第202話 送別
一八と玲奈、それに元一班の面々が仮説の墓地へと集まっていた。
もう何度も墓参りをしていたけれど、進軍を前に最後の挨拶を済ませている。
「伸吾は無茶をしない剣士だと考えていたのだがな……」
長くパートナーを務めていた玲奈。手を合わせてからポツリと呟く。
「あいつはやるときゃやるんだよ。最後は本当に勇敢だった……」
一八が答えている。伸吾の最後を知る一八は思い出すようにして語っている。
「伸吾っち、飛竜を倒したんだよね? 血統スキルかな?」
莉子が聞いた。その問いには生駒と今里にも答えられたけれど、一八が代表をして見たままを口にしている。
「いや、血統スキルじゃねぇ。でも、あれは光の剣だ。滅茶苦茶眩しかった。伸吾は全魔力を発現させていたように思う。飛竜だけは討つのだと決めていたはずだ……」
魔力は全て使い果たしただろうと一八。間違いなく死を覚悟していたのだと思う。
「そか。伸吾っちは唯一馬鹿だっていわない剣士だったのに……」
言って莉子は再び祈るように手を合わせた。夜から進軍が始まるのだ。もうしばらくは墓参りなどできないだろうと。
「俺はここで誓いを立てっぞ。天軍を全滅させんだ。伸吾に約束する。線香の代わりにレイストームを立ててな……」
線香から立ちのぼる煙はこの世とあの世を結ぶ架け橋だといわれている。一八はその代わりをレイストームでするという。
迷わず伸吾が旅立てるように。真っ直ぐに揺らぐことすらなく天界へ辿り着けるようにと。
「それは良いな! 魔力回復薬を飲ませて引っぱたいてやる。気にせず昏倒しろ! 盛大に打ち上げてやれ!」
どうやら玲奈も乗り気である。正直に後で怒られる気がしないでもなかったけれど、何か区切りを設けないことには前へと進めそうになかった。
「奥田、魔力回復薬の準備はできたぜ!」
「二本一気に流し込んでやる!」
生駒と今里もやる気満々である。非常に高価な魔力回復薬を二本も消費するというのに躊躇いはなかった。
「カズやん君、骨は拾ってあげるよ!」
「別に死ぬわけじゃねぇよ!」
笑い声が満ちる中で、一八は斜陽を抜き、更には柄を天へと向けた。
これが最後である。一班の班員たちが説教覚悟で伸吾へと捧げるもの。天へと還る道筋を真っ直ぐに示すだけだ。
「レイストーム!!」
多重術式が宙に描かれた直後、目も眩む輝きが天を貫く。それは絶対に迷いそうもない光の道。伸吾が辿るべき道程であった……。
一八を除く全員が敬礼している。空に向かって天へと還る伸吾の御霊をずっと眺めていた。
「あばよ、伸吾――――」
言って一八は意識を失う。しかし、その表情には大きな笑みがあった。キチンと送り出せた彼は誰よりも満足そうに笑っている……。
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