第12話  襲来 5

「打ち方、止め!!」

 号令で、矢の攻撃が止む。

「地上部隊、突入!!」

 次の号令で、周囲の建物の扉が開いて、200人の男たちが、残り僅かにまで討ち減らされた海賊たちに襲いかかる。

 武器はそれぞれに持ってきた者もいたが、大半は用意していなかったので、やはりパインが即席で作った木の槍だった。穂先は民家から集めた鍋で作った。ただし、ついでに吸い込んだ、恐らく調味料によって、僅かでも傷を付けられれば、相手は体がしばらくしびれると言う効果が付与されている。


 すでに戦意を喪失している海賊たちは次々と降参したが、中には逃げようと抵抗して、槍で刺されて身動きが出来なくなる者もいた。


 これによって、上陸した海賊たちは、一網打尽にされた。

「レオン。しっかり指揮出来ていたわね」

 戦いが終わって、真っ赤な顔で興奮しているレオンハルトの肩を、テレーゼが優しく抱く。

 街の防衛部隊の指揮をしていたのはレオンハルトだった。そして、レオンハルトよりも弓の腕が優れた姉のテレーゼも、同じく弓矢部隊として参加していた。

「姉さん。作戦はダンが立てた物で、ボクはそれに従っただけだよ。それに、姉さんを戦わせてしまった。ごめんなさい」

 そう言って、レオンハルトは悲しそうに微笑む。

「レオン。エルフはいつでも戦える心構えをしていなければいけないの。だから気にしないで。でも、あなたは優しすぎるから、兵士になるのは心配だったけど、今日の戦いを見ていたら、大丈夫そうね。淋しいけど、応援するわ」

 レオンハルトは、肩を抱く姉の腕をギュッと掴んだ。

「ありがとう、姉さん。だけど、お鍋を頭に被るのは似合わないよ」

「あら。これはダンのアイディアで、いつか使ってみようかなって思ってたのよ。良い機会だと思ったけど、似合ってないならやめるわね」


 レオンハルトが指揮をした900人は、次に港に向かった。


 



 ところで、集まったのは1000人だったが、残りの100人はどこにいたのかというと、街道を迂回して、海賊との遭遇を避け、浜辺に来ていた。

 そこに、ダンがいた。

 隣にはエドと、止めたのにパインも来ている。

 「甘く見るなよダン。私は『歌う旅団』のメンバーだ」

 そう言われると返す言葉もない。

 流石にネルケは高台に残してきている。


 ダンの作戦は、陸上で、侵入した海賊を別部隊が殲滅した後に、港で陽動する。

 その間に、海賊が乗ってきた小舟で、海賊たちの船の側面に密かに近づき、そこから攻撃してすぐに離脱する。

 離脱した後は、それこそ、兵士や冒険者に任せる。街の人たちを必要以上に危険な目に遭わせたくは無い。

 そうは言うが、ここにいる100人は、言わば精鋭で、元冒険者だったり、魔法を使える者である。武器も防具も自前の物を持っている連中である。

 ルッツもゲンさんもここにいる。


 ただ、問題は、この波の中で小舟を操れるだけの人材はいなかったことだ。

 何とかなると思って、海にこぎ出しては見たが、波に翻弄されて、まともに進めない。あっという間に沖に流されて、転覆しないように耐えるので精一杯だった。

「ちょっと!これはヤバいぞ!!」

 エドが別の船の上で叫ぶ。

 必死に船をこぐが、波と潮の流れによって、中々海賊船の方に進んでくれない。

「これは作戦変更した方が良いかも。岸に戻ろう!」

 ダンは考え直したが、元の砂浜に戻るのも、かなり難しそうな状況だ。


「お困りですか?ダン~?」

 不意に海の中から声が掛かる。

 ダンは、その声を聞いた瞬間、涙が溢れる。

「メグ?!」

「はいな~」

 海の中から、メグが飛び上がって船に上がってきた。

「メグ?!メグ!!生きていたんだね!?」

 ダンはメグを抱きしめる。

 メグも嬉しそうにダンの体を抱きしめる。

「ごめんな~~。きっと心配掛けたよな~~」

「当たり前だよ!!」

 ダンは叫ぶ。涙をぬぐって、メグの体を改めて見る。特に傷跡は見当たらない。

「あの後な~。ちょっとサメにかじられたんやけど、すぐにウチ等の一族が助けてくれたんよ~。言うても、かなり死にかけとったから、怪我は治っても、動けるようになるまで時間が掛かったんよ~」

 そんな事があったのか。ダンは思う。だけどここは今戦場だ。こんな所にメグがいたら、またあの時のような事になり兼ねない。

「メグ。今は危険なんだ。お願いだからどこかに隠れていて」

 ダンが言うと、メグはにっこり笑う。

「知ってるで~。海賊やろ?ウチが動けるようになって、みんなでお礼に来ようと思っとったら、海賊共が港に向こうとるん見つけたんよ。せやから、今度はウチ等がダンやこの街の人たちを助ける番や」

「『ウチ等』って?」

 ダンが首を傾げると、メグが腕を突き上げた。


「海の一族は、受けた恩は忘れへん!!」


「「「おおおおおおおおっっっ!!!」」」

 

 海の中から、大勢の人が出現する。上半身を波の上に押し上げたその人たちは、皆マーメイドたちだった。

 男性もいれば女性もいる。海の一族だ。


「す、すごい!」

 ダンが呆然としていると、急に小舟の揺れが収まり、波の上を滑るように海賊船のいる湾に向かって、すごい速度で走り始めた。

 周囲の船も同様で、鏃の隊形で突き進む。


「すごいよ!ありがとう!」

 ダンがメグに言う。すると、船縁から1人のマーメイドの男性が顔を出す。美しく整った顔に、ちょっと不釣り合いな青い髭を生やしている。

「礼を言うんはこちらですねん。娘を助けてくれて、ありがとう、ダン君」

 反対側から、メグによく似た女性が顔を出す。一目で分かる。メグの母親だ。

「キスも済ませた娘の未来の旦那様やもん。助けなあかんでしょう~?」 

「キ、キス?」

 ダンが溺れた時の人工呼吸の事だと思い至る。

「あ、あれは」

 「違う」と言いたかったが、その前に、メグが満足そうに笑う。

「せやで~。ダンには色々責任とって貰わんといけんからな~」

 クスクス笑って不穏なことを言う。

『僕からしたわけじゃない』

 と思いはしたが、今はメグが生きていて、元気になったのが嬉しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る