第13話 未来へ 4
兵士たちが、忙しく海賊騒動の後始末をしている中、街の広場ではお祭り騒ぎになっていた。
街の為に、少ない人数で真っ先に海賊の侵入を防いでくれた冒険者たちの活躍をねぎらい、力を合わせて戦った街の人たちも肩を組んで杯を打ち鳴らしていた。
歌う旅団のメンバーは、ゾウ広場に集結して、一緒になってお祭り騒ぎに参加していた。
「いや~。君がダン君だね。マースが世話になっているそうじゃないか」
ダンに声を掛けてきたのは、美女に見まごうほど整った顔で輝くような長い銀髪をした男の人だった。明るく気さくな感じで、少年の様な笑顔を浮かべている。
「こっちこそパインには助けられてばかりです、クララーさん」
ダンが恐縮しながら答える。
「謙遜するな!パインがお前の事であれだけ怒ったんだ。よっぽど仲良くなっているんだろ?」
ダンの隣に座っているマイネーが豪快に笑う。
「マイネーは・・・・・・というか、歌う旅団の皆さんはどうしてヘルネ市に?」
さっきからこのヘルネ市の市長が、召使いのように青い顔をしながらマイネーにこき使われている。今も、できたての料理を皿に盛って、「ヒーヒー」言いながら運んでくる。
マイネーはクララーをフォークの先で指し示して、睨みつける。
「こいつがちっともマースの事を見に来ないから、オレ様が無理矢理連れて来た!!」
「『マース』と呼んで良いのはクララーだけだ!」
クララーの隣に座るパインが文句を言う。
「こんな薄情者のどこが良いのかねぇ?」
マイネーが憤慨する。実際マイネーはパインの事をずっと気に掛けている。
「薄情者とはずいぶんだなぁ~。僕はマースを信じているだけだよ。何せ、とっても優秀な妹だもんねぇ~」
「ねぇ~~~!」
クララーとピフィネシアがそう言って笑う。実際には血が繋がっていないのはダンも知っている。クララーがパインを山の中で拾ったそうだ。
「様子を見に来る約束だったろうが?!なのにこいつ等グレンネックでウロウロしてやがったから、無理矢理アインザークに連れて来た。オレ様も大族長としての仕事があったから、ガイウスの城で用事を済ませた後で、みんなで来ようとしていたんだ。そこに海賊がヘルネを襲ったって報があったから、文字通り飛んで来たんだよ」
マイネーが一気に説明して、市長が持ってきた肉にかぶりつく。
クララーとピフィネシアは、パインを挟んで座って、和やかに話しをしている。
黒髪のアインと、同じく黒髪だが、機嫌の悪そうな顔をした男の人は、ジンジャーと同じくらい小さな、多分ハーフエルフの女の子の隣に座り、飲み食いしている。
ダンの目の前には、子どもたちみんなの憧れ、最強の冒険者パーティーが勢揃いしているのだ。まるで夢のような光景だった。
ダンと同じテーブル、または隣のテーブルには、ネルケやエド、レオンハルトたち仲間もいる。メグも、今はエドたちとおしゃべりしている。
「それよりダン。聞いたぜ!」
マイネーが大きくて太い腕を、ダンの肩に回してくる。
「ゴブリン襲来事件と、今回の民兵の指揮。あれはお前がやったんだろう?見事な作戦だったって言うじゃないか!」
ダンはうつむいて、小さな声で呟く。
「でも、僕は魔神がいると思わなくって、みんなを危険な目に遭わせてしまった。作戦は失敗したんだよ・・・・・・」
そもそも、どうやら海賊たちの本当の目的は、商船の拿捕ではなく、単純に魔神の命令でヘルネの港に暴れに来たのだ。
あのままパインや旅団が倒してくれなければ、街に上陸して、散々に荒らし回ったことだろう。
それにより、海賊はおそらくほとんど倒されたり、捕まったりするだろうが、魔神は人々の恐怖や不安、怒りなどの負の感情を吸収することが出来る。
だが、マイネーは大声で笑う。
「オレ様はそうは思わねぇ!実に的確だった。それに、お前がマースの本当の力を知っていたら、きっと違う作戦を立てていただろう?」
それは確かにそうだ。パインの力を知っていれば、他にもいくらでもやりようがあった。そもそも、まだパインに何が出来て、何が出来ないのか分からない。どんな物を、何を素材に作れるのかさえもだ。
パイン自身も、人の望みを読み取ってから素材や完成品を想像出来る様だった。
だから、材料だけでは美味しい料理が作れない。
「ま、あいつの本当の力なんて、オレ様たちも分かってねぇ。本気の本気を出したら、オレ様たちの本気の本気よりも強いのかも知れねぇ。ちなみに、今回は誰1人として本気は出してねぇよ」
マイネーは笑って、マイネーが持つと小さなコップにしか見えない大ジョッキの中の酒を一気に飲み干す。そして、「プハ~~~」と息を付くと、ダンの肩を叩く。
「つまりだ。お前は充分良くやったし、街を救ったって事だ。しかもお前が率いた民兵には死者は1人も出ていない。魔神と戦ってこれは凄い事だ。胸を張れ、英雄!」
マイネーのその言葉に、ダンは一気に体温が上がった気がした。嬉しかったし誇らしかった。メグが生きていた事もあり、純粋に喜べた。
「マイネー。僕、兵士になりたいなって思って、図書館で戦史とかを勉強していたんだ・・・・・・」
自信なさそうに、ダンはモゴモゴと言った。
それを聞いたマイネーは、目を丸くして絶句してから、「グワッハッハッハッ!!」と、豪快に笑った。
「ダンよ!普通兵士になりたいなら、まずは体を鍛えるだろ?」
言われて、ダンは恥ずかしくてうつむいてしまった。初めて人に話した、自分の新しい道。だけど、それが笑われてしまったし、確かに体が弱い自分が兵士になどなれる訳がない。
そして、体を鍛える事を考えもしなかった自分が恥ずかしかった。
「けど、お前はまず戦史の勉強をした!それは凄い事だ!」
マイネーがそう言ったので、ダンは驚いてマイネーの顔を見上げた。マイネーは真っ直ぐな目でダンの目を見返す。
「お前のなりたいもの、なるべきものは、『兵士』じゃない。『軍師』だ!」
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