第13話 未来へ 3
パインの額から赤い光るが虚空に伸びていくのは、港にいるダンたちにも見えた。
「やばい!あいつマジで切れてる!アレは流石に初めて見る!!」
マイネーが焦ってピフィネシアを見る。
「姉さん!クララーたちを回収!!」
「分かってるわ!アーちゃん!クララーを助けて!!」
ピフィネシアにも焦りの色が見える。優雅に指を動かすと、海に波紋が走った。
「いやーーー!もっと大物と戦いたかったんだけどねー!」
クララーとルビカンテとの戦いは、とっくに決着が付いていた。ルビカンテは胸をサーベルで貫かれて、すでに瀕死だった。海賊たちも、倒されたり、海に落とされたりしている。
にもかかわらず、無意味にクララーは光魔法を派手に輝かせて激しい戦闘をしている様に演出していた。
「グッ!お、おのれ~~」
ルビカンテは力なく罵る。致命傷を与えられているので、もはや助からない事はルビカンテにもわかっている。
「んが~~~!??」
ルビカンテの目の前で、クララーが突然伸びてきた水の腕に掴まれて、凄まじい速度で灯台の方に連れて行かれるのを見た。
それが最後にルビカンテの見た光景だった。
「うおおおお?!アーちゃん!?どうしたの?」
クララーは自らを掴んで運ぶ水精霊のアーちゃんに尋ねる。とは言え、クララー自身には精霊の姿は見えない。精霊が動かしている水に語りかけているのである。そして、返事も当然聞こえない。
「おおおいい!クララー!アレアレ!!」
横を見ると、オオカミ獣人のアインが、獣化して必死になって海面を走っている。波のない静かな水面を走る事が出来るのは知っていたが、ここまで荒れた海の上を走るとは、よほど必死なのだろう。
そんな事をクララーはのんきに考えながら、アインの指さす方を見ると、赤い光が空に向かって伸びていく光景が見えた。
「あっちゃぁ。あの子があんなに怒るなんてねぇ~」
アーちゃんに運ばれているクララーは余裕な表情で笑っている。
その上を、暗黒の翼膜を生やしたシャナが、鬼の様な形相で、無言で飛ぶ。鬼の様な形相だが、それが素の状態なので、特に驚く事ではない。
高波に足を取られて、何度も海に落ちながらも、何とか這い上がり必死にクララーを追いかけながらアインが叫ぶ。
「あのババア!クララーだけを助けないで、ちゃんと俺も助けてくれよな!!」
「あ、ピフィーに告げ口しちゃおう」
アインの暴言を聞き咎めてクララーが言う。
「ああ~~!クララー。マジで勘弁して下さい!姉さん容赦ねーんだよぉ!!」
空に伸びた赤い光に、不吉さを覚えたのか、魔神バフも、接近しつつある2人の魔神も、一斉に魔法を放つ。
凄まじい攻撃がパインに当たるかに見えたが、全てパインの額の目に吸い込まれてしまった。
『ば、馬鹿な!?』
魔神バフの驚愕の声すらも、赤い光に吸い込まれてしまう。
風がうねり、空に黒雲が湧く。
雲が太い綱を降ろすように伸びてくる。
「竜巻だ!!」
誰かが叫んだ。
海面が盛り上がり、上から下りてきた雲の綱と結びつく。
竜巻が魔神バフを飲み込んだ。
『フ、フハハハハ!何かと思えば竜巻だと?!この程度、グハ!?グアアアアア!!!』
余裕の笑い声は、あっという間に絶叫に変わる。
『グアアアアーーーッ!!痛い?!痛い!!助けてくれ!助けてぇぇぇーーー!ギャアアアアア・・・・・・』
聞いているだけでおぞましくなるような断末魔は、すぐに止んだ。
その竜巻は、残った魔神の乗る海賊船に向かう。魔神も海賊たちも、すでに戦意を喪失し、必死に回避しようと櫂をこぐが、竜巻に吸い寄せられ、あっという間に飲まれてしまう。
またしても上がる無数の叫び声。
それが終わると、竜巻はそよ風の様に消え去り、空も晴れ渡る。
朝日が湾内に差し込むと、すっかり穏やかになった波が、きらきらと輝く。
無数の残骸と、何とか命だけは助かった海賊の残党が、穏やかな波間に浮かんでいる。
空を飛んで、港に戻ってきたパインを、人々は大歓声を上げて迎えた。
「すげえぞ、お嬢ちゃん!!」
「魔女様!ありがとう!!」
その光景を見て、ダンは笑った。隣にはメグがいて、メグも嬉しそうに笑っている。
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