第9話 罪と山車 2
「待って、パイン!僕は大丈夫だから、パインは何もしないで!!悪いのは僕だ!!パインはちっとも悪くない!!」
ダンは人々の方、ウテナの方を見て叫ぶ。
「皆さん!今回の火事は、僕がかってにパインの魔法道具をいじってしまった事が原因です!本当にごめんなさい!だからパインは少しも悪くありません。この子は、こう見えても本当はまだ9歳の女の子です!学校にも行ってないから、世間知らずなだけなんです!」
ダンは涙を流して訴える。
「魔具師の才能があるからって、市長始め、大人の都合で学校に行く事も、遊ぶ事も許されず魔具店をすることになっただけなんです!」
ダンの叫びに、不審がる大人、耳を貸そうとしない大人が多い中、少数だが驚きの表情を浮かべる人たちもいた。
「そうだ!パインはちっとも魔女なんかじゃ無い!お菓子を食ってニコニコする小っさい女の子だ!!!」
ダンよりももっと大きな声で叫んだのはエドだった。
「そうよ!私たちの友達だもん!」
ネルケも飛び出してくる。
「見た目に惑わされて、小さな女の子に怯えて迫害して、いい大人が恥ずかしくないのか?!」
レオンハルトが、初めて見せる激しい怒りを露わに、声を荒らげる。
ブリュックも、アンナマリーも人々とパインの間に割って入る。
「ウテナ様!僕からもお願いします!パインさんを助けて下さい!」
気弱なリオも飛び出してきて、必死に訴えた。
それには、ウテナも冒険者たちも戸惑う。
だが、子どもたちの声も、恐怖し、興奮した民衆には届かない。
「ふざけるな!子どもを魔法で操っているだけだ!」
「魔女の常套手段じゃないか!!」
その言葉には、冒険者の魔法使いはもちろんだが、冒険者たちも、皆ムッとする。
「おい、あんたら!魔法使いに対して敬意を払えよ!」
1人の戦士が民衆に怒鳴る。
「魔具師となればなおの事だわ!魔具師がどれだけ貴重な才能なのか知らないの!?」
パインに対する戦意を失った魔法使いの女性が呆れたように言い放つ。
「子どもたちだけでは無い!私たちも、その魔具師の少女を擁護する!」
進み出てきたのは、ダンの両親や、エド、ネルケたちの両親。レオンハルトの姉テレーゼと父。アンナマリーの父親。リオの姉エミと、神官長のリリアリー。
それと、菓子屋「オードルジェ」のメルツァー夫妻が、2人の赤ん坊を抱いて出てくる。足の豆亭のエリザ。八百屋の主人。
そして、肉屋のルッツだ。
ダンの父親が、民衆の前に進み出て、深々と頭を下げる。
「この度の騒動は、私の息子が原因だと言う事で、皆様には、ご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ありません」
次に、ダンの父親は、ダンの肩をグイッと掴み寄せる。
「息子は兵士の方にお預けし、説明と責任を果たさせます。ですが、息子たちの言う通り、この魔具師の少女には何の罪もありません。この子は火事から身を挺して造船所を守ってくれました。その姿を見た方は少なくないのでは無いでしょうか?おかげで、造船所には被害はありません」
ダンの父親に続けて、ルッツが叫ぶ。
「俺たちは、この子の店の近所に住んでいる。だから分かるが、この子は・・・・・・言っちゃぁなんだが、見た目は怖いが、接してみれば、本当にただの幼い女の子だ。ただ、魔具師の才能があるだけのな!」
オードルジェのマッシュが、まだ小さな赤ん坊を抱いて、その子を見せるようにしながら言う。
「この夏、数年ぶりに『虚咳病』が流行ったのは皆さん知って居ますね?私の娘も、それで死にかけました。ですが、その魔具師のお嬢さんに特効薬を作って貰って助かりました。その時の薬は、病院に寄付され、そのおかげで助かった子ども、人が大勢いるはずです。無償で薬を提供してくれたその子を責めるなんて、アインザーク人として恥ずかしくはありませんか?!」
マッシュの言葉は、強烈に人々の胸に突き刺さる。
今年流行した虚咳病は、これまでに無かった特効薬のおかげで、死者は1人も出なかった。大人で苦しんだ人も、あっという間に治る薬には助けられたはずである。
だが、それでも、人々は不安げに宙に浮いているパインの事を見て、ザワザワと落ち着かない。
「守るに値しない民衆なら、俺たちはこの場から退散させて貰う」
いかにも強そうな大きな体の戦士が仲間に合図すると、冒険者たちが呆れた様子で退散し始める。
「我らの人助けは、責任ではあるが、強制的な義務ではない。守りたい者は自分で決める」
「ウテナ様。どうかお手柔らかに」
女魔法使いが、ウテナ神にお辞儀をして去って行く。
それを受けて、ウテナは苦笑交じりのため息を付く。
「そうね。私も第一級神。『気まぐれな神』の筆頭だし、これ以上ゴチャゴチャ言うようなら、『気まぐれ』でこの町に天罰を下しちゃおうかしら」
笑顔で言うが、神の気まぐれで、直接にせよ、間接的にせよ、滅ぼされた街や国など、枚挙にいとまが無い。
これにより、人々は怖ず怖ずと退散せざるを得なくなった。
「いやぁ、ウテナ様。ウチの隊長がご迷惑お掛けしちゃって、申し訳ありませんでした」
騒動が一段落付いた所で、タラシがウテナにペコペコ頭を下げる。おむすびが気絶しているゴリラ隊長を背負っている。
「全くです!治安を守る人が、治安を乱してどうするんですか?」
ウテナはかなりゴリラ隊長に立腹しているようだった。
「悪気があっての事では無いんです。ただ、本当に頑固で真面目で、融通が効かないんです」
タラシは、それでも上司のフォローを必死でする。そして、細い目を少し開けて、地面にゆっくり降りてきたパインをチラリと見る。
「ただ、仕事としてはダン君や、そこのお嬢さんに話しを訊かなければいけないんですよ~」
タラシとしても、そこは主張しなければいけないようだった。
「私が『預かる』と言ったのにですか?」
ウテナが再び眉尻を上げる。
「い、いや。それは僕も出来たらウテナ様にお任せしちゃいたいな~と思ってますよ~。あくまでも形式です。決して悪いようにはしませんから」
ヘコヘコしているが、第一級神に対して、一応主張する事は主張するのだから、タラシも中々の胆力の持ち主と言える。
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