　夜になり、ギフ侵攻軍団が出撃準備に入っていた。魔力切れで昏倒した一八だが、早々に回復薬を飲んだことで今は完全回復している。

　既に師団ごとに分かれ、魔道トラックへと乗り込んでいた。現在は連合軍特務師団から順に目的地へと進行している。

「斥候の最新情報によると、ギフには幹部級の天主が二人常駐しているらしい。ただ兵の数は殆どいない。多く見積もっても一万以下という話だ……」

　此度はヒカリも荷台に乗っていた。ナゴヤを陥落させたことで、ようやく兵団にも余裕が生まれたらしい。運転手が宛がわれた今回の戦闘員は全員が荷台での移動であった。

「やけに少ねぇな？」

「うむ、罠かもしれんんが、ナゴヤも大した兵力を残していなかっただろう？　恐らくは共和国と連合国との二面作戦が成功する前提であったと思われる」

　天軍の一万に対し、共和国は十万。その内の二万五千は連合国軍兵士であるが、それを除いても圧倒的である。

「しかも進化級オークはいない。なのにどうしてか幹部級が二名もいるのだ……」

　ここでヒカリは疑問を投げかけていた。第一侵攻師団の一号車に乗るのはいずれも騎士である。彼らの意見を聞こうとしているのかもしれない。

「浅村少佐、それはやはり何らかの罠でしょうか？」

　恵美里が聞いた。兵の数が足りないというのに、幹部級を二人も配備しているなんて。流石に何らかの工作があるとしか思えない。

「十中八九、罠があるだろう。勢い任せに進むのではなく、慎重にことを進めるべき。数では圧倒しているのだ。急ぐ必要はない」

　全員が頷いていた。破竹の勢いで人族を窮地に追いやった姿はもうどこにもない。恐らくは進化級オークが切り札であり、飛竜という駒が天軍の屋台骨であったはずだ。天主の数は少なく、兵を魔物に頼るしか彼らには選択肢がなかったのだから。

「俺は天主をぶっ殺してやりたい……」

　ここで一八が発言する。それも物騒な言葉でもって。彼の怒りは全員が理解していたけれど、慎重に攻めると決めたばかりなのだ。流石にスタンドプレイは容認できない。

「奥田、気持ちは分かるが、我慢も必要だ。もう無駄に人員を失いたくないだろう？」

　ヒカリの話には少しばかり考えるような間がある。けれども、一八は頷きを返していた。

　一八にも分かる話なのだ。伸吾の弔いを考えたばかりに、他の誰かを失うなんてあってはならないのだと。

「まあ、必ず出番はある。勝てる戦いこそ慎重に動くべきなのだ。先日のように鬼神の如く暴れ回るんじゃないぞ？」

　伸吾が失われたあと、一八は気が触れたように刀を振り続けた。それこそ休むことすらなくオークを切り捨てていたのだ。

「部隊の規律を守れ。冷静に戦うこと。それ以外は好きにして良い。オークだけでなく、天主を好きなだけ斬りつけてやれ……」

　ヒカリたち最前線の部隊は大まかなエリアが決められているだけで、細かな作戦は決められていない。大まかに魔物を斬っていくだけ。あとに続く一般兵が彼らの討ち漏らしを始末していくだけであった。

「ああ、任せとけ。俺はこう見えて冷静な男なんだ……」

　ヒカリは薄い目をしている。また彼女だけでなく、莉子や玲奈もまたまるで信じていないのか、同じような目をしていた。

　一八とて彼女たちの評価を分かっている。だからこそ自身の決意を付け加えていた。

　肉片も残さず斬り刻んでやるぜ――――と。

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