第7話 海の子 3
「じゃあ、リオの服に棒を通そう。これで担架が作れるよ」
ダンが指示して、直ぐに簡易的な担架が出来上がる。
「じゃあ、その子を乗せよう」
3人で力を合わせて、マーメイドの少女を担架に乗せる。
「さあ、それじゃあ、エドは前。僕とリオで後ろを持つよ。アンナはその子を励ましていて」
ダンが仕切ると、息を合わせて担架を持ち上げた。
エドはしっかりと持ち上げ、ダンとリオは、2人がかりでもフラフラしながらも、持ち上げる事が出来た。
「すげぇな!さすがはダンだ!」
エドが張り切って前を歩き出す。
「ゆっくり!ゆっくりね!」
ダンとリオは、転ばないように必死について行く。
マーメイドの少女は、痛みにうなっている。
「その子の名前は?」
ダンが、アンナマリーに尋ねる。
「ああ。そう言えば名前聞いていない!」
アンナマリーは叫んで、グッタリしている少女に尋ねる。
「あたしはアンナマリー!あなたのお名前は?!」
少女は唸りながらも、ニッコリ笑って答えた。
「う、うちはメグやで~~」
「よし、メグ!もうちょっとの辛抱だ!良くここまで頑張ったね!」
ダンが励ます。
「メグ!頑張れよ!」
エドも、リオも、アンナマリーも声をあげてメグを励ます。
ダンたちは、即席担架でメグを運びながら、丘を登り、灯台の前を過ぎて街に向かっての道を下り始めた。
太陽は、間もなく水平線に沈もうとしている。
空は赤と紫、そして、東の空は深い群青色に染まっている。
先導するのは、カンテラに明かりを灯したアンナマリーだ。 すぐにこの辺りは真っ暗になってしまうだろう。
すると、行く手からも明かりが見えた。
「ダーン!エドー!」
レオンハルトの声だ。
レオンハルトと共に、兵士3人も一緒にやって来ていた。
「いました!みんな一緒です!」
エルフのレオンハルトは、暗くても遠くても、はっきりダンたちを確認できたようだ。
「まったく人騒がせなガキ共だ!」
ゴリラ隊長が荒い声でがなる。
「おやおや。これはどうしたことだい?」
ダンたちの元にたどり着いて、まずタラシが頭を掻きながら言う。
「おい!貴様等!このマーメイドは何だ?!」
あくまでも高圧的に、ダンたちを睨みながらゴリラ隊長が言う。
「仲間とはぐれて、サメに襲われたそうです。怪我をしているので、病院に運ばないと」
ダンが説明する。
「ああ~。いや、これはね、多分病院じゃなくって、冒険者ギルドに連れて行った方がいいよ」
タラシが言う。ゴリラ隊長はタラシの言葉に首を傾げている。
「マーメイドの治療経験がある医者なんて、まずいないよ。だから、回復魔法を掛けて貰った方がいいはずだよ」
タラシがおむすびを呼ぶ。
相変わらず何も考えていないような顔で、おむすびはマーメードに近づくと、うっすら手を輝かせる。
「あいつ、レベル1だけど、回復魔法が使えるんだよ。応急処置だから、急いでギルドに運ぼう」
意外と冷静に的確に判断する事もそうだが、いつになく張り切っているタラシの様子に、ゴリラ隊長も、ダンたちも不思議に思う。
「あの人、姉さんにも声かけているから、ボクが頼んだら2人を説得して来てくれたんだ」
レオンハルトが小声でダンたちに言う。
ダンは納得したが、何だか面白くなかった。
「また貴様の面倒ごとか」
ゴリラ隊長は、ダンを睨み付ける。
「違うよ!ダンは人助けをしたんだから!」
アンナマリーが叫ぶ。
「まさか、マーメイドは人じゃないとか言わないでしょうね?!」
珍しくリオが声を
だが、ゴリラ隊長は真面目な顔して言う。
「バカを言うな!マーメイドだろうが、ドラゴニュートだろうが人は人だ!それよりも、めったにお目にかかれないマーメイドがいるところに小僧がいた事が気に掛かっているのだ!」
ゴリラ隊長は、差別主義者でも無ければ、人間至上主義者でもないようだ。
だが、ダン個人を厄介ごとの種とは見ているようだ。
ダンは、自分がこの子を見つけたわけじゃ無いし、この子を見つけたことで何かを企んでいるとしたら、それが何なのか教えて欲しいくらいだと思ったが、反論するのも無意味に思えた。
「それより、子どもたちの力じゃ、これ以上運ぶのは大変です。兵隊さんたちで運んでやってくれませんか?」
ダンが言うと、ゴリラ隊長は憮然とした様子で、エドから担架を奪う。
「当然だ!人々を守るのが我らの役目だからな!」
ダンとリオの代わりはおむすびがした。
そして、街への道を駆け足で急いだ。
「僕は君たちのお
タラシが笑う。
ダンたちはクスリと笑ってから、安堵のため息を付く。
街に帰ってきた時には、すっかり陽が沈んでいた。
タラシは律儀に、子どもたちを一軒一軒送り、親に何があったのか説明した。
最後にダンの家に行き、挨拶をして帰り際に「超過勤務手当~!」とスキップしていかなければ、中々感じが良かった。
だが、ダンにはまだやる事があったし、今日のメンバーにも、まだ見届けたいことがあった。なので、一度家に帰ると、みんな親に断ってからパインパイン魔具店に集まった。
ダンは、魔具店に行く前に、肉屋に行ってルッツを連れてくる。
「おい!随分遅かったけど、何があるってんだ?!」
首を傾げたまま、ルッツはダンの後を付いて魔具店にやって来た。
「おおおお・・・・・・。おいおい。いや、怖がっちゃいねえけど、マジで店に入るのか?こんな夜に?」
ルッツは明らかに尻込みしている。
「大丈夫だよ。さあ、行こう。みんな待っているから」
カランカランとベルを鳴らして、ダンは店に入る。
店の中には、エド、ブリュック、ネルケ、レオンハルト、リオ、アンナマリーがいた。
そして、店のカウンターには、パインが待っていた。
ルッツは、薄明かりの中のパインの迫力に、小さく悲鳴を上げる。
「では、始める」
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