第9話  罪と山車 6

「『僕たち』ってことは、やっぱり最初から俺の事は戦力として見ていたんだな?」

 倉庫の中から、エドが出て来ると、ニヤリと笑う。

「もちろん、当てにさせて貰うつもりだったさ」

 ダンもニヤリと笑う。

「当てにさせてやろう!」

「じゃあ、早速荷車部分を作ろう」

「おし!指示してくれたら、ガンガン木材を切るぞ!」

 エドは一度ダンと一緒に車を作っている。だから、何となく手順は分かっている。

 図面はダンの頭の中で完璧に出来上がっている。


「車輪は山車よりもかなり小さいけど、そもそもの性能が段違いに良いので、全く問題ない」

「即席だから、本当に荷車になる。装飾は省いて、形だけ作ろう」

「問題はシャフトだ。丈夫な鉄の棒が必要だ」

 ダンはブツブツ言いながらも、素早く木材に印を付けていく。

 クギをほとんど使わずに木を組んでいく形だ。急いで完成させなければいけないので、それ程複雑な形の加工は出来ない。だから、最小限のクギは使用せざるを得ない。

 荷台の上には、装飾を支える土台も作らなければいけない。だが、今回はそれは省略する。

 エドは指示された木材を次々切っていく。

「お待たせ!きっとこれがいるだろうって、父ちゃんが作ってくれたよ」

 ネルケが鉄の棒を2本持ってやって来た。

「ネルケ!ありがとう!・・・・・・って、何でシャフトを?」

 ダンは頼んでいない。それに、車輪に合わせてみると、太さはピッタリだった。

「ドワーフを舐めないでよね。メグの車輪を見れば、父ちゃんなら太さを覚えていて合わせるのなんて、夕食でシチューを飲むくらい当たり前に出来るんだから!」

 ダンは感心する。

「長さ調節や、車輪への取り付けは、あたしでも出来るから、任せてよ!」

「ありがとう!!」

 2人の存在が心強かった。

「午後にはブリュックと、あと足手まといかも知れないけどジンジャーも来るからな!こき使ってやってくれ!」

 エドが明るい声で言って笑う。

「分かったよ!ちょっと出かけてくるけど、任せても良いかな?」

 ダンが言うと、2人とも頷く。

「分かってる。行ってこい!」

 


 ダンは、パインの店に走る。

 勢いよく魔具店のドアを開けると、そこには普段と変わらないパインがカウンター奥の椅子に座っていた。

「ダン。どうした?」

 何となく、いなくなっているような気がしていたダンは、パインの姿を見て、ホッとため息を付く。

「パイン。昨日の火事で、祭りで使う山車が燃えちゃったんだ。だから、僕が作り直さなきゃいけないんだよ」

「む?」

 昨日の火事が原因となれば、パインも聞き捨てならない。

「それで、一つだけお願いがあるんだ」

「一つだと?一つと言わず何でも手伝ってやる」

 確かに、パインが手を貸してくれたなら、きっと、山車なんてあっという間に完成する。しかもすごいクオリティーで。

 だが、そうはいかない。これはダンの責任なのだ。

「ギイを貸して欲しいんだ」





 倉庫に戻ったダンは、マントの着いたショルダーアーマーを丸ごと借りてきていた。ショルダーアーマーは左右で一揃いになっていて、分離は出来ないそうだ。

 だから、ギイだけでは無く、アイも一緒にいる事になる。

「それ、何するの?」

 戻ってきたダンが持っている物を見て、ネルケが言う。

 ネルケも力があり、おまけにエドより遥かに器用なので、作業ははかどっているようだ。

「ギイに炎の形になって貰って、張り子の土台になってもらうんだ。紙を貼り付けて乾いたら、ギイには元に戻って貰う。そうする事で、紙だけの張り子の出来上がりだよ」

 ダンが説明する。

「確かにそれなら、一番のネックになっている竹を編んで形を作る手間も、技術も必要ないな。子どもだけでも十分出来る」

 エドが納得する。

「いや。ダメだよ。紙の強度だけじゃ、形を保てなくて、すぐにつぶれちゃうよ」

 物作りが得意なドワーフであるネルケが問題点にすぐに気付く。

「・・・・・・そっか」

 ダンはそこまで考えられてはいなかった。しかも炎の中心部分には、虎の張り子を置かなければならないのだ。当然、土台は作るが、揺れた拍子に潰れかねない。

「骨組みになる所に、集中して紙を貼るとか、糊を厚くするとかしたらどうだろう?」

 ダンの提案に、ネルケはすぐに首を振る。

「それじゃあ、結局重くなるから余計に壊れやすくなるよ」

「ギイに沿って、竹を編んだら?」

 エドの提案に、2人で呻る。

「それだと、結局時間が掛かるし、そもそも竹は入手出来ないんだ」

 

 話しながらも、荷車作りの手は休められない。

 考えながら手を動かし、思いついたら提案する。

 いくつもの案が浮かんでは採用されず、次第に台車が完成に向かって行く。

 昼前には、足の豆亭の従業員1人が手伝いに来てくれた。元々大工の仕事を手伝っていたそうで、子どもたちより遥かに的確に作業してくれたので、ダンが取り入れた加工も施して、思ったよりも早くに荷車は完成した。



「それじゃあ、午後からは張り子作業だ」

「おう!メシ食ったら、ブリュックもジンジャーも手伝いに来てくれるからな!」

 エドはそう言って家に帰っていった。

「結局解決策は見つからなかったね・・・・・・」

 ネルケの言葉に、ダンは頷く。

「カチカチに固まって、しかも軽い糊とかあれば、糊自体が支柱になってくれるんだけどな。主要な部分だけでも、それで固めれば、作業も早いし強度も出るのに」

 そんな物はないと知りながら、ダンは思わず口にする。

「あるで~」

 不意に物置の入り口から声が掛かり、ダンもネルケも驚く。 そこには、ヨチヨチと短い魚のヒレのような足で歩いてくるメグがいた。

「何の事か、さっぱり分からんけど、今ダンが言ったモンならあるで~」

 メグはあっさりとそう言う。

「メグ?!それ本当?」

 ダンがメグに駈け寄る。

「お昼ご飯だから呼びに来たんやで~」

 メグは頷きながら、本来の用件を伝える。

「うん。ありがとう。それよりも今の話し!!」

「慌てんでも、なくならんよ~」

 メグがニコニコしながら手を振る。

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