第13話 未来へ 2
港に到着したダンは、急いでマイネーの所に駆けつける。
マイネーの隣には、綺麗なエルフの、いや、あれは伝説の種族ハイエルフの女の人で、歌う旅団では「清廉なる歌姫」と呼ばれているピフィネシアが立っていた。青みがかった緑色の髪をした、信じられないくらいに美しい人だった。
その足元に、とても小さい女の子が、スカートの裾を掴んで立っている。
「マイネー!!」
ダンが駈け寄ると、マイネーは握り拳を突き出してニヤリとする。ダンは嬉しくなり、自分の拳をマイネーの拳にぶつけて笑う。
「ダン。逞しくなったな!後で話し聞かせろよ!」
「うん!」
「さて、オレ様は手前の残った海賊共を焼いて喰っちまうか!」
「もう、マイネー!ティナの前で、物騒な事言わないの!」
頬を膨らませて、小さな女の子を庇いながらピフィネシアが言う。
「まあ、良いって事よ。それより姉さん。兵士や冒険者の救助と避難を頼んだぜ!」
マイネーが言うと、「はいはい」と返事をして、ピフィネシアが人間では再現出来ないのではと言うほど優雅な手振りで空中を撫でる。
「アーちゃん、よろしくね」
そう言うや、海の水が一気に膨れあがり、小山の様に盛り上がる。
小山が割れると、その山の上に沢山の人や船を乗せて港に津波のように押し寄せてきた。
港に集まった人たちが慌てて逃げたが、盛り上がった海は、その上に乗せた船や人たちを、優しく陸に揚げると、静かに海に戻っていった。
恐らくはそれこそがハイエルフだけが使える精霊魔法なのだろう。
そんな大技を涼しい顔でしたピフィネシアの横で、マイネーが魔法の詠唱を開始している。
『インダルト・グレディオル・バイ・レダイトス・エギュトノース。 インダルト・グレディオル・バイ・ノイエスタル・ガライシャス・ディ・オール!
黒貌たる深淵を照らす、黄金の星が如き、熾天の炎よ。
輝く大蛇となりて、惰弱なる土塊を飲み込み、焼き尽くし賜え!!
魔界の王たるルシファーの名において我が命ずる!!!』
更に魔法の詠唱は続いている。通常の魔法よりも遥かに長い。しかも詠唱の決まり事のパターンを大きく越えている。
これは賢聖リザリエの魔法改革以前の旧魔法だと思われる。
マイネーの周囲の空気に赤い色が付く。魔法の完成を待たずに炎が発生し、灼熱に輝く魔法陣がマイネーの前に3つ出現する。
魔法が完成する。
『ア・ローガンス!!!!!』
白く輝く灼熱の巨大な炎の柱が、それぞれの魔法陣から放出され、眼前に迫る海賊船に突き刺さる。
炎の柱がぶつかった海賊船は、一瞬で爆砕される。
更に、炎の柱は3つに分かれて、湾内の海賊船に次々襲いかかる。
魔法が当たった海賊船は、みな呆気なく爆砕する。
「あ、危ない!!」
ダンが叫んだ。
炎の柱の1本がパインの方に進む。そして、パインに命中する。
マイネーも当然気付いているのだが、一切容赦せず、パインごと、魔神バフのいる海賊船を貫く。
ダンは息を飲んだが、炎の柱が通過した先で、海賊船は爆砕されたが、パインは無傷で浮かんでいた。
「あいつには、これくらいの炎は効かないんだよ」
マイネーが苦笑いする。
「ってか、倒し方がわからん」
確かに、火事の時も、パインは炎にまともに晒されたのに無傷だった。
「しかし、あいつは相手を攻撃するのは好きじゃなかったはずなのに、どうしたのやら、やたらと怒っているようだな」
マイネーがボソリと呟くのを、ダンは聞き逃さなかった。
湾の外での戦いも、激しさを見せているが、決着も近かった。
船に降り立ったのは、歌う旅団のリーダー「光の皇子クララー」、「闇の皇子シャナ」、「黒い稲妻アイン」の3人だった。
一方で5人の魔神は魔界の侯爵ムオーデル、子爵ルビカンテ、将軍ワルタ、騎士フーリー、ジャターンで、いずれも12魔将アール・バ・バフの配下だった。
3人は、自分が降り立った船の魔神と戦う。
クララーはルビカンテ。シャナはフーリー。アインはジャターン。
いずれも、普通の冒険者なら手も足も出ないだろうが、歌う旅団メンバーと戦うには役者不足と言わざるを得なかった。
クララーは派手な光の魔法を連発して戦っている事を港にいる人たちに見せつけて、人々の安心感を誘う。
シャナと、アインは、武器だけで魔神も、海賊たちも圧倒していた。
そして、歌う旅団メンバーが乗り込まなかった海賊船に乗る侯爵ムオーデルと、将軍ワルタは歌う旅団とは戦わず、その横を素通りし、上官である12魔将バフの元に急ぐ。
魔神バフは、爆砕された船の瓦礫の上に立っていた。無傷ではあるが、怒り心頭に達する表情でパインを睨みつけている。
『貴様も歌う旅団だと言うのか?』
パインは静かに魔神バフを見る。
「歌う旅団、『邪眼の魔女』マダハルト・パイン」
静かな声で名乗る。
額の第三の目が赤く光を発する。
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