターは仰向けになって言う。
「少しは善行できたかよ、俺達……」
レスターは兵士達に光魔法を掛け続けながら答える。
「まだだ。こんなもんじゃ足りねえぞ……」
「そうか厳しいんだな……」
マーガレットが笑いながら答える。
「ああ、厳しい。あの人は他人にはめちゃっくちゃ厳しいからな……」
レスターも笑って答える。
「じゃあ、もうちょっと頑張るか……」
「ああ、まだ親玉が残っている……」
そう言ってふたりがよろよろと立ち上がろうとすると、その親玉が大きな声で言った。
「あ~あ、みんなやっちゃたんだ。私の仲間……」
マーガレットが立ち上がり大魔王グラティアを見つめる。
「別にさあ、どうでも良かったんだよね、あんな奴ら。弱いし、ジジイだし、まあ、ジークはちょっとイケメンだったから可愛がってはいたけどね……」
レスター、そして気を失っていたレオンもその邪気に気付いて立ち上がる。グラティアが言う。
「でもねえ、やっぱりいなくなっちゃうと寂しいなんて思う訳よ~。難しいでしょ、乙女心って」
レスターが叫ぶ。
「てめえもここで……」
「でも、一生懸命探したけどクレ様もいなかったみたいだし、ちょっと面白くないからさあ、あなた達……、ねえ、死んでくれる?」
ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
「ぐわああああああああ!!!!」
グラディアはレオンやマーガレット達に向かって巨大な魔力爆発を起こした。
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