第8話 恐怖の魔女 2
それから、みんなはそれぞれの素材集めに向かった。
ダンは、バケツを4つと、大きなシャベルを持って行く。
ネルケは、小さなリュックを持って、機嫌良くダンの横を歩く。
「結構上の方に来ているけど、どこまで行くの?それと、そろそろ休憩しよっか?」
ネルケは、ダンを気遣って声を掛ける。
「う~ん。そうだね。ちょっと休憩・・・・・・」
ダンは息を切らせている。
「あんまり遅くなりたくないから、ちょっと無理したかな・・・・・・」
思わず座り込むダンに、ネルケはリュックから水筒を出して渡す。
「ああ、ありがとう。ネルケは良いお嫁さんになるよ」
ダンがそう言うと、ネルケは健康的な褐色の肌を朱に染めて笑う。
「うん!良いお嫁さんになるよ!」
リュックにはおやつとして、手作りのカップケーキを持ってきていた。これは、目的地に着いたら食べるつもりでいる。
「それで、どこに向かっているの?だんだん建物も少なくなってきたんだけど」
ネルケは周囲を見回しながら尋ねる。あまりネルケが来ない辺りだ。
「あれ?言ってなかったっけ?」
まだ息が整わないままのダンが、目を閉じて息を大きく吸いながら告げる。
「墓場だよ」
「ええっっ??!!」
ネルケの健康的な褐色の肌が、見る見る青ざめていく。
「な、なんで墓場なの?!」
「墓場の土が必要なんだって」
「なんで墓場限定なの?!」
「それは僕も分からないよ」
ネルケは悲鳴を上げそうになる。
「あたし、エドを手伝いに行く!!」
ネルケは逃げだそうとする。
「ああ。でも、それはオススメしないよ」
ダンは軽く肩を竦める。
「なんでよ?!」
「エドは、下水の汚物を集めて貰っているから」
「ひいぃぃぃっっ!!」
ネルケは追い込まれてしまった。
「だからさ。暗くなる前に墓場に着きたいんだよね。ネルケが怖がるから」
ネルケは激しく頷く。
「行こう!行こう!休んでいないで早く行こう!!」
「ちょっ、ちょっと!?」
ネルケは、まだ座り込んでいるダンの手を引いて立たせると、背中を押して歩かせた。
全員が素材を集め終わった頃には、夕方になっていた。
エドは、体中臭くなって帰ってきて、集めてこいと言ったパインにすら悪し様に言われて、さっさと自宅に帰っていった。無論、帰ってからも、母親に叱られていた。
パインは、すごく嫌そうにしながらも、汚物を額の目で吸い込んでストックして、他の素材が来るのを待っていた。
ブリュックの素材が届き、続いて、ネルケがバケツ一杯の土を4つ抱えてやって来た。
最後に、ネルケから素材として、珊瑚のかけらをメグから受け取って持ってきた。
あと一つの素材は、夜に手に入れる物で、それについては、既にダンは打ち合わせを済ませていた。
夕食後に、ダンはいつものようにパンを配りに行く。
足の豆亭に行くと、いつものようにタラシがカウンターで酒を飲んでいた。
「エリザ。パン持ってきたよ」
カウンターで給仕をしているエリザにダンが声を掛ける。
「ああ。ありがと、ダン。ちょっと話そうよ」
エリザがウインクしてダンを招く。
「いいな~。ダン君はエリザちゃんに親しくして貰って~」
タラシがニヤニヤ笑いながら、元々細い目を、更に細める。
ダンは、そんなタラシをジロリと睨む。
「聞いてよエリザ!この人ひどいんだ!僕たちを騙して医療費を支払わせようとしたんだ!」
ダンが告げ口をしたので、タラシは思わずむせ込む。
「なんだって?子どもを騙したりしたって言うの?」
エリザもジロリとタラシを睨む。焦ったタラシは、残り少なくなっていた酒を一気に飲み干す。
すかさずエリザが、かなり薄めた酒を入れたグラスをタラシの前に置く。
「それで、どうしてこの人、子どもから金を巻き上げるようなことしたの?」
エリザがタラシを追い込む。
「いやいや!金を巻き上げるような事してませんって!」
酒をグビリと一口飲むと、タラシは必死に言い訳を始める。
「この素晴らしいお子さんが、怪我をしたマーメイドを助けたので、我々衛士が、そのマーメードを治療設備のある冒険者ギルドに運搬したまでのことです!」
「あら?それは御苦労様」
エリザの笑顔に、タラシはグビリグビリと酒を飲む。
「でも、なんで兵士の詰め所に行かなかったの?そこなら治療費はタダでしょ?それに、ギルドに預けたままで、治療費も払わなかったじゃん!」
「それはひどいね!」
2人が責めるので、タラシはまた酒をグビリと飲む。好きな女の人を前にピンチになっているのでやたらのどが渇く。酒の味もよく分からない。
「詰め所だと、少し距離があって、あの子には早く治療してあげた方が良いと思ったから、取り敢えずギルドにって思ってね。それに隊長が支払いをしてくれると思ったんですよ」
「あれ?あんたは運んでいないの?働いてないじゃない!」
「ぼぼぼ、僕はこのお子さんたちを家まで安全に帰す任務をしてました!」
「あら、感心」
タラシはグラスの酒を一気に飲み干す。すかさず、またまた薄い酒をタラシの前に置く。
「でも、保護責任者も僕になったんだ!詰め所に連れて行ったら、自分が世話したり、お金掛かるからって、放置したんだ!」
「あら?それは聞き捨てならないわね!」
タラシはグビグビ酒を飲み、のどを潤し、熱くなる頬を冷まそうとする。
「僕たち衛士は安月給なんだよ~」
つい本音が口をつく。
「じゃあ、なんでいつもここでお酒飲めるのさ!?」
ダンの正論である。
「大人はねぇ、これが楽しみなんですよ!それに飲んでる酒も安酒なんだ!」
泣きそうな顔でタラシが言う。すかさずエリザが睨み付ける。
「安酒ですって?!そんなにあたしの酒がまずいなら来なくって良いんだからね!」
自分の失言に気づいて、タラシの動揺は最高潮に達する。
グラスの酒を一気に飲み干す。すかさず、新しい酒がタラシの前に置かれる。
「そんな事言ってません!エリザちゃんのお酒は最高においしいですよ!おいしいのに良心的な値段だって言ってるんです!」
それを聞いたエリザは、急に頬を赤らめて、うっとりしたような目で、タラシを見つめる。指をクネクネさせて、カウンターの上を滑らせる。
「あら。それはとっても嬉しいわ~。そんなにあたしのついだお酒がおいしいの?」
今まで自分に見せたこともないエリザの態度に、今度は違う意味で動揺しながらタラシはのどを鳴らす。
「は、はい!それは勿論!」
そう言って、ほとんど水に近いくらい薄められている酒を、一気に飲み干して、タラシはニヤリと笑う。薄められていることに全く気づいていない。
すかさず、エリザはニッコリ笑って、次のグラスをタラシの前に置いた。
「それは良かった。実はいつも来てくれているパウルさん(タラシの名前)のために、今日はとっても高いお酒を飲んで貰っていたの。アルコール度の高~い奴」
エリザが高級な酒として有名な「ブラックリバー」の「エンシャント」の瓶を見せた。
「エンシャント」のラベルを見たタラシは、飲みかけていた酒を吹き出す。
「は?!そ、そんな~・・・・・・」
そう言うと、タラシはカウンターに突っ伏して動かなくなる。
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