12.マリア先生

休日の朝。王都郊外にある大きな森。

その入り口の立て札にはこう書かれている。


『危険、入るな! 森の奥に魔物出現』


その森の入り口に立つひとりのツインテールの少女ミタリア。彼女はひとりぶつぶつと何かを言いながら、どんどん森の奥へと入って行く。



「ゴオオオオ!!!」

「ギュガアアアア!!!!」


サーベルタイガー

サンドウォーム

魔死鳥


いつもミタリアが遊ぶ魔物達おともだち

人の気配を感じた彼らがミタリアめがけて襲い掛かる。ミタリアがつぶやく。


「ああ、またまた来ちゃったのね。私は分かるよ、そうだよね。あなた達はもっとやりたいよね。いいよ、いいよいいよおお。分かるんだよ、でもねえ、ちょっと無理かな。私は強いんだよ。強い強い強い。もっとずっと強い。一緒に逝きたいよね……」


森にいる音精霊が大声で叫び出す。ミタリアが言う。


「音の旋律・サウンドウェーブ……」


ドン、ドオオオオオオン!!!!


ミタリアを中心に広がる音の振動。それは凶悪とも呼べる破壊力を持って周囲に波動し始める。



「ゴオオオオオオガアアア!!!!」


相手を見た目で判断していた魔物達が次々と音魔法によって体の内部から破壊されて行く。



「くくくくっ、ああ、いい、いいよおお。気持ちいい。逝ったね、逝っちゃったね。私も逝きそうだよおおお。ううん、ああ、いいよおお。ゾクゾクする。もっともっとおお」


鳴りやまぬ音地獄。

人間目当てに集まって来た魔物達は体内から血を噴き出し、見るも無残な姿となって息絶えた。


音の祭りが終わると魔物の返り血を体中に浴びたミタリアは、恍惚の表情を浮かべてひとり笑った。





「よし、じゃあ今日はお待ちかねの『洞窟実践訓練』だ!!」


「おおー!!」


クレストと魔法科の生徒達は、実技の実戦訓練として王都郊外にある洞窟の前に来ていた。この洞窟の浅い階層には比較的弱い魔物が住み着いている。魔法に不慣れな魔導士でも十分に戦える相手だ。


「お前達、先日も言ったが深い階層へは行くなよ。強力な魔物がいるかもしれん」


実際この洞窟の深層階は未踏襲であり、どんな魔物が住んでいるかは分からない。ただ浅い階層は比較的安全であり練習にはうってつけの場所であった。クレストが言う。



「そして今日はエルシオン学園の可憐な花、マリア先生にも来て貰っている!!」


「おおーっ!!」


数少ない男子生徒から喜びの歓声が上がる。マリアが言う。



「ク、クレスト先生。そんな言い方やめてくださいよ、恥ずかしいです……」


マリアは顔を赤らめて言った。


(か、可愛いいいい!!!!)


マリアはクレストの後輩の魔法講師である。

真面目な性格と教育熱心な先生で、特に男子生徒からは絶大な人気があった。その理由は簡単である。



(今日も、な、なんていやらしい格好だ……、マリア先生!!)


ちょっと色気づいた女子生徒達ガキどもを一蹴するような豊満な胸。少し天然であり、またその胸や美しい足を惜しみなくさらけ出す服のセンスの持ち主。

今日も胸元が大きく開いた服に、洞窟へ行くのに何故かミニスカート。当然ながらクレストの鼻の下も伸びっぱなしである。そして妄想する。



(あまり考えていなかったけどもしスローライフでハーレムなんて作れたなら、マリア先生はその候補筆頭だな。大人の色香ムンムンだし。歩くフェロモン拡散器だな、本当に。ハーレムかあ、悪くないなあ……)



「クレスト先生!!」


「はいっ!?」


突然マリアに呼ばれたクレストが驚いて返事をする。マリアが言う。



「私、いいですよ! すぐにでも(洞窟に)入りたいです!!」


「え!? は、入りたいんですか(ハーレム)?」


クレストが驚いた顔で答える。マリアが真剣な顔で言う。



「はい! 私まだ(魔法で)至らない所もありますが、一生懸命頑張ります!!」


感銘を受けるクレストが言う。


「ああ、なんて素晴らしいお考えで。マリア先生は、もう(そのエロさは)存在自体が奇跡のようなものですよ!!」


マリアが両手を顔に当てて言う。


「そ、そんな私なんてまだまだで、褒めすぎですよ。クレスト先生……」


クレストが真剣な顔で言う。



「直ぐって訳にはいきませんが、いずれを作ったら是非お願いします!!」


「はっ? ハーレム……?」


ぽかんとするマリア。



「……あれ? 違ってました?」


空気が変わったことに気付いたクレストが言う。マリアが顔を赤くして言った。


「一体何の話をしているんですか!! 私は洞窟の話ですよ!!!」


「う、うわああ、ごめんなさい!!」



クレストが生徒の後ろへと逃げる。生徒が言う。


「先生、私が入ってあげようか? ハーレム」

「私もいいよ」


「へっ?」


そこにはにこにこと笑うフローラルとレイカがいる。


「いいいい、いや、嬉しいんだけど、うぐっ……」


遠くでクレストを睨むマリア。クレストが言う。


「だめだめだめ! ガ、ガキはだめえ!!」


ふたりはむっと膨れて言い返す。


「ガキじゃないもん!!!」




「クレスト先生!!!」


「は、はいっ!!」


クレストは再び急に呼ばれ振り返ると、そこには勇者科の講師であるキースが立っていた。キースは怒った顔でクレストに言う。



「何をやっているんですか、一体。今日は生徒達の命を懸けた実技訓練。あなたがそんなんでどうするんですか!!」


「そ、そうですね。頑張りましょう」



「キース先生、大丈夫ですよ。こう見えてもクレスト先生はしっかりしてますから」


マリアが歩きながらやって来る。その姿をいやらしい目つきで見ながらキースが言う。



「し、しかしやはり私はみんなが心配で……」


「って言うか、どうしてキース先生がここにいるんですか?」


「えっ?」


今日は魔法科の実技訓練であって、勇者科のキースには関係のない授業。それを思ったクレストが尋ねた。


「い、いや、その……、だからみんなが心配で……」


キースがばつが悪そうに言い訳をする。




「先生、洞窟入ってもいいですか?」


ずっと待たせている生徒達から声が上がった。クレストが答える。


「ああ、ごめんごめん。じゃあ説明を続けるな。今日は私とマリア先生が安全の為に同行する。だから決して無理はしないこと。危ないと思ったら必ず退くこと。いいか?」


「はい!!」


生徒達が答える。マリアも頷いてそれを見る。

クレストはマリアと何度か魔物との実践訓練に同行しているが、彼女にはクレストなりの信頼を持っていた。魔力は決して強くない。ただ彼女には特別なスキルがった。



スキル『多属性』


破壊力に直結する魔力は低いのだが、その代わり多くの属性を扱える。マリア自身どのくらいの属性が扱えるか分からないレアスキル。彼女の話によるとその場にいる精霊も大きく関わっているそうだ。




「じゃあ、行こうか」


「はい!!」


クレストの言葉に元気に返事をする生徒達。

張り切る彼らの後にクレストとマリアが続いて洞窟に入った。

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