第9話  罪と山車 3

「ありがとうございます、ウテナ様。それとご迷惑お掛けしました」

 ダンが両親と共に進み出た。

「僕の失敗で火事を起こしてしまったんです。ちゃんと話して来ます」

 ダンは、助け船を出してくれた友達や、大人たちにも申し訳なさそうに頭を下げる。

「皆さん。本当にごめんなさい」

「偉い、偉いね~。それでダン君。出来れば君のお友達のあの子も一緒に来て貰いたいんだけどねぇ~」

 タラシがわざとらしく拍手しながら言う。

 ダンは小さく頷いた。

「話してみます」

 ダンは、そうする事で、パインがほんの9歳の女の子であると知って貰えれば、それで良かった。

 罪は完全に自分あるのだ。


「わかった。一緒に行く。だが、ダンに何かあれば、私はこの街をメチャクチャにするからな」

 パインがタラシを睨みつけて言う。これにはタラシも怯んだ。ウテナ神は、他の神と違ってこれまであまり無茶な事はしてこなかった信用があったが、この三つ目の少女は得体が知れない。さらに、その力の一端も垣間見たのだ。

「危害は加えないですよ~。隊長にもしっかり言い含めますから~」

 そして、ダンとパインはタラシと、ゴリラ隊長を背負ったおむすびに連れられて、兵士の詰め所に連行されて行った。




「僕がうっかりして、パインの魔法道具をいじったから火事になったんです」

「私が説明も無く危険な物をダンに渡したのがいけない。それに、ダンに素材集めを依頼して、私用に作った魔法道具なのだ」

 詰め所で、ダンとパインはずっとこんな感じだった。

 治療を受けて、気がついたゴリラ隊長が2人を尋問している。

 ゴリラ隊長には、広場での騒動前後の記憶がまるでない。記憶が飛ぶほどの衝撃を受けたと言うのに、ゴリラ隊長は遠慮の無い尋問をしている。

「おい、ふざけるなよ貴様等!2人まとめて牢屋にぶち込んでも良いんだぞ!」

 厳つい顔を、更に厳つくして怒鳴る。

「事実だ!」

「貴様殺してやろうか?!」

 ダンが主張し、パインの目が赤く光る。

「やややや、やばいやばいですって、隊長!話しなら僕が訊きますから!」

 タラシが何度目かの仲裁に入る。

「しかし、貴様は勤務時間外だ。部下に不当な労働を強いるつもりは無い」

 ゴリラ隊長はタラシを睨む。

「大体、貴様はいつも時間外の勤務をしたがらなかっただろうが?!」

「うう~。そうなんですが、隊長は記憶が無いし、直接前後関係を知って居る僕が適任なのではと思って~」

 タラシが必死に説得するが、ゴリラ隊長は融通が訊かない。

「貴様は帰れ。こんなガキ共、俺1人で充分だ。牢に放り込んでたっぷりお灸を据えてやる」

 ゴリラ隊長の言葉に、パインの殺気が高まる。

『この人、そんな子どもに瞬殺されたのに、覚えてないって残念すぎる~』

 タラシは苦悩して頭を抱える。


「おい!貴様!一体何をしておるのだ!!」

 悲鳴のような、神経質そうな叫びが詰め所に響く。

「この方を、こんな粗雑に扱って許されると思っているのか?!」

 大量の汗(冷や汗?)をかきながら部屋に飛び込んできたのは、この街の市長、ファビアンである。

 背が低く、体もガリガリで、白っぽい金髪はの生え際は頭頂部に近い。年は40程だが、それよりも年をとって見える。

「今すぐ解放して差し上げろ!!」

 ファビアン市長は、半ばヒステリックな叫び声を上げる。

 だが、パインを心配していると言うよりは、恐れているといった方が良いだろう。

「しかし、市長。この者たちが失火したのは事実です」

 ゴリラ隊長が不満そうに呻る。

「しかしも案山子もあるか!!命令だ!今すぐ解放して差し上げるんだ!!」

 叫ぶファビアン市長に、タラシが腰を低くしながら尋ねる。

「それはもちろん解放しますが、一体彼女は何者なんですか?」

「おい、アウラ!勝手に決めるな!街に損害が出ているんだぞ!」

 ゴリラ隊長がすぐに反論する。

「隊長。そうは言っても市長からの命令ですから逆らえません。それに、損害と言っても訴え出ている人もいないし、そもそも2人とも子どもですから、長時間の不当な拘束はマズいですってば」

 タラシの言う事は正論だった。

「むう。しかし、この魔女は子どもかどうか、よく分からんぞ」

 ゴリラ隊長は、思った事をすぐに口に出してしまう。

「私は大人だ!」

 パインも、余計な事を言って胸を張る。

「パイン。9歳はまだ子どもなんだよ」

 ダンが小声でパインに耳打ちをする。


 そんなやり取りに委細構わず、ファビアン市長が叫ぶ。

「この方は歌う旅団のメンバーだ!この国を救った英雄のお仲間であり、ヘレネ市にとって大恩人にあたる方だ。少なくとも、クララー氏、マイネー氏に私が任されておる!だから被害額なら私が支払う!」

 ついでに、ファビアン市長は、パインの機嫌を損ねると、「闘神王グラーダ三世以外には止められない」と言い含められていた。

 さらには、この国アインザークの国王からも、パインの生活の保障を厳命されていた。

 つまりは、マダハルト・パインは、アインザーク国の第一級の賓客扱いだったのだ。

 アインザーク国は、最強の冒険者パーティー「歌う旅団」に、それ程大きな借りがあったのである。



「ダンも一緒に帰るからな」

 パインがダンの手を握りしめて言う。

「はい!もちろんどうぞ!気を付けてお帰り下さい!」

 納得しきれない様子のゴリラ隊長だったが、タラシの言う通り、市長は上司であり、その命令に逆らう事など出来ない。

「貴様等もお見送りせんか!!」

 フォビアン市長に怒鳴られて、ゴリラ隊長とタラシは2人を詰め所の入り口まで見送った。

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