105.教え子たちの奮闘

「レオン様!! レオン学長!!!」


レオンは生徒達から呼ばれる名前に剣を掲げて応えた。そして生徒達に言う。


「みんな、さっきの言葉の通り光属性付与ライト・エンチャントを体にかけて置けば、魂を斬られることはない!! ただ、十分気をつけろ。敵は強いっ!!」


「は、はいっ!!!」



レオンはこの日の為にずっと育ててきた若き勇者達を見て涙が出そうになるほど嬉しく思った。

その一方でまだまだ未熟な彼らにこのような厳しい戦いを強いられることに強い葛藤も生まれていた。


光属性付与ライト・エンチャント!!!」

昇華ブースト!!!」


生徒達から指示された魔法が次々と発せられる。勇者科の生徒達は体が白くなり、いつもよりも力が漲る体に驚きの表情を見せる。それを見た魔賢者スタリオンが言う。



「小賢しいヒト族め。その程度の力で……」


そこまで言い掛けた時、大魔王グラティアがスタリオンに言った。



「ねえ、ジジさあ……」


「はい?」


グラティアが眉をひそめて死神達を見て言う。


「やっぱり我慢できないわ……、ねえ、なんでまたこいつら呼んだの? 超キモイんだけど。普通にオバケでしょ? いや、ホントに見たくないんだけど。夜出て来たら消すわよ、一瞬で」


スタリオンが困った顔をして答える。


「いえ、ただ、彼らは私の忠実な部下で……」


「早く終わらせて。そんですぐに消して!」


「は、はい……」


スタリオンは困り果てた顔をした後、申し訳なさそうな顔をして死神達に言った。



「攻撃開始。そんでやっつけたら、悪いがお前らすぐに戻ってくれ……」


表情のない死神達から悲し気なオーラが湧き出す。しかし、すぐに戦闘は開始された。




「うおおおお!!!!」


若く勇ましい勇者科の生徒達が、光と力の加護に護られながら死神に突撃する。


ガン!! ザン!!!


死神の鎌と生徒達の剣がぶつかり合う。

光の加護を得た相手に死神達も魂への攻撃ではなく、通常攻撃に変えて応戦する。



「光の旋律・スターシュート!!」

「火の旋律・ファイヤボム!!」


魔法科の生徒達はその後ろから死神が苦手とされる光や火魔法を詠唱して援護する。



「はああああっ!!!」


ザン!!!


レオンも先陣を切って死神討伐に加わる。


(体の痛みが、消えた。いや、消えたと言うよりは感じなくなっている……)


レオンは不思議と快調に動く自分の体を見て思った。ただ同時にそれは限界を超えて体に負荷をかけていることだとも理解している。しかし思う。



(生徒達に任せて俺が休むことなどできぬ!!!)


レオンは全力で剣を振り続けた。




「グゴオオオオオ!!!」


「うわあああ!!!」


開戦からしばらく経ち、死神、そして生徒達に次々と負傷者が現れ始める。それを見たレオンが叫ぶ。



「負傷者は後退!! 魔法科は回復魔法を。絶対無理をするな!!!」


怪我をした勇者科の生徒達が次々と魔法科の生徒の元へやって来る。多くの生徒が涙を流し、激痛と初めて感じる死への恐怖に体を震わせている。



「水の旋律・ヒールポーション!!」


水の使い手であるフローラルは必死になって怪我人の治療に当たった。血まみれの生徒達。そんな光景は初めてだった。フローラルは改めて思う。


(魔物との戦い何て奇麗ごとだけでは済まない。血を見て怪我をして、その先に求めるものがある。それは分かっている。……だけど、やっぱり怖い)


フローラルは自然と目から涙がこぼれていることに気付いた。魔法をかける手も震えている。心の乱れは魔法の乱れ。みんな頑張っているが、絶対的な何かが足らない。フローラルが思う。



(先生、早く帰って来て……)


フローラルは未だ帰らぬ大好きな人のことを想った。





「意外と苦戦してるじゃん。ジジ~、大丈夫なの~?」


グラティアは討ち取られる死神達を見て笑って言った。スタリオンが答える。


「そうですね。意外としっかりとした相手です。先の兵士達よりもずっと手強い。……ただ、まだまだですね」


スタリオンは圧倒的な数で戦う死神達を見て笑った。



音魔法の使い手であるミタリアが戦況を見つつ言う。


「こいつらキリがないわね。私が頑張っても全然減らないし、前の勇者くん達は何だかもう疲れて来ていそうだし、それに初めて見る魔物とか血とか見てビビってる子もいるし。これはちょっと作戦を変えるか何かしないとじり貧って奴で押されるかもね。私も光とか火とか少しは学んでおいたほうが良かったかな、先生にも言われていたし……」


あまり効かない音魔法を放ち続けるミタリアが言う。強力な魔力持ちの彼女でも相性が悪いとあまり効果がない。隣にいるムノンが言う。



「わ、私、全然役に立っていない……、やっぱり無能なんだわ……」


まだまだ魔法が下手なムノンが必死に光魔法を放つ。



「うおおおおお!!!」


ガンガン!! バキッ!!!


一方、火魔法が得意なアマゾネスのバレッタは、自身に魔法をかけ死神相手に暴れまくっている。同様に光魔法が使えるフェリスも死神相手に善戦している。

エルシオン学園の現役、そして卒業生が集まった戦闘集団。突如現れた大魔王グラティア達と互角の戦いを続けていたが、やがてその戦いに変化が現れる。



(押され始めている。いや、我々の方が失速したか……)


レオンが感じる。彼らは実戦経験が少ない生徒達。

突如現れた死神達を見て驚き、ペース配分など構わずに最初から全力で戦っていた。当然最初は良くても体力が尽き、魔法力が無くなれば戦うことはできない。それでも全力でやらなくて勝てる相手ではない。レオンが思う。



(俺に、俺にもっと力があれば……)


クレストがいなくなって感じた事。

それは知らず知らずの間に彼に頼った戦いばかりしていた事。生徒達には偉そうなことを言っていたが、自らを鍛え常に上を目指すことを怠っていた自分。そのツケが今こうして目の前の光景となって表れている。


「はああああっ!!!」


レオンは痛みを感じ始めてきた体に鞭打って剣を振る。



「きゃあああ!!!」

「うわああああ!!!!」


攻撃を受ける生徒達から悲鳴が上がる。必死になって剣を振るうレオンの顔はいつしか修羅の様になっていた。




クレストの生徒達は未知の相手に恐怖しながらもそれでも必死に戦う。


(負けない、私達は絶対に諦めない!! きっと来る。先生は絶対に来るから!!!)



「きゃああああ!!!」


それでも次々と倒れる生徒達。



「くそっ、我々が何もできないとは……」


応援に駆け付けた国軍の兵士達は、魔法なしでは戦えない自分達をもどかしく思う。束の間の平和に浸かり、しっかりと魔導部隊を整備してこなかった兵士達が悔しそうに戦況を見つめる。



「はあ、はあ……」


死神の反撃を受け、息荒くレオンが言う。



「私が、私が、お前達を倒すっ!!!」


そして剣を振り上げた時に、その声が響いた。



「光の旋律・ライト・レイン!!!!」



サンサンサン!!!!


「ギョガアアアアア!!!!」


突然天より降り注がれる光の雨。その突然の攻撃に次々と悲鳴を上げる死神達。

レオンが驚き後ろを振り向くと、そこには見知った懐かしい顔の男が立っていた。



「マーガレット!!!!」


マーガレットと巨躯のレスターが魔族達を睨み立っていた。

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