14.音対決

「ミタリアああああ!!!」


崩壊した洞窟の地面。そこから落ちたミタリアとクレスト。クレストは必死に手を伸ばしミタリアの体を掴む。そして叫ぶ。



「風の旋律・エアウィンドおおお!!!」


クエストが魔法を唱えると彼の体に緑色の風が巻き起こり、体が宙に浮き始める。そしてミタリアをしっかり抱くとゆっくりとのまま地面に降り立った。



「ふうっ」


地面には崩壊で落ちた瓦礫やミタリアに圧殺されたアイスリザードが転がっている。クレストが周りを見回す。崩落の衝撃で脆くなっている壁。その岩の壁がぼんやりと光っている。



(中層まで落ちたのか?)


以前一度だけ来たことがある洞窟の中層。その辺りから壁がぼんやりと光り照明魔法が不要だったのを思い出した。



「!!」


クレストは抱いていたミタリアから突如を感じ、その体を放した。体を放されたミタリアがゆっくりとこちらを振り返る。表情がおかしい。クレストが言う。



「おい、ミタリア。どうした? 大丈夫か」


「……れだ、……まえ」


「は?」


ミタリアが小さな声でつぶやく。そして今度は顔を上げてはっきりと言った。



「誰だよ、お前……」


「!!」


ツインテールの華奢な女の子からは想像できないような低い声。目も虚ろで明らかにおかしい。クレストが答える。


「ミタリア……、じゃないな。お前こそ誰だ」



目も虚ろなミタリアが言う。


「ああ、せっかく楽しき祭りを謳歌していたのに、何でこんな所で、あれ、誰だよ一体。相手は? 遊び相手は、死んだのか、死んじゃった? 壁、壁が崩れて、ああ、おかしい……」



「お、おい、どうした……?」


少し驚くクレストにミタリアが睨みながら言う。


「だから、お前、誰だよ……」



「俺はクレスト。ミタリアの魔法教師だ……、!!」


そうクレストが言い終わるのと同時にミタリアの体から出ていた邪気が強まる。クレストが思う。



(これは、悪霊……?)


以前冒険していた頃、何度か感じた事のある悪霊の邪気。それに近いものをミタリアの体から感じる。ミタリアが言う。



「ああ、感じちゃったみたいだね。そうだよ、僕は霊魂。ミタリアに殺された兄だよ。兄、兄、兄、あにいぃ。殺されたんだよ、超魔力を持つ妹に。兄、兄、兄いいぃ」


「ミタリアの兄? 殺された?」



ミタリアの兄が答える。


「そうだよおお。殺されたんだ。暴発した妹の魔法によって。馬鹿だろ? 無様だろ? でもいいだよ、こうしてずっと可愛い妹と一緒に居られるし。ああ、これはいい。妹は兄を受け入れるだけのキャパを持ち、彼女はぼくのすべてを受け入れてくれる。僕は兄いいいぃ」


状況を理解したクレストが言う。


「そうか、それは無念だったな。可愛い妹に殺されてしまって。同情するよ。だが……」


黙って自分を見つめるミタリアの兄にクレストは言った。



「お前は現世ここにいちゃいけない」


ミタリアの兄はニタニタと笑いながら答える。


「ああああ、分かってるよお。お前らは僕らを嫌う。嫌う嫌うううう。僕は悪い奴。だから殺すんだ。切って潰してぐちゃぐちゃに、きゃっきゃっきゃ……、だけどなあ……」


ミタリアの周りに音精霊が集まり始める。ミタリアあにが言う。



「お前を殺すっていう選択肢もあるんだよおお……」




ドンドン、ガンガン、ドンガンガン!!


「!?」


ミタリアがそう言ったと同時に、洞窟の奥から何か楽器のような音が聞こえた。クレストが思う。


(この音、まさか……)


ドンドン、ガンガン、ドンガンガン!!



「なんだなんだ、何が来たアアア?」


ミタリアもその音の方を見つめる。そしてその音の主が現れた。クレストが言う。



「サウンドベアー!!!」


岩のような巨躯に灰色の体。その体からは楽器のようなを出して攻撃する熊の魔物。クレストも数回対決したことはある中級魔物である。ミタリアはそのサウンドベアーを見て興奮したように叫ぶ。



「ぎゅごおオオオオ!!! これはいい。これはいいねえ。ああ、たまらない。その体、何だいその音は、聞いたことがないよおお。壊すよ壊すよ、一緒に歌おう一緒に奏でよう僕らの歌を……」


そう言うと一直線に魔物に向かって走り出す。


「あ、やめろ!! 危ない!!!」


ミタリアの兄は走りながら魔法を詠唱。素早く空に魔文字を書く。



「音の旋律・コレクトヴォイス!!」


ミタリアから発せられた音の振動波がサウンドベアーに放たれる。


ドンガン、ジャリン!!


「なに!?」


ミタリアが放った音魔法は相手に届く前に、サウンドベアーから発せられた迎撃音によってかき消されてしまった。ミタリアは再び魔法を詠唱。



「音の旋律・サウンドウェーブ!!!」


ミタリアから放たれる音の波状攻撃。しかしすぐにサウンドベアーも音で応戦。



ドンドンガラガラ、ドンガラガラ!!


再びかき消されるミタリアの魔法。驚くミタリアが言う。


「え、何? 嘘だ……、こんなの嘘だよ……」



(相性最悪。お互いがお互いの攻撃を相殺する。となると勝負の決め手は……)


「グゴオオオオオ!!!!!」


音攻撃が効かないと理解したサウンドベアーが咆哮を上げながらミタリアに突進する。肉弾戦。純粋な力の強さが勝負となる。

ミタリアの顔に恐怖の色が浮かぶ。これまですべて遠距離から魔法で一掃してきた彼にとって、その魔法が効かず肉弾戦に持ち込まれるのは経験のないことであった。



「うそ、嫌だ、そんな馬鹿な……」


迫り来る魔物を見て、初めて知るその恐怖。ミタリアの兄はどうしていいのか全く分からなかった。




「風の旋律・ウィンドショット」


ドン、ドンドン!!!


ミタリアの後方から放たれる風魔法。

その直撃を受けたサウンドベアーが後ろに吹き飛ばされた。ミタリアの兄が言う。



「おおお、お前。お前、何で俺を助ける。どうしてだ。どうしてどうして……」


混乱するミタリアに歩いて来たクレストが言う。



「誰がお前なんて助けると言った?」


「はあ?」


驚くミタリアの兄。クレストが言う。



「俺が助けるのは可愛い俺の生徒だ」


「おおお、お前、何を言って、俺がミタリアだ、俺がミタリア、あいつ強いぞ、そんなちんけな魔法で……」


「黙ってろ」


「は?」


クレストはごちゃごちゃ騒ぐミタリアの兄を一喝した。そして言う。



「見せてやるよ。本当の魔法」


そう言って右手を上げ体勢を立て直して向かってくるサウンドベアーに向けた。

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