第12話  襲来 6

「それで、作戦は?」

 メグは当然の様にダンに尋ねてくる。

 ダンは、メグとその両親に作戦を伝える。

 作戦が伝わると、鏃型の隊形で進んでいた船が、2艘ずつ、全部で5つの塊になって、それぞれ湾内に侵入する。

 小さい小舟は、港での戦いに気を取られている海賊たちに気付かれていない。


「今だ!!!」

 ダンが叫ぶ。

 ダンの小舟に随従するもう一艘に乗るルッツが、花火に火を点ける。

 爆音と共に、炎の柱が海賊船の横っ腹に向かって伸びていく。その炎の柱が、いくつにも枝分かれしながら、複数の海賊船に衝突する。そして、大きく爆ぜた。


 それを合図に、他の4つの小舟の船団からも、花火が打ち込まれる。派手な火花を咲かせながら、次々と海賊船に命中し、爆発、炎上させる。


「充分だ!港に戻る!!」

 これで当初の目的が果たせた。海賊船の半数が炎上して、湾内の海賊たちはパニック状態だ。

 後は兵士や冒険者に任せて、素人は邪魔にならないように撤収する。協力してくれた海の一族にも犠牲者は出したくない。

 ダンの作戦は終了した。




 だが、そうはならなかった。

『ククククク。面白い。面白いぞ!』


 周囲の騒音を、喧噪をかき消すような声が湾内に響く。

 炎を吹き上げる海賊船の帆柱の先に、1人の男が立っている。

 黒いマントに、黒い鎧。巨大な角の生えた兜を被っている。

 巻き上げる火の粉が吹きつけ、激しく揺れる帆柱の先で、全くバランスを崩すことも無く立つその男は、不思議な声で続ける。


『これぞ恐怖!これぞ憎しみ!これぞ欲望!美味い!我の力になる!!』

 男は両手を広げる。

『だが、足りぬ!!もっと我に恐怖を与えよ!!海賊共よ!焼け死ぬまで戦え!!』

 男の声が響くと、燃えて、今にも沈みそうな海賊船から、大量の矢が射かけられてきた。

 命中精度など無視したでたらめな矢である。それでも、何本かはダンたちの乗る小舟に届く。


『アクアウォール』

 海水が持ち上がり、薄い膜を張る。マーメイドの水魔法で、矢の攻撃を防ぐ。


 そして、反撃とばかりに、海の中に潜むマーメイドたちが、帆柱の上に立つ男に向かって、一斉に水の槍魔法を放つ。

 だが、全ての槍は、男に当たる前に弾けて消える。

『マーメイド如きが!我らが創りし雑兵種族が!』

 男が海中のマーメイドを嘲笑う。

『我は魔神!12魔将が1人、アール・バ・バフ!貴様等まとめて、我らの糧となれ!!』

 男の周囲の空間が歪む。

「マズい!!魔神だって?!」

 ダンが叫ぶ。しかも12魔将と言えば、実力主義で知られる魔神王ルシファーの配下だ。海賊の背後に魔神がいることは、もはやエレスの常識だが、このクラスの魔神が直々に出てくるとは思ってもみない事だった。

 魔神の存在を計算に入れていなかった以上、ダンは完全に作戦を誤った事になる。

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