第7話 海の子 4
パインが言うと、みんなカウンターの周りに集まる。カウンターテーブルの上には、みんなが集めてきた素材が並べられていた。
セワニナの幼虫。瓶にいっぱい。
マムシ。1匹。
竈の煤。バケツ2杯。
貝殻。バケツ5杯。
アルコール度の高い酒。瓶一本。
シトメイワナ。1尾。
テレーゼの黄緑色の髪の毛。一房。
キンモクセイの花。瓶にいっぱい。
「石は既に吸い込んでいる」
パインが言う。
「な、何が始まるんだ?!」
ルッツが呻く。
「魔法道具作成だよ。僕とエドは、作るところ見ているけど、みんなは見たことが無いから、せっかくだから見て貰おうと思ってさ。多分ビックリするよ。パインは特別な天才なんだから」
ダンが言う。パインは満足げに胸を張る。
「あと、ルッツ。パインは特別だけど、実は9歳の女の子なんだ。そこの所、ちゃんと理解しておいてね」
ダンが念を押す。
「え?!いや?・・・・・・ってか、マジでか?!」
戸惑うルッツを無視して、パインが額の目の封印を解く。
左のショルダーアーマーからギイが伸びて、床に付いてパインを持ち上げる。
ギイを見て、ルッツはまた腰が引ける。だが、悲鳴は飲み込んだ。
パインの目が赤く輝き、光線をカウンターの上の素材に当てる。すると、例の如く、素材が伸びて、螺旋を描きながら額の瞳に吸い込まれて行った。
「うわあああ~~~~!」
「すごい!」
「きれい~~!」
感嘆の声が上がる。
次に完成した物が飛び出してくるはずだが、今回はそうはならなかった。
「あと、足りない素材はこっちで用意してある」
パインが呟く。
「え?」
それはダンも初耳だった。
パインの右肩が盛り上がり、黒ヒョウのアイが両手に革袋を持って現れる。
アイは、色んな物を、ショルダーアーマーの中に持っているようだ。
パインは革袋を受け取ると、ドチャリと鈍く重い音を立ててカウンターに置く。
「この中にあったはずだ・・・・・・」
そう言うと、パインは無造作に袋の中身をカウンターの上にぶちまける。
入っていたのは、金貨、銀貨がたっぷりだ。
子どもたちも、ルッツも目玉が飛び出そうになる。
「こ、こんな大金、初めて見た・・・・・・」
エドの声が震えている。
だが、パインは一切構わずに、金貨、銀貨をかき分ける。そして、目当ての硬貨を見つけたようだ。
それは赤く輝く金属の硬貨だ。
「ええええええ!!!???」
今度は、ダンは大声で叫んだ。
ルッツも目が本当に飛び出そうになっている。
その硬貨は間違いなく超希少金属「オリハルコン」だ。
「紅金」と呼ばれる、赤っぽい金属は、魔法道具として最高級の素材にもなる、精神感応金属だ。
硬くて、柔らかくて、伸びて、縮む。
錆びず、自己修復出来る金属で、産出量がきわめて少なく、
その価値は金貨と同じ体積(大きさ、重さは状況によって変容するため、重さで価値は付けられない)で、時価だが、おおよそ200万ペルナーとなる。これは金貨の1000倍の価値である。
オリハルコンは、魔具師が魔法道具として利用すると、大きさ、重さの変化はもちろんだが、その体積さえも持ち手の意志で一時的に変化させることが出来るようになる。
冒険者たちは、このオリハルコン金貨の1割程度の大きさの玉を求めて、ダンジョン攻略に命を賭けている。
よく見ると、そんな紅金貨が、他にも数枚金貨、銀貨に混じっているのが見えた。
パインは、その紅金貨を額の前に持って行く。
「ちょっと、ちょっと待って、パイン!」
ダンが叫んだ。
「ん?どうした?」
パインは首を傾げる。
「
パインは怪訝そうな表情を浮かべる。
「言っただろう?足りない素材は用意があると」
理解できていないダンを哀れむような表情をしている。
「いやいやいやいやいや!!」
ダンと一緒にルッツが叫ぶ。
「あんた、それがどれだけ高いか知っているのか?!」
「・・・・・・」
パインが眉をひそめる。
「む?・・・・・・貴様は誰だ?」
「今頃?!」
ルッツがショックを受ける。
「彼はルッツだよ。一応依頼主だよ」
ダンが答えると、ルッツは絶叫する。
「ふざけんな!!依頼主じゃねぇよ!何も依頼してねぇし!オリハルコン持ち出すなんて、俺を借金で殺す気か?!」
ルッツは今にも泣き出しそうな顔だ。
「何かうるさいな・・・・・・」
不快そうにするパインの耳を、アイが両手で塞ぐ。
そして、2人を無視して紅金貨を額に持ち上げる。
「やめてくれ!やめてください!俺は何も欲しくない!頼んでいない!!」
ルッツが床に額をすりつけて懇願するが、赤い光と共に、紅金貨はパインの瞳に吸い込まれてしまった。
「パ、パイン・・・・・・。君はオリハルコンの値段を知っているのかい?」
ダンも床に膝を付きながら呟く。
他の子どもたちはポカンとしている。
「・・・・・・。重くて邪魔な物だ」
パインはそう言うと、机の上の大金に、まるで興味が無さそうに胸を張る。
ギイが集めて袋に入れ直している。
「一応、クララーがくれたから持っているだけだ」
ダンはがっくり力が抜ける。
そうだった。この子はお金の価値も、使い方も知らないし、どういうわけか、これだけは覚える気が無いようだ。そもそもの「概念」としてお金の存在を拒否しているようだ。
「お菓子の方が良い」
そう言ったパインの額から、赤い光が溢れて、何かが螺旋を描いて飛び出してきた。
やがて、形を整え始めた物は、40センチ四方の立方体で、表面には美しい規則的な模様が描かれている。一面の表面に、赤い宝石がはめ込まれていて、その側面には引き出せる円筒がついていた。
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