第9話  罪と山車 5

「・・・・・・あの」

 ダンが口を開く。

「それでしたら、僕に任せて貰えませんか?責任を取りたいし、何とか出来るかも知れないので・・・・・・」

 まだ、張り子の手伝いしかしていない子どもであるダンの言葉に、大人たちが不審げな視線を向ける。

「あのよ。一応これは天界の神に捧げる神事だ。ズルがあっちゃいけねぇんだよ」

 つまり、魔法の使用は、ズルになると言いたいのだろう。

「大方、坊主は、あの魔女に手伝って貰おうとか思っているんだろうが、あの店は、まだ、赤地区でも緑地区でも無いんだ。手伝わせる訳にはいかねぇ」

 確かに、ずっと廃屋だったあの場所は、地区的に、どこにも属していない。


 だが、ダンは首を振って答える。

「いいえ。僕はパインの手を借りるつもりはありません。ただ、幸いな事に、僕は台車作りが得意ですし、ちゃんと案も考えています。皆さんの手を煩わせずに、祭りまでに何とかして見せますから、お願いします!」

 ダンは深く頭を下げて懇願した。

「・・・・・・場所はどうする?」

 誰かの疑問には、ルッツが答えた。

「それなら、ウチの倉庫を使ってくれ」

 そう言ったのは、足の豆亭の主人だった。

「宿屋の倉庫はでけぇからな」

 元冒険者の主人の眼光は鋭い。さらに、普段は滅多に口を利かない無愛想な男の発言である。周囲の人々は反対など口に出来なくなる。


「竹の材料は燃えちまったぞ?地区予算としても、もう一度購入するのは厳しい。それに、品薄だから、入手も難しい」

「竹は必要ありません。ただ、紙と糊だけは用意して貰いたいのですが・・・・・・」

 ダンが言うと、持ち回りで祭り担当になっている八百屋の主人が明るい声で言う。

「紙と糊なら、虎作りの方でかなり余っているから、大丈夫だよ」

「・・・・・・あんた、買いすぎたって青くなってたよな」

 誰かの指摘に、その場の空気が少し明るくなる。

「ハハハ。まあ、何が幸いするか分からないものだよねぇ~」


 その後も、少し話し合った後、赤地区の大人たちは、自分の家に帰って行った。

「ダン。本当に大丈夫なのかい?」

 父親は、少し心配そうにダンの目をのぞき込む。

 ダンは小さく頷いた。だが、実はそれ程自信がある訳では無い。

 ただ、ダンは魔法道具について調べて来た中で、魔法道具と、魔法は、根本的には違う物だと言う事を知っていた。

 つまり、魔法道具の使用自体は、山車を作る方法としては違反では無いのだ。詭弁かも知れないが、この際それを利用しようと思っている。

 本当はパインには手伝って貰うつもりだったが、赤地区に属していないと言われれば、それはどうする事も出来ない。

 だから、せめて、ネルケやエド、ブリュックには手伝ってもらえればと思っている。

 それ以上は望む事は出来ないが、何とか間に合わせてみせなければいけない。

「父さん。今週は学校を休ませて貰ってもいいかな?」

 お金を出して貰って学校に通わせて貰っているのだ。それを休むなど、もの凄く申し訳ない。

 だが、父親は静かに頷いた。

「本来は叱るべき事だろうが、今のお前は、しっかりと自分の責任に向き合っている。それを学ぶ事が出来たのなら、それは学校を休むに足る学びだと思う。存分にやりなさい」

「ありがとう!」

 ダンの明るい返事に、父親はしかつめらしい顔をして付け加える。

「ただし、祭りが終わったら、休み分を取り返すぐらい勉強をがんばりなさい」




 ダンは、父と一緒に家に帰る。

 家では、朝の仕込みを母とメグがやっていた。

 ダンは、メグの側に行くと、目線を合わせる為に片ひざを付く。

「メグ。すごく申し訳ないんだけど、その車輪を夏祭りまで貸してくれないかな?」

 メグの乗る台車を支える、魔法道具の車輪がどうしても必要だった。だが、これが無いと、メグは今みたいに陸上を楽に動く事が出来なくなる。

「ん~。ええよ」

 メグはあっさりと答える。

「いいの?」

「ええも何も、これは元々ダンがウチに貸してくれたもんやで~。ウチはしっぽの革当てがあればヨチヨチ歩けるから平気や~。ヨチヨチ歩くんのも『かわいい』て言われるんやで~」

 メグが店を手伝ってくれた時、メグの可愛らしさを見る為に客足が延びたそうだ。まだ2日なのに、すっかり看板娘のようだ。

「ありがとう」





 ダンは、メグから貰った台車に、もう一つの車輪と他の材料や、工具を乗せて、裏道となる川沿い通りから足の豆亭の倉庫に運ぶ。

「ダン。準備しておいたよ!」

 一人娘であるエリザがダンを出迎える。

「ウチの倉庫の一つは、元々あんまり使っていなかったから、自由に使って。ただ隣が馬小屋だから、ちょっと匂うよ」

 エリザはそう言うが、馬小屋はいつも綺麗に掃除しているので、ほとんど匂わない。

 匂うとしたら、あまり手入れされていない旅人の馬が泊まった時だ。

「暇な時間には、ウチのに手伝わせるよ」

 エリザが笑う。足の豆亭には2人の従業員がいる。だが、これから祭りが近くなると、多分客が増えて宿屋の足の豆亭に、暇な時間など出来ないのではないかと思われる。

「ありがとう。でも、出来るだけ僕たちでがんばるから、エリザたちは無理しないで」

 ダンが言うと、エリザは曖昧な笑顔を見せて宿に戻っていった。

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