序盤から掴みが素晴らしく、中盤を読み進める頃にはもう「今回の入賞これだな」と確信できる力作でした。
就職や大学進学の為に地元の離島を離れ「本土」へと旅立っていく若者たち。
それを見送る島の人々。陸から船へ投げられるテープ。
手を振って喉が破れんばかり叫ぶ若人たち。
非常に丁寧な文章で、その場にあふれた感動の全てを残らず描写しきった作者さまの高い技量にはただただ脱帽するしかありませんでした。
旅立ちの独特な雰囲気。
決別の悲しみと新天地への不安、そしてこれから始まる未来への希望と胸の高鳴り。そういった複雑な感情が入り混じった人間模様をたった四千字でここまで詳細にまとめられるとは。
その上にもう一つ出来が良いのは、主人公が完全なる傍観者である点です。
読者の目線に立って淡々と目にした事実を語る者。狂言回しという奴でしょうか。
これが若者らしく自身の感動を延々と独り言で語り続ける主人公だったら、読者の視野もずっと狭くなり「複数の人生」をまとめて描き切ることなど到底不可能だったに違いないのです。実に素晴らしいお手本のような「狂言回し」まさに皆の手本となるべき入賞に相応しい模範的作品だと言えるでしょう!
自信をもって進められる珠玉の逸品。お時間があれば是非!