106.マーガレットの決意

「謁見頂き、誠にありがとうございます。国王」


大魔王グラティア達がローシェルに攻撃を仕掛ける数週間前、三度目の申し入れでようやくサウスランド国王との面会が叶ったマーガレットとレスターが跪いて言った。玉座に座る国王。肘をつきながらふたりに言った。



「何の用じゃ」


その声で初めてマーガレットとレスターが顔を上げる。レスターは父親の国王、そして国王にとっては息子のレスターの顔を見つめる。随分と久しぶりの面会となる。マーガレットが言う。



「お師匠、並びに国王にお叱りを受けてからこれまで数か月、我々は一国民として過ごしてまいりました。しかしその中で我が師の故郷であるローシェル王国が魔物に攻められているとの情報を聞き、居ても立っても居られなくなりここに参りました」


黙って聞く国王。レスターが言う。


「随分悩んだ、いや、悩みましたが、我々はローシェルへ行こうと思っています」


国王の眉が少しだけ動く。マーガレットが続ける。



「我々のしたことは決した許されることではございません。今なお、恨みを持つ方々に命を狙われております」


国王は目を閉じ話を聞く。


「ただ、まだ生きている、生かされていると言うことは、我々にもまだやらなければならないことがあると思います。それが……」



「……ローシェルで魔物と戦うと言う事じゃな?」


それまで黙って聞いていた国王が目を開けて言った。


「そう、いや、そうです。国王」


レスターが強い意志を持った目で返事をする。国王が思う。



(良い目になったの、ふたりとも……)


国王が尋ねる。


「で、儂にどうしろと?」


レスターが答える。



「その、何だ……、単刀直入に言えば、力を返して欲しい。いや、下さい!!」


「お願い致します、国王」


マーガレットが床に頭をつけてお願いする。少し間を置いてから国王が尋ねた。



「また、お前達が悪いことをし始めたらどうするつもりだ?」


マーガレットが答える。


「そのような事は決して致しません」


「誓うっ!!」


レスターも拳を握り締めて言う。国王が最後にマーガレットに尋ねる。



「マーガレット、そなたのその前歯。なぜ治さん?」


マーガレットはクレストに折られて無くなった前歯辺りを手で抑えた。どうして街の魔法医療院などで治療しないかと言う意味だ。マーガレットが答える。



「私の、私への戒めでございます。過ちを二度と繰り返さない様に」


「そうか……」


国王はゆっくり立ち上がると、手にしていた指輪に手を掛けた。






「マ、マーガレット!!!」


レオンはかつて南方大陸で『魔界の門』の守護を命じたクレストの愛弟子を見て叫んだ。マーガレットとレスターがレオンの元に走り寄り、そして地面に両膝をついて言った。



「レオンさん、申し訳ありませんでした!!!」


「マーガレット……」


マーガレットが下を向いたまま言う。



「私の未熟な行動で多くの人に迷惑をかけ、そしてレオンさんやお師匠に悲しい思いをさせ、ほんに、ほんに、申し訳ないです!!!」


レオンが言う。



「顔を上げろ、マーガレット」


「はい……」



(大きくなったもんだ……)


レオンは大きく成長したその姿、そして前歯の折れた顔で涙を流すマーガレットを見て言う。



「クレストにはこっぴどくやられたんだろ?」


「え、ええ、まあ……」


「だったらもういい。過去は過去のこと。マーガレット、私を助けてくれないか?」


マーガレットの目から涙がこぼれる。


「はい……、この不詳マーガレット。命尽きるまでここをお守り致します!!!」



「レオン様っ!!」


同じくマーガレットの隣で頭を下げていた巨躯の男が言う。


「わ、私もマーガレットと一緒に全力で戦います!! どうかご許可を!!」


レオンはその姿を見て少し考える。マーガレットが言う。



「サウスランド国王の息子、レスターです」


「ああ……」


レオンはその昔サウスランドを訪れた際に国王の後ろにいた子供を思い出した。レスターに言う。


「マーガレットの友か?」


「はい、何て言うか、悪友とでも言うのか……」


さすがのレスターも『救世の英雄レオン』の前では小さくなる。レオンがレスターとマーガレットの肩に手を乗せて言う。



「頼むふたりとも。私に力を貸してくれ」


「は、はい!!」


マーガレットとレスターは立ち上がり、倒し切れていない死神達を見つめた。先に放った光魔法でもダメージこそ受けるもののまだ消滅させていない。マーガレットが言う。



「残念だが俺の魔法だけでは消し切れない。だからここにいる兵士全員に強化魔法を掛ける。向こうが数ならこちらも数で当たる。本当にお師匠に言われた通り鍛錬しておけばよかったよ……」


レスターが背に付けた長槍を抜きながら答える。


「あいつら全部ぶち殺してから、また鍛錬しようぜ」


「ああ、それがいい」



そう言うとマーガレットは魔法の詠唱に入る。レスターは槍を振り回しながら、ローシェルの兵達に叫ぶ。


「全員に強化魔法を掛ける。総攻撃開始だああ!!!」


突然現れたふたりに言われ驚く兵士達。しかしその後ろで右手を上げるレオンの姿を見てその言葉を信じる。



「光の旋律・光属性付与ライト・エンチャント!!!」

「無の旋律・昇華ブースト!!!」


マーガレットが渾身の強化魔法をその場にいる兵士たち全員に掛けた。



「お、おおっ!! 何だこれは? これが強化魔法……、凄い!!」


初めて掛けられた魔法に興奮する兵士達。それを確認した指揮官が叫ぶ。


「機は熟した!! いざ、突撃っ!!!!!」


「おおっ!!!!」


白く輝く兵士軍が残った死神達に立ち向かう。既に先陣を切っていたレスターが長槍を振り回しながら死神を薙ぎ倒していく。マーガレットは更にその頭上から光魔法を落としていく。


「光の旋律・ライト・レイン!!!」


「ギョガアアアアア!!!!」


次々と討ち取られる死神達。それを見ていたレイカが驚いて言う。



「あ、あの急に現れた魔導士。す、凄いわね。なんか次元が違うわ……」


フローラルが答える。


「うん、凄い魔力。あんな人がいたんだ、ローシェルに」





「行ける、まだ行けるぞ。有り難い、マーガレットよ」


レオンは強力な援軍によって再び優勢になり始めた戦況を見てひとりつぶやいた。


「私も負けれはおれぬ!!」


そう言ってマーガレットに掛けて貰った強化魔法を感じつつ、死神達へと突進する。

戦況が刻一刻と変わる争い。それを最初から見ていたジークが、力強く動く勇者を見て違和感を覚える。



(何だこの感じは? ローシェルだからなのか? そしてあの男……、不思議だが、会ったことがある気がする……)


ジークがグランディアに言う。



「姫、出撃します」


「いいわよ~、気を付けてね」


そう言うとジークはすっとその場から姿を消した。




「はあっ!!」


レオンは勇者の剣で死神を斬り裂く。光属性が付与されているので、急所を突けば死神も抗うことなく消え去る。そして死神を葬ったレオンの前に、その男が姿を現した。



「誰だ!? ……なっ、あ、あなたは……? そんな……」


レオンは目の前に現れた魔騎士ジークを見て全身の力が抜けた。そして弱々しい声で言う。



「兄さん……、ジーク兄さん」


レオンは魔界に行って行方不明になった兄ジークの姿を見て動けなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る