第7話 海の子 2
『まあああっっってぇぇぇ~~~』
それでも女の声は遠ざかる。
少し離れて、余裕が出来たのか、リオの羽根にしがみついていたアンナマリーが、背後を振り返った。
「!!??」
アンナマリーがリオの羽根の付け根を強く引っ張った。
「止まって、リオ!!」
「ええええ???」
必死にドスドスと足を動かしていたリオは、言われて足を止める。
「お化けじゃ無いよ!!」
アンナマリーがそう言うので、リオは恐る恐る振り向く。
地面を這って追いかけてくる女は、びしょ濡れで、上半身は胸に下着のような物を身に着けているだけだ。そして、下半身は魚のようになっていた。
青い髪に、肘から手首に掛けてヒレがついている。
「まぁってぇ、なぁぁぁ~~~」
泣きそうな、弱々しい声で、顔に掛かった髪も振り払えないほど必死になって這ってくる。
「マ、マーメイド?!」
アンナマリーが驚く。
マーメイドは、海に住む
人権は認められたが、元々陸上生活をしない種族なので、ほとんど地上界と関わりが無い。
正確な数も、生活様式や習慣も分かっていない。
関わりと言えば、海の中で生産された物やマーメードでしか収穫出来ないようなものでの交易ぐらいで、陸上のどの国家にも属していない。
「ぼ、僕、マーメイド初めて見る」
希少種であるドラゴニュートのリオが呟く。
「バカ!あの子すごく弱っているよ!!」
アンナマリーはリオの背中から飛び降りて、マーメードに駆け寄っていく。
「あの子」と表現されたように、そのマーメイドはどう見ても子どもだった。だが、多分アンナマリーよりは年上だろう。
「大丈夫?!」
アンナマリーがマーメイドの少女に声を掛けると、マーメイドの少女は、ホッとしたような顔をして泣き出した。
「アンナ。この子、ひどい怪我をしています!」
マーメイドの少女は、上半身は人間で、肌の色も変わらない。
下半身はほぼ魚で、薄水色で、真珠のように輝く鱗を持っていた。
腰の辺りに短い足が、ほぼヒレの状態で付いている。
基本的には人間ベースなので、魚の下半身の部分は、大半が尻尾といえる。
その足の部分と、尻尾の部分に大きな傷が有り、血が流れている。
「うううう~~~。せっかく人に会えたのに、逃げるなんてひどいで~~~」
マーメイドの少女はグッタリしたまま泣く。
「これ、どうしたんですか?」
リオが問うと、マーメイドの少女は、泣きじゃくりながら答えた。
かいつまんで言えば、嵐で一族と完全にはぐれてしまい、海岸沿いを彷徨っているうちにサメの集団に襲われたそうだ。
何とか海岸から陸に上がって逃れたが、海にはまだサメはいるし、足を怪我して歩けなくて困っていたところ、リオとアンナマリーを見つけたので、必死になって這って来たと言う事だ。
話を聞く間にも、アンナマリーはスカートを脱いで、包帯代わりにする。
「とにかく、街に運んで病院に行こう!」
リオと、アンナマリーは、必死になってマーメイドの少女を抱え上げようとするが、一歩も歩かない内に3人してつぶれてしまう。
リオも非力だが、6歳のアンナマリーには、マーメイドの体重を持ち上げることなんか出来ない。
しばらく色々試したが、どうやっても上手く運べなかった。
マーメイドは尾の部分が長く太いので、子どもなのに、人間の大人ほどの体重がある。
少女も傷の痛みで悲鳴を上げる。
「あ、あたし、誰か助けを呼んでくる!!」
灯台に一度近づかなければいけないのは怖かったが、今はそれどころでは無い。アンナマリーは灯台に向かって走って行った。
アンナマリーが横手に灯台を見ながら、怯えつつ街に向かう道を下り始めた時、行く手からエドが走ってくるのに行き会った。
エドはアンナマリーに急かされて、丘の下にいるリオの所に急ぐ。
「うわ!!マジでマーメイドだ!」
エドも驚きを隠せない。
走って来たので、汗びっしょりだし、かなり息を切らせているにも関わらず、エドは直ぐにリオに指示を出す。
「俺が体を持つから、リオは尻尾だ!ダンや、大人たちも来るから、それまではとにかく頑張れ!」
エドのかけ声で、リオは踏ん張って尻尾を持ち上げた。
「あたしは?!」
アンナマリーがそう言うので、改めてアンナマリーを見ると、スカートを包帯にしているので、ズボンの様な下着姿である。
「アンナははしたないなぁ~」
エドがクスクス笑うと、アンナマリーが怒る。
「もう、エドのバカ!そんなだから女の子にモテないのよ!」
はしたなさで言えば、マーメイドの子は、胸に下着のような、面積の非常に少ない物を身に着けていて、下半身は腰に薄布があるだけで、ほぼほぼ全裸である。
リオはそう思ったが、口には出さなかった。特化人(スピニアン)は、服が煩わしい事も少なくない。リオ自身、両親とグレンネックに住んでいた時は、家ではほぼ全裸だった。
そのまま2人は、フラフラしながら、何とか丘を登り終えた。
そこへダンがやって来たが、これまたリオに劣らずフラフラな状態だった。
「ああ、よかった!リオもアンナも無事だったか・・・・・・」
そういうのがやっとで、座り込んでしまう。
「おい、ダン!手伝ってくれよ!」
エドの言葉に、ダンは状況の説明を視線で促す。
それを受けて、アンナマリーが説明する。
「ああ。それは大変だ」
ダンは顔を上げて、マーメイドの少女を見てから、みんなに指示を出す。
「リオ。僧衣を脱いで。エドは真っ直ぐな長い棒を探してきて。150センチ以上の長いのがいいな。アンナはその子に声を掛けて励ましてあげて」
言われて、エドは直ぐに茂みに飛び込んで行った。リオは、戸惑いながら、僧衣を脱ぐ。アンナマリーは少女に「もう大丈夫だからね」と声を掛ける。
ダンは呼吸を整えながら、着ていたシャツを脱ぐ。そして、グッタリしている少女に着せる。
「ダンって、エドと違って紳士だよね。エドはチラチラこの子の裸見てたもん」
アンナマリーが囁くように告げ口する。
「見てねーーーーし!んなガキの裸に興味はねーし!」
さすがに行動が早いエドは、すぐに目的の枝を見つけて持ってきていた。しかも地獄耳だ。
「自分だってガキなのにね」
ようやく息が整ってきたダンが、苦笑しながら言う。
「くあああぁぁ!俺だってモテるんだ!!」
確証も無いし、実感も無いままエドが吠える。
「まあまあ。それよりも、さすがはエドだ。ぴったりの棒を見つけてきてくれたよ」
ダンが褒めると、エドは胸を張る。
「おうよ!」
「エドって、チョロいね」
「シ~~~ッ!」
アンナマリーの呟きに、リオが慌てる。エドはしっかり聞こえていたようで、ジロリと2人を見る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます